巻ノ二十九 男と男の男の世界
「で、一体何の用かしら?変態王」
顔に跳ねた血痕を綺麗に拭うと、マリーベルはアルフォンソに向き直る。
会話をふられた本人は、うれしそうに身をよじると、
「もぉ、ひどいなぁ~人を変態みたいに言ってぇ☆お・し・お・きしちゃうゾ♡」
ゴバッ!!と、結構全力で実の父親を殴り飛ばす。
壁にめり込んだアルフォンソは、笑みを崩さない。
「悪いがそんなマゾっ子プレイは僕には通用しないのでね。なんせ僕は超爆裂美貌神並完璧超人美形王様だからね☆」
続いてズガッシャア、と派手な音とともにアルフォンソの顔面に全長二mほどの大剣が突き刺さる。
「はてしなくウザい王様ですわね。なんならサックリ粛清いたしますのよ」
大剣の柄を握って額に青筋を浮かべるハミルトン。
「ゴ…ゴフッ…血に染まっても僕は美しいなぁ…」
「というかお父様!剣がめり込んだせいで顔が天才バ●ポンのレレレおじさんみたいになってる!!その目!!」
「やりすぎましたの(プッ」
「無問題。ちゃあんと顔のスペアはもってるのさあ」
バリバリと顔の皮を剥がして新しい皮膚を張り付ける。
「ちょ、まって!お父様顔の皮違うから!!美空ひ●りの顔になってる!!」
「ん?ああ、間違えてしまったようだ。まあ貼り直すのめんどいから今日はこの顔でいくね」
「イエス!マイファーテル!!」
顔だけ美空ひ●りのアルフォンソに膝を折る。
「あの…それで本題は何処にいったんですの…?」
呆れたハミルトンの疑問に、アルフォンソは「ああ、忘れていたね」と思い出したように言う。
「そうだった、忘れていたよ~ちょっとこっち来て~」
「?」
ハミルトンに近くに来るよう促す。
パンツ一枚顔だけ美空ひ●りのアルフォンソに警戒しながら近寄った。
そして、彼はハミルトンの耳に顔を寄せて甘い声でこう囁く。
「ああぁ~ん♡」
ドッガアアアアアッシャアアアアアン!!と大剣を薙ぎ払う。
かろうじてハミルトンの一撃をさけたアルフォンソは再び彼女の後ろに立つと、
「ううぅ~ん♡」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!ゴッッバアアアアアアアアアアン!!
「なんなんですの!?なんなんですのさっきからぁぁぁ!!腐れこの吐息男ですのぉぉぉぉ!!!」
めちゃくちゃに剣が振り回され、部屋はほぼ全壊する。
「と、いうのは冗談でキミ、お見合いすることになったから」
「………………は?」
ピタリとハミルトンの動作が停止する。
一拍間をあけてから、
『はああああああああああああああああああああああああああああああっ!!??』
女三人の声が響き渡る。
先ほどまで会話に加わっていなかった佳奈だが、実はマリーベルに気絶させられていて今起き上がった所だったのだ。
「いいなぁ~佳奈ちゃんもお見合いしたいい~」
くねくねと体をくねらせる佳奈を見ないようにして、アルフォンソは手を振りながら全壊した部屋の窓から飛び降りる。
「お見合いは明日のお昼に城の庭園だからよろしく~」
………そんな訳でハミルトンはお見合いをすることになった。…ですの。
と、いう訳で南中高度が最も高くなったお昼時。
(ちなみに南中高度という言葉は作者が理科で習ったばかりなので使ってみたかっただけ)
バラの花が咲き乱れる庭園に、ハミルトンはおめかしして立っていた。
ぴっちりと整備された芝生に、色とりどりの鼻腔をくすぐる匂いを放つバラ。そして澄んだ水があふれ出す庭園。
今にもクラッシック音楽が流れだしそうなこの場所は、まさにデートにはうってつけだろう。
(遅いですわね…)
ここで待つこと数十分。ギラギラと照りつける真昼の太陽の眩しさに、ハミルトンは目元を覆った。
本日の彼女の服装はオレンジ色のドレス。コルセットのせいで、なにやら息苦しい。
(あと三十秒以内に来なかったらミンチですの)
そんなちょっぴり危ないことを呟くハミルトンを見つめる影が三つ。
エルモの着ぐるみで変装(?)しているのは、佳奈、マリーベル、アルフォンソという面子だった。
「ふーむ…デートにオレンジ色のドレスか…彼女ならピンクあたりが妥当なのだが」
「なにさりげなくファッションチェックしてんですかお父様は」
「いっえ~い佳奈リンだじょ~ん」
茂みに隠れながら小声で話し合う三人。(もっとも一人、あきらかに会話がかみ合ってないヤツがいるが…)
「と、いう訳でここから先は超絶美貌完璧超人王のアルフォンソと」
「…そんな変態王の娘のマリーベルと」
「あっ、ちょうちょだ~」
「…でお送りいたします」
明らかに嫌そうな表情で言うマリーベル。
「それにしても遅いね…淑女を待たすなんて一体どういうことだ」
「と、いうか相手は誰なんですか?」
