巻ノ二十五 新キャラ、ですの
「ハミルトンですの」
「は?」
「ハミルトンですの」
「え、だからなに?なんなの怖いんですけど」
「だからハミルトンですの」
「……」
さすがの佳奈も後ずさった。
するとハミルトンと名乗る少女もついてくる。
華奢な身体はか弱そうだが、漲るエネルギーはもはや地上のものとは思えなかった。
そんな少女に瞬きもせず見つめられたら、なんか泣きそうにならないだろうか?
歓迎パーティー終了後、一夜明け部屋から出た直後の出来事だ。
「あの…どいてくれませんか……?」
「ハミルトンですの」
先ほどからずっとこんな感じ。
ただハミルトン、ハミルトンと繰り返す。赤ん坊が初めて知った言葉のように、まるでそれが万能の意味を持つとでも思っているように。
…いや、そんななんか真面目な解説はいいのだが。
「ハミルトンさん…?だからどい――」
「そうですわ。わたくしはハミルトンと申しますの」
初めて違う単語を喋った。
佳奈は感動に打つ震えたが、ハミルトンはやれやれと言うように首を振った。
「本当に残念頭ですのね。その頭に詰まっているのは不埒な妄想だけですの?わたくしはもう128回も名前を名乗っていてよ。いつまでたっても名を呼ばないんですもの。疲れましたわ」
「なぜに不埒な妄想…」
いつからそんなキャラになったのだろうか?
そんな役目はあの変態王に任せておけばいいのだ。
というか、こいつは誰だ。
「だから、ハミルトンですの」
「心を読むな」
さらにドッと疲れた。
佳奈は両手をあげて見せる。
「わかった。何が分かったか分かんないけど、とりあえず分かった。で結局――」
「きゃぁああああああああああああああああ」
絶叫が轟いた。
佳奈は耳を塞ぐこともできずに凍りついた。
しばらくして正気に返った佳奈が、慌ててハミルトンを止めようと手を伸ばす。
「触れるな下郎ぉおおおおお変質者ぁあああああああああああだーーーーーれーーーーーーかぁーーーーーーーーーー」
全く取り合ってもらえない。
すると周りに人が集まりだす。みな一様に青い顔。
しかも全員武器持参。大量の花瓶がこちらに向けられている。
「誤解ぃいいいい誤解だからぁああああ」
佳奈が再び両手を上げる。
空気が凍りついた。
花瓶が…宙を舞った。
「ごほんっもう何なんですのぉ」
真っ赤な顔をしたハミルトンが吐き捨てた。
佳奈はなぜか正座して、大量の女の子に囲まれている。なぜか全員目を合わせようとしない。
「で、両手を上げることの意味を知らないと言いますの?」
「え、ええっと多分、あなたたちの知る意味では」
「ふん。変質者め、ですの」
「いやいや、なんかギャグみたいになってるよ」
「それで、意味は…意味は……」
周囲の全員の顔が熟れきった果実のようになる。
ハミルトンがぼそぼそ言う内容に佳奈も次第に慌てだした。だ、ダメだ読者さまには聞かせられない。
ここは主人公としての権利を最大限に発揮して。
――しばらくお持ちください。
「ごほん」
今度の咳払いは佳奈だった。
もうピーーどころか、ドカーンと被せられそうな放送禁止用語が飛び出しまくった。
ハミルトンがキッと佳奈を睨む。
「もう!何を言わせるんですのっ」
「す、すいません」
佳奈もさすがに謝った。
なんだかホントにすいません。こんな可憐な人に…なんかすいません。
佳奈にはプライドがないので、地べたに這いずるように土下座した。全員引いた。
「本当に本当に残念残念残念残念残念残念」
「怖いっ怖いって!」
「アルフォンソさまの言うとおり。何もかも残念ですの」
「言い過ぎ…って変態王ぉおおおおおおお」
佳奈は叫んだ。奴か、奴の差し金なのか。
「何しに来たの?マッチョ探し?」
「…それも否定しませんけど。わたくしはあなたに会いに来たんですわ」
「だから何しにって」
「今なお目覚め切らない残念人生プランのあなたに、魔法を教えにきたんですの」
「目覚めるって…今起きてるけど……?」
「バカは黙って聞いてればいいんですの。とりあえず、あなたはどんなに残念でも貴重な戦力なんだから、使い物になるようにしなければいけないんですの。アルフォンソさまが……アルフォンソさまが、わたくしにまかせてくださったのですわ……」
なぜか恍惚とした表情。
佳奈も引いた。
どうやら変態王の信奉者らしい。何がいいのやら。
「たとえどんなに、あなたに死んでほしくても…わたくしは我慢して、自らの務めを果たすんですの!」
「いやいやいや!聞き捨てならないからねっ死んでほしいってなに?なんなの?」
「つまりわたくしはあなたの師匠になるんですわ。跪いて教えを乞うんですの。ハミルトン様と呼ぶんですの。泣き叫ぶがいいわ、そしてわたくしに救いを求めるんですの!!!!!」
「危険だ…やばい危険な奴が増えた」
「さあ、呼ぶんですの!このわたくしが、下賤なあなたに名を呼ぶことを許しているんですのよ。さっさとなさい」
「ひっなんか出てるよ!出てるって!!黒いのがッ」
「呼べっていってるのよ…ですの」
「演技か!演技なのか!?」
ハミルトンが足を一振りした。なぜかクツの底から刃物が覗いて、首に……首筋に。
「た、助けてください。ハミルトン様」
「分かればよろしいんですの。さあ、アルフォンソさまに褒めていただくんですの。そのために早くしないといけませんわ。早くするんですの」
「な、何を…?」
「修業を始めるんだから、準備に決まっているんですの」
「し、修業ぉおおおおおお????????」
こうして、なんだか分からんが修業が始まったのだった……ですの。
あ、頭がおかしくなりました。
とりあえず、平和な日常がやってくるってことで(いいのか?)