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巻ノ二十六 修行は危険の香り、ですの

「ところで、修行ってなんですの?」


王宮を出て2日。ハミルトンに先導されるまま歩かされた果て、待っていたのはそんな一言だった。

佳奈は巨大なリュックに押しつぶされながら激しく顔面を引き攣らせる。


「?何ですの?醜い顔が見れたものじゃなくなっていてよ」

「……泣いても、いいですか」

「気色が悪いからわたくしが見えない場所でなさいよ」


というか、泣いた。

そこはなぜか山の上だった。どうやら随分と高いらしく遠くに王宮が見える。雲が随分と近かった。

佳奈はラフな格好だったがかなりズタボロである。対してハミルトンは、繊細なドレープをたっぷり重ねたドレス。傷ゼロ。

ここに他人の目があれば、捨てられた奴隷とそれを助ける女神の構図が成り立つだろう。

しかしその女神は、幼く見える容貌に一滴の笑みをにじませることなく仁王立ちする。


「修行と言えば何か、言ってみるんですの」

「えー修行ーぉ?」


残念ながら現代日本に、修行を行う風習はない。いくら佳奈があらゆる面で浮いていてもだ。

知識があるとすれば、いつとも知れぬうちに刷りこまれた映像。

滝に打たれたり…神社の階段を兎飛びしたり…裏山を走ったり…座禅、とか?


「やっぱり滝かなぁ」

「滝ですの?」


ハミルトンはしばらく沈黙し、すぐに満面の笑みになった。そうすると可愛らしさが際立つ。

そして歩き出した。


「滝はすぐそこですわ」






というわけで、なぜか滝。

お約束とでも言おうか?佳奈は現在、滝に打たれている。


「むりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」


水の音よりさらに大きく、佳奈の叫びは響いた。それにハミルトンは満足そうにしている。


「修行って感じになってきましたわ。アルフォンソ様はきっと褒めてくださるんですの」


そして滝の見上げて、声を張り上げる。


「いいですわよ!!」

「なにがぁああああああああ!!??」


佳奈の絶叫はむなしく響く。その時急に空がかげる。それも佳奈の周りだけ。

ふっと視線をあげて佳奈は言葉を失った。

これまたお決まりの展開。丸太が、眼前に迫っていた。






「さあ起きるんですの。次の修行ですわ」

「…返事がない。ただの――」

「変態のようですの。役に立たない変態は社会の害ですの。害虫は駆除しますわ」


ハミルトンは信じられない動きで、短剣を目玉にすれすれにセット。


「暗殺術では国でも1.2を争いますの。跡形もなく、キレイに処理してあげますわ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もうしません」

「頭の悪い子には身体で教えてさしあげて♡が我が家の家訓の1つですの」


そういうなり、短剣が小さくなぎ払われた。

額に稲妻形の傷ができる。カナー・ポッター。

そして例のあの人はほほ笑む。ちゃんと鼻はあるのでご安心。


「ついでに言うなら、迷うなら殺しちゃえー☆も我が家の家訓ですの」

「精一杯ハミルトン様のお役にたちますぅうううううううううううううううううう」

「分かればよろしいんですの」


ハミルトンは佳奈の背中を踏みつけて、やはり笑み。


「ちなみにここは我が領地ですの。中々気に入っているのだけれど、屋敷を作っていいないんですわ。別荘が欲しいですわね」

「は、はい」

「やっぱろ別荘は頂上がいいですわね」

「は、はい」

「まずは木々を伐採ですわね♪」

「しょ、承知しました。ご主人様」


佳奈はやっぱり泣いた。






「まあ斧でも持たせて、木こりの真似ごとをさせても面白いですわね」

「マジでか…?」


目の前に広がる密集した木々の海を眺め、佳奈は死んでいた。精神的に。

ハミルトンがふんっと鼻を鳴らす。


「でもこののろまは役立たずなんですのね。そんなことをしたらわたくしの別荘は一生完成しないんですわ」

「え、じゃあやっぱり中止ちゃう?」

「これは修行なんですの」


ハミルトンは腕を組んだ。


「魔法ですわ」


おっと。なんだか真面目っぽいぞ。

佳奈はちょっと慌てた。というか、何で滝に打たれたのだろう?