「それは見てからのお楽しみという奴だよ」
「あれはアゲハ蝶っていうのか~じゃあアゲたんだね~」
「あ、ほら。相手がきたようだよ」
「え…あれってまさか…」
「佳奈とアゲタンはお・と・も・だ・ち!」
「そう。彼こそがお見合いの相手だ」
「あれは…」
その視線の先にいた人物は、超美形完璧執事のユージンだった。
「ええええええええっ!?お父様、なんで彼が!?」
「ふむ。何か問題でも?」
「いやいや、ちょっと意外だったというか…」
「アゲアゲタンタンアゲタンタン♪」
「まあ面白そうだから、ここで見物しようではないか」
「…先の展開がよめません」
「佳奈リン、悩殺ビーム!!」
そんなこんなで三人が騒いでいるのと同時刻。
「…な・ん・で貴男が此処にいるんですの!?」
「はあ、何でと言われましても」
「もしかして貴男が私のお見合い相手ですの!?」
「そのようです」
「はぁ…こんなゴボウ男よりも、私はアルフォンソ様がよかったですの…」
「は?何かおっしゃいましたか?」
「ななななんでもありませんわ!!(アセアセ」
さらに、佳奈達とは別で、そんな二人のやり取りを眺めるものがいた。
それは、長身の男だった。顔立ちは少年に近く、まだ幼さが残っている。
髪の色は濃い藍色で、サッカーボールが似合いそうな爽やか系の男だ。
超ゴッツイ黒塗りの望遠鏡に、ユージンとハミルトンの姿を映すと舌打ちする。
「………許さない」
口の中でポツリと呟くと、辺りにジャカッ!!という金属音が響いた。
その音は、少し離れたユージンとハミルトンの耳にも届いていた。
最初に反応したのはハミルトンだった。ピクリと顔を上げ、警戒した様子で辺りを見渡す。
「今の音…」
「ええ。銃器でしょうかね。いずれにしろ…」
「私達は、狙われているということですわね」
ハミルトンは姿勢を低く落とすと、ドレスの懐から刃渡り十五センチをゆうに超える、完璧銃刀法違反グッズ(大剣)を取り出した。
ユージンも、二代目クジャクヤママユ丸を抜く。
いつ、来るか。
二人は動きを停止したまま、相手の出方を待つ。ピリピリとした緊張感が辺りに漂よった。
ザ…と、一陣の風が吹く。
それが、合図となった。
ドガガガガガガガガガガガッ!!と、凄まじい銃声が響き渡る。
二人は、横に転がり間一髪でこれを回避した。後ろにあった噴水が粉々になり破裂する。
すぐさま体勢を立て直すと、こんどは反撃に向かった。
相手が潜んでいるであろう場所に向かってハミルトンがダイブすると、自身の身長ぐらいはありそうな大剣を薙ぎ払った。
遮蔽物の役目を果たしていた木々がまとめて薙ぎ払われる。
が、相手は先に動いていたようだ。
ハッ、と気づいたハミルトンだがもう遅い。相手はすぐ背後にいた。
振り返ろうとしたが首を掴まれる。なにか長い棒のようなものが頭にあてられた。おそらく、小型の拳銃だろう。
「ハミルトン様!」
ユージンは近寄ろうとしたが、
「動くな。さもないとこの女の脳天をブチ抜く」
言葉でそれを静止させられた。
仕方なく動きを止めて、ハミルトンに拳銃を押し当てる男を睨みつける。
「何者だ」
男は、口の端を数ミリ吊り上げて笑う。
「ヴェルカラ・コレーヌ。知らないとは言わせない」
「ま…さかコレーヌ家の息子か!?あの『鋼の銃』を所持している貴族の…ッ」
「ほう。コイツのことも知っているか。それは誉めてやろう」
ヴェルカラと名乗った男は、ハミルトンに押し当てているのとは逆の手で持った銃をユージンに突き出した。
「コイツは一発で約340発の弾丸を発射する『死の銃』だ。お前に勝算はない」
「……ッ!」
ユージンは歯噛みする。
「身体中をブチ抜いてほしくなかったら、今からオレの言うことを聞いてもらおうか」
この状況はマズい。どんな要求を出されるか知らないが、従わなければハミルトンの命はない。
いや、おかしな素振りをしただけで340発の弾丸が発射されるかもしれない。
ユージンは、次の言葉を待った。
要求。
それは。
「服を脱げ。そしてそこに仰向けになれ」
「…………………………………は?」
ヴェルカラは両目をカッと見開くと。
「いいから脱げえええええい!!オレはもう欲求不満なんだああああ!!誰かオレの性欲を満たしてえええええええええ」
「…えーと」
「うおおおおおおおおお、男の身体の神秘いいいいいいいいいいいい!!もうハスハスしちゃううううううううう♡」
「あの…」
「あああああああああムラムラするううううううううっ!!」
ジャッバアアアア、と目と耳と口と鼻と全身の毛穴から興奮のあまり血が溢れるヴェルカラ。首を掴まれたハミルトンはその血の雨をまともに浴びる。(そして気絶)
「………………………………つかぬことをお伺いしますが」
