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巻ノ二十七 シリアスより帰還、ですの

目の前で繰り広げられる光景に、ハミルトンは、なすすべもなくくずおれた。

恍惚とした表情で、鈍く瞳を輝かせるのは、先ほどまでバカな掛け合いをしていたはずの少女。

残念頭とどんなに罵っても、やはり彼女はバラの女王クイーン・オブ・ローズ。その圧倒的な力を前にして、自我を保つのが精一杯。


――全く…情けない。


敬愛するアルフォンソ様より、せっかく授かった使命なのに。命を賭してもなさねばならぬ、わたくしの全てなのに。いったいわたくしは何をしているのだ。

そう自分を叱咤するも、濃厚すぎる魔法の気配に、恐怖と畏敬が身を蝕む。


くっと唇をかみしめた。

口内に広がる鉄の味だけが、妙に鮮明に現実を感じさせる。


――わたくしには、止められない。


絶望を告げる声だけが、神託のように駆け巡る。

吐き気がして、頭が回らない。思考がまとまらない。ただただ、恐い。

歯の根がかみ合わないまま、カタカタとだけ鳴き続ける。


「ダメ…ですの。だめ。だめだめだめ」


出来ることはある。止められなくったって、それが傍観者になる理由になるだろうか。

否。そんなことはない。


「ま…ほう……を」


この世界には元々魔法が溢れていた。

バラの馥郁たる香りに引き寄せられた精霊を、うまく使いこなしていた。バラと人間は共存関係にあった。

バラというのは、人間の亜種だ。はたまた人間がバラの亜種なのかもしれないが。


バラはまずこの世界に生まれる。その時点で自我はない。

しかし成長していき満開の花が咲くころ、生き物としての心が産声を上げるのだ。


しかし花は花。意識はあろうとも、そこから動くことも伝えることもできない。

ただ黙って風に揺られ、無造作に引き抜かれるのを見ているだけ。


だからバラは精霊が好む姿に、自らを変化させた。そして自らの力と精霊から奪った力を練り合せて、別の姿を作り上げた。

しかし彼らは、この世界に存在することはできなかった。死者が黄泉に旅立つように、精神だけの彼らはとどまれなかったのだ。

そんな彼らが住むための世界を作った。それが初代、バラの王。


だが、核である花はこの世界から動かせなかった。

だからこその共存関係。


バラは人に魔力を与え、人はバラに永劫の安全を約束した。

けれどそれは30年前に破られた。無残に引き抜かれたバラによって。しかも、それを行ったのは…。


――ちがう。

そんなことは今はいい。そうではなくて。わたくしは。


「ま、ほぅ…を」


それで何ができるとも思っていない。自分の力くらいで、バラを統べる王を止められるなどと、そんな思い上がりはしていない。

けれどただ少し、被害を減らすくらいのことはできるのではないだろうか?

そう考えた、瞬間。

視界がブレるほど強く、頬をぶたれた。痛みを意識すると、わずかに思考が明瞭になる。

ばっと振り返ると、そこには王女がいた。


「ふぇる…でに、あ…さま?」

「今はマリーベルの方が都合がいいわ。王女サマは現在、お城で式典に参加中だもの」

「は、はい」

「それよりも」


マリーベルはハミルトンをきつく睨んだ。


「今、何をしようとしたの」

「え?」

「何をしよとしたって、聞いてるの」


刃のように鋭利な叱責に、ハミルトンは子供のようにうつむいた。

マリーベルははぁとため息をつき、どこからか小箱を取りだす。30年ほど前は一般に出回っていた生活用品だ。魔力が詰められた箱。携帯魔力。王城には回収されたこんなものが、大量に保管されている。

それをぽんっとハミルトンに投げる。


「貴族向けに市販されていた高級品よ。この辺りには魔法具も設置してきたし、少しくらいは持つはずよ。まぁ相手があれじゃあどうなるか分かったもんじゃないけれど。それであなた何をしようとしたの?」

「…魔法を、使おうとしました」


項垂れながら言うと、マリーベルは始めて小さな笑みを浮かべた。

全くもう、というような優しげですらある笑み。


「無理やり魔法を使った者のなれの果て『千の茨の死装束フューネラルドレス』ってどっかの詩人が言ったらしいじゃない。全身に小さな穴があいて、その全てから真っ赤な血があふれて全身を染める。しかも苦痛に悶え続けて、でも致命傷を与えられることはなく、最後は狂って死んでいく」


が、内容は全く優しくなかった。

思考がはっきりして、正しくそれを理解すると急にぞっとした。

マリーベルに止められていなかったら、今頃自分は血まみれで壊れていたのだ。

ハミルトンがしょんぼりすると、マリーベルはもう何も言わなかった。


瞬間。


パリンと何かが割れるような音がした。次いで濃厚な魔力の渦が侵入してくる。マリーベルの舌打ちも、それに飲み込まれた。

箱が砕けた。魔法具が軋む。

急に風が戻ってきて、ふらついてしまった。


正直、特に作戦も対策もなかったマリーベルは、苛立まじりに髪をかきあげる。

ハミルトンが行おうとしたことはバカらしいと思う。

でも、確かにそれは自分にできる少ない選択肢の中から選んだことなのだろう。そう、認める気持ちもある。

このバカけた力を止める方法なんて、本当にあるのだろうか?――いや、あるはずだ。


「あいつはバカけてる。頭も性格も容姿もバカけてる。そんな奴を止めるの、バカけた方法で十分なはずよ」


王女様のとんでも理論に固まるハミルトンに、マリーベルはそっと耳打ちした。

彼女の肩が跳ねる。超嫌そうだ。


「本気、ですの?」

「もちろん」


急にムードが一変してしまった。それがいいのか悪いのかは不明。

とりあえずマリーベルは、小柄な少女を無理やり怪物の方に向け。満面の笑み。


「さあ、行って御覧なさい。せーの」


ハミルトンはぎりぎりまで迷って結局腹をくくった。



「きゃぁあああああああああああ、かなさまぁああああああああああああ!!!????すてきぃいッッッッ、こっちむいてぇええええええええええええ」」



マリーベルがうくっと変な音をたてた。若干笑いを堪え切れなかったらしい。ハミルトンは羞恥に顔を真っ赤にした。刹那。

魔力の渦が、格段に弱くなった。

これにはハミルトンだけでなく、発案者も絶句した。


――なんて、なんて展開なんだっ!