「クレスティア随一と称されたこのわたくしが指導するんですの」

「えー…でも私、魔法とかよく分か――」

「黙るんですの。あなたに選択権を与えた覚えはありませんわ」

「……」

「ただわたくしの言うとおりにするんですの」


捲し立てられて、佳奈はうふっと笑った。

やっぱろ人間、賢くいきなきゃ。


「分かりましたー☆あたし、ぜーんぶ言うとおりにしちゃいますっ☆」


だれ?とかつっこんではいけない。

なんだかこの世界にきて、世渡り上手になった気もする。

ハミルトンは満足そうに頷いた。


「でも教えようにも今わたくしは魔法が使えないんですの」

「え?そうなの?何で?」

「アルフォンソ様の言うとおり、残念頭なんですのね。何度いわせるんです?今この世界で魔法を使える人は存在しないんですの。アルフォンソ様に害なすあの勘違い王子とあなた以外にはですけれど」


ああ、なんか聞いたきもする。

しかし…。


「それならどうやって教えてくれるの?」

「1から教える必要なんてないんですの。だってあなたはもう魔法を使っていたんですもの」

「ええ…そんなこと言われても……」


使おうと思うと使えない。勢いか、または危機的な状況があって使えていたのだ。

いざ考えてみると、いったいどうしていたのやら。

ハミルトンはふんと鼻を鳴らし、腕を組んだ。そうすると、頭一つ分も小さな少女に見下ろされているような気分になった。


「あなたには無駄な固定観念が染みついているんですのよ。これだから外の世界の住人は……。仕方がないですわね、アルフォンソ様に頼まれってしまったのだからわたくしが教授して差し上げますわ」


そういうなり、佳奈に荷物を下ろすように指示を下す。


「静かな方がいいですわね。森に入りますわ」


そしてさっさと歩きだした。

佳奈も慌てて追いかける。

夕方の森は薄暗く、木々の指先からこぼれ出す飴色の空が際立って見えた。

それと同じ甘い色の髪を持つハミルトンは、まるで太陽と月の狭間に住む精霊か何かのようだった。


「さあ、さっさと始めるんですわ。ばあやの歯並びより酷いスカスカ頭には一分一秒もおしいんですの」


いや…悪魔かもしれない。

とりあえず佳奈は、悪魔師匠に従順に従う。


「何すればいいの?」

「そうですわね…とりあえず木の葉のざわめきでも聞いているんですの」

「はぁあ?」


ギロリと睨まれる。それになぜだかキュンとする私は変態だろうか?

うん。とりあえず実行しておこう。


ふぅーと息をはく。

意識して見ると、静かだと思った森の中はざわめきに満ちていた。

ごくわずかの微風でも、木々たちは敏感に感じ取り、くすぐったそうに身体を揺らす。

何やら生き物の声のようなものもする。

小さなさえずりが聞こえた。羽ばたく音がする。

地を覆う野花たちは、愉快そうにざわめいていた。


思わずくすりと笑みが漏れるほど、そこには“声”が溢れかえっていた。

そこに、ハミルトンの声が心地よく響く。ごく自然に、森に入り込んだ声だ。


「自分も森の一部になったように意識するんですの。森のエネルギーが身の内に入る…それと同じだけ、森に出す……。循環を、巡りを強く意識するんですわ」


声に合わせるように、ごく自然にそれはなっていた。

清々しくも力強い森の力が、体内に満ちる。

何やら妙な解放感に包まれた。気持ちがいい。まるで自分が空気にでもなったようだった。

空にたゆたうような…小さな頃に想像した、雲の乗り心地にも似ているかもしれない。どこまでも行けそうな気がする。


「意識を、大きく広げるんですわ。大きく両手を伸ばすんですの。大空を全て覆い尽くして、自分の中に抱え込むんですのよ」


すぅと奇妙な風が吹き抜けた。(作者は真面目に某伝説の勇者様の話を再現したくなりました。頑張ってお付き合いください)