「何だああああ!!あと三秒以内に言わないとオレの股間がベクトル変換んんんんんんんんんんんんんんん!!」
「普通、そういうのは女性とするものなのでは…?」
「うっるせええええええええ!!女なんてくそくらえだあああ!!世の中のすべての美男は俺の物おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あの、貴方も男では…?」
「そうだ!オレは漢だあああ!!でも男と男は男の世界で男なのは男だあああああああああああああああああああああああ」
「…意味が理解しかねますが」
「男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男」
「げっ、口から何か出た!それ絶対ゲ●だよね!?」
「ぐ…ぐえっぷ…は、早く…お前の【青少年に支障をきたす場合がおありですので、一部音声を乱しております】をオレにくれえええええ」
「いや、貴方こんな健全な小説で何言ってんですか!!ちょ、誰かこのブッタイ撤去してください!!」
「R18R18R18R18…」
「ブツブツ言いながら接近しないでくださいいい!!もう芦田●菜ちゃんの歌に合わせて泣きますよ!!」
「うるせぇ!!オレの野望を叶えてくれええええ!!」
「もっとまともな野望を持てよ!!」
「さあさっさとお前の【青少年に支障をきたす場合がおありですので、一部音声を乱しております】をオレに!さもないとお前の【青少年に支障をきたす場合がおありですので、一部音声を乱しております】
が【青少年に支障をきたす場合がおありですので、一部音声を乱しております】に【青少年に支障をきたす場合がおありですので、一部音声を乱しております】みたいになって【青少年に支障をきたす場合がおありですので、一部音声を乱しております】だぞ!!」
「いやいや今の会話の九割処理が加えてあって全く理解不能ですよ!!あっ、そんなタイを掴むなあああああああ!?」
「ふふふ…喰ってやる…」
ユージンのタイが解かれる。露わになった白い肌。
「ぎいやぁああああああああああああああああああああああ!!!」
「さあ、泣いて跪けぇぇぇ!!そして脱げええええ!!」
「いやあああああああああああああああああああああああっ!!」
凄まじい力で押し倒されたユージン。ヴェルカラの吐息が耳にかかる。
そして二人は…
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そんなちょっと色々とアレな感じになっている頃、マリーベル達はというと…
「ね、ねえお父様、どうなっているのあれ…」
「ん~別に騒ぐほどのことではないと思うが」
「いやでもちょっとアレはまずいでしょ…なんか押し倒されてるし…」
「愛だよ、愛」
「さあ、佳奈リンとのオママゴトの時間だよーっ!!」
若干一名、リアルに男同士でやっている人物がいるため、あまり大事にはなっていないようだ。
「だからやめろっていんてんでしゅおおおおう!?」
「フッ…優しく扱ってあげるよコ・ネ・コ・チャ・ン♡」
ヴェルカラに倒され、必死にもがく上半身裸のユージン。
だがヴェルカラは普段から鍛えているのか、まるで歯が立たない。
マジで絶体絶命のピンチである。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
死にもの狂いで力を込め、ヴェルカラの腕から脱出する。だが、そのままバランスを崩し一緒に倒れ込んだ。
「!?」
案外派手に転んだようだ。目を開けて起き上がろうとするが、そこで違和感を覚えるユージン。
何かが、オカシイ。
マサカ、コンナコトッテ。
神様は酷すぎると思った。あと数センチ転ぶ起動がずれていれば、こんなことにはならなかったはずだ。
――二人の唇が重なっていた。
「………………。」
「………………。」
刹那、呼が止まる。
比喩ではない。本当にその場にいた全員の呼吸がとまった。
そして三拍ほど間をあけて。
『ぎいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』
ユージン+マリーベルの悲鳴が重なる。(ちなみにこの時点でマリーベル気絶)
「やったあ♡オレの初めてを捧げちゃったあ♡」
ヴェルカラだけが瞳を輝かせた。
「あ…な…た…なんてことを…」
ポン、と軽い音とともにユージンが消える。
いや、消えたのではない。またしてもここで第二のあり得ないことが起こった。
―――――ユージンは、可愛らしい妖精の姿になっていた。
続かない。
…最初に謝罪します。本当に、まことにスミマセン。(切実)
と、いう訳で作者其の一、頼んだ!!(しかも丸投げ!!)