今がチャンスだ!これでいいのかとも思いつつ、せっかくのチャンスを棒に振るのはバカだと、悲鳴のような叫びが重なる。


「オキレイですの」

「アクシュしてください!」

「オウツクシイですわ」

「テンサイよ」

「ビボウ」

「サイショクケンビ」

「セカイイチ」

「イチバンよ!」


信じられないことに、どんどん魔力が弱くなる。

2人はなんだか脱力した。自分たちがほんの一瞬でも何を悩んでいたんだろうと。特にハミルトンは命まで捨てようとしただけに、ダメージは生半可じゃない。

しかしどうも今一歩。その状況に焦れたマリーベルがさらにトンデモを口走る。



「あああああ!見て、あそこに超美少年がいるわッしかも見るからにドSの変態野郎よ!」



魔力の気配が、遠のいていく。






佳奈は、恍惚とうっとりと、自分の力に酔いしれていた。

この国のこの世界の全てが、佳奈の手に乗っていた。

全てが見える。全てが聞こえる。


限界まで広げた意識のせいで、感情がにぶくなっていた。だからこそ全てを眺められる。

この世界には際限ない残酷さがある。心などあれば、ほんの一日耐えることさえ不可能だろう。

だからこそ、世界に救いはない。神は何も感じないから。


真黒だった、真っ暗だった。けれど同時に、光に溢れ真っ白だった。

世界には常に矛盾した2対がある。それが世界だから。


佳奈は、自分がどれくらいここにいるのか分からなかった。

生まれた時からの気もするし、数秒前のことにも感じる。

この場所では時なんて関係ないから分からない。必要ないから“ない”のだ。合理的であり、原始的。


ここには全てがあるけれど、どれに触れることもできない。

けれど退屈することもない。感じない。ただ分かるのは、強大な力に包まれていることと、それが自分のものだということ。だからそれだけに狂喜する。


ひもをつけた人形いのちを自分の指にくくりつけているような気分だった。


その永劫の空間に不意に声が響く。

これまでの声は、自分から干渉したものだった。けれどこれは、明確に自分へと向けられた声。



『きゃぁあああああああああああ、かなさまぁああああああああああああ!!!????すてきぃいッッッッ、こっちむいてぇええええええええええええ』



ずっと不細工と言われ続けた佳奈は、本能的に歓喜した。

自分から自分ではない。他人に褒められ、認められる喜び。

それは人の感情だ。


それに引きずられるように、知覚範囲がぐっと狭まる。

しかもその後も、自分を讃える言葉が続いた。それに意識を凝らし、その分だけ魔力の渦は弱くなる。しかしそれは、まだ決定打にはならない。そこへ。



『あああああ!見て、あそこに超美少年がいるわッしかも見るからにドSの変態野郎よ!』



どこ!?

思わず探そうと、一ヶ所に意識を集中した。

その瞬間、全てが弾け飛んだ。






気づけばそこは夜の森。

淡い月光の元に、2つの人影があった。

佳奈はしばらく思考がまとまらなかった。


近づいてきた2人が見るからに外国人なのを見て、首を傾げたほどだ。

しばらくして思考がまとまると、今度は自分が何をしているのか分からない。


が、なんだか2人…マリーベルとハミルトンは駆けてきている。

佳奈の少ない脳みそと知識でも、なんかこれが再会の感動シーンであることは理解できた。


だから佳奈はお約束に則って、両手を広げて彼女たちを迎えた。が、


「ぐぅをふぉ」


なぜか頭の両側から激しい衝撃が。脳が揺さぶられて、たってもいられず佳奈は座り込んだ。

そこにさらにリンチよろしく足蹴にされまくる。


「なにやってるのかしら。迷惑かけて。死にたいんのかしら死にたいのね!」

「残念頭のくせに迷惑かけてっですわ。今この場で殺ってやりますの」

「私は寛大だから選ばせてあげる。磔刑と水攻めと鉄の処女。さあどれがいいかしら!」

「もっと散々いたぶった後に殺してやりますわ」

「ふふ知ってるかしら?ハミルトンはクレスティア随一の暗殺者であり、自白愛好家なの。上手に自白させるのがだぁあいすき♡」

「そうですわ。ありとあらゆる手を尽くしてやりますの」

「その後両足に馬車縛りつけて股から真っ二つにしてやるわ」


ぎゃーぎゃー頭上で交わされる恐ろしい会話に、佳奈は震えあがった。


「お、お許しください。お代官様」

「これ以上ふざけたマネすると2対のパーツ全部1個にするわよ」

「ごぉおおめんなさいッッ!!!!」


結局許しは貰えず、リンチ続行。ふっ、儚い命の灯火さ。とかカッコイイこと言ってみたり。



まあとりあえず、かくして色々解決!

こんな感じで、佳奈は魔法を習得したってことでいいでしょうか。


お粗末さまでした。

お、お久しぶりです。

というか読んでいる人がいるかもしりませんが。


どうでもいい話なんですけれど、もうすぐ作者2がやってくるんですよ!

みなさん乞うご期待!!

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