それに運ばれるように、意識が大きく拡散する。霧散…といった方が正しいかもしれない。

その範囲が広がるにつれて、自我がどんどん薄れていく。しかしそれも心地よい。

きっと心を持ったまま許容できるような状態ではないのだろう、と何となく思った。もしかしたら、神様もそんな風なんだろうか?


「意思は絶対捨ててはダメですのよ。感覚を広げたまま、かつバランスよく自分の存在を意識するんですの。…そうしなきゃ、戻ってこれなくなりますのよ」


なんとなく声が聞こえる気がした。けれど上手く理解できない。…いや、理解している。ちゃんと聞こえている。けれどそれは、どこか人ごとのよう……。

その間も、どんどん感覚が研ぎ澄まされて、知覚できる範囲が広がっていく。

まるで自分が、この世界の全てを抱きかかえているように。


先ほどまではわずかだった風が、勢いを増し始める。

木々の不安げな声は高まる、生き物たちはとたんに黙り込む。

風が渦をまく。――甘い香り。この頃馴染んだ、あの香り。


「ッ!やめるんですの。そのままでは危険ですわっ!」


また声がする。でもそれだけ。

それに対して何も感じない。

ただぼんやりと、言葉の意味を咀嚼しているだけ。

だってそんなの、拾い上げるに値しない微々たるものだから。

私の抱えるこの世界の、ざわめきの1つにすぎない。

そんなものを一々聞いていられるろうか?

世界にはこんなに“声”が溢れている。

笑い、嘆き、怒り、嫉妬、憐れみ、喜び、期待、裏切り、絶望……。

誰もが自分勝手に声を上げ続ける。

その全てが、私には聞こえる。

頭が破裂しそう。

そう思ったから感覚を鈍くする。すると意味を深く考えなくなる。

鈍く、鈍く、どんどん鈍く。

“声”が、廻るめぐるメグル。

もっと意識を遠く話して…。


「自我を失うんですの!身体を見失いますわ!永遠にこの世界に揺られるつもりですの?」


聞きなれた音楽のように、それは自然と耳に入り、すり抜ける。


「もっと耳を凝らすんですの!辺りに哀れな意識の残骸がありましてよ!そのままでは…あなたもそうなりますのよッ!」


そう言われても…今でも吐きそうなほどに“声”が響くのに、これ以上耳を凝らす?

自然と身体はそれを拒否する。

視界の中には、テレビで見た田舎の星空のような景色が広がっている。

その1つ1つに触れれば、それは誰かの意識と交わる。

そう…それはまるで神のよう。

うっとりと、心地よい波に揺られた。

恍惚と、力の渦に絡みとられる。


私は神。

神は私。

神は世界。

世界は私。


どうしよもなく楽しい気分に酔いしれた。愉快で愉快で堪らない。

もしかしたら私は笑っていたのかもしれない。

誰かの悲鳴が、美しいユニゾンを奏でる。

私と誰かの二重奏(デュエット)

タクトを振る神と、世界と言う名の管弦楽団(オーケストラ)による大合奏。


ああ、バラの香りがする。

混沌が、濃厚なそれに覆い尽くされていく。


「あ、あぁあああ…」


身体の近くで誰かが呻き、膝から崩れ落ちる。

そして私は深い闇の中へと、くずおれた。

…どれだけ振りの投稿でしょう。

そしてどうしてシリアスに?

作者の気分ですかね。すいません。


う~ん。良く分からないです。

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