巻ノ二十三 変態たちの終結
「ねぇ、あの人もパーティーの参加者なのかしら?」
「さあ…でも誰も追い出さないからそうなんじゃない」
「じゃあ誰か飲み物持って行きなさいよ」
「いやよ。怖いし」
「ていうか、あれは何?」
「深く考えちゃダメよ。見てもダメ」
「そうね…そうよ!みんな、これからアレを気にしちゃダメよ!全力でド無視よ!えいえい」
『オー!!!』
なんて話をされていることも知らず、佳奈はご満悦だった。
アイマスクで視界は利かないが、佳奈の周りからは勝手に人が消えていくので心配ない。
ユージンはそうそうに退散した。素知らぬ顔で使用人の中に混ざる。
「う~ん、クッキーの匂い」
佳奈はふらふらとテーブルに近づく。だけど見えない上に背中で手錠をされている。
仕方がないので、直で齧りついた。周囲から悲鳴が上がる。
「――っぅぐ…はは。あはははははは!」
正面から笑い声が上がった。
誰だろうと思って近づこうとするが、正面にテーブルがあるのを忘れていた。
悶絶する佳奈の様子に、笑声は大きくなる。
「ボ、ボクの美しさを際立たせるためにそんな格好をしたのかい…はは」
「ってその声は変態王か!」
「変態って。それを言うなら君だろう。変態残念顔女王殿」
「私のどこが変態なの!?」
「…本気で言ってるのかい?これは本物だ。正式に称号をあげようか?変態残念顔女王?」
「くぅうう…なんか意味は分かんないけどムカツク!」
「ははは……で、結局その格好はなんなの?」
玉虫色の全身タイツ。顔は某3D映画のように青。目玉の描かれたアイマスク。肉に食い込んだシャンプーハット。そこからぶら下がるカーテン。額には「肉」の文字。手錠。手袋は水かき付き。足にはビニール袋。GARASUの文字。
髪にはペンがって、おいおい。全身タイツなのに髪とか関係あるのか?…まあいいか。
楽しく思考を巡らせるアルフォンソの後ろに、そっとユージンが近寄った。
「私の判断です。楽しんで頂けましたか?」
「おおユージンか!さすが美しい君だ。完璧。まぁボクの方が美しいけれどね。この世の光は、全てボクから発生しているのだよ」
「もちろんでございます」
「っておい!お前陛下の判断とか言ってただろう!?騙したのか?騙したのかオイ!」
「それに引き換えアレは中身も口調も最悪。本当に残念顔。残念センス。残念スタイル。残念思考。残念――」
「もういいよッ」
佳奈は半泣きだった。ありがたいことにアイマスクで分からないが。
アルフォンソはまだ笑っていたが、しばらくすると息をついた。
「まあ確かに面白いけれど。それじゃあさすがにマズイかなぁ…ユージン」
「はい」
「この残念顔が普通に見えるように頑張ってくれるかい?」
「…できるかは分かりませんが、力の及ぶ限り」
「いやいやいや!普通にはなるでしょう、普通には!確かにファンタジーの主人公にあらざる体型だけど!他のみなさんが完璧過ぎるんだよコンチクショー。なんか私のほうが親しみやすいしアットホームでしょう。ねぇそうでしょう!?誰かそう言って!そうしないともう立ち直れないから!!!」
誰も行ってくれなかった。
へにゃぁ。
佳奈の心が折れる音がした。
その佳奈を、まるで汚いモノに触れるように、ユージンが掴む。
「って、なんでユージン?衣装チェンジでしょう!誰か女の子を…」
「無理だよ。だってみんな怖がってるから」
「えええ???私の魅力で、全員悩殺大作戦なのに?」
「大丈夫。残念顔君の代わりに、ボクがみんなを悩殺しておくから……ほら国民たちよ!ボクの美しさを存分に愛でるがいい!!特に健康的な肉体を持つ男性諸君。ぜひ仲良くしよう。IN THA BEDだよ。ハッハッハ」
「ヤバいだろ!あれマズイでしょ?」
「早く行きたまえQUP」
「何QUPって!タイピングでQなんて使わないから、なんか嬉しくなっちゃっただろう!」
「にぶいねぇQueen ugly pervertの頭文字だよ」
「マジで死ね!」
なんて処刑されかねない言葉を吐きながら、佳奈はユージンに引きずられていった。
「なんかデジャブだね」
と、いうわけで衣装チェンジした佳奈。
「…ぅくッ。くくくくくくく」
くぐもった笑い声。その主の姿が、今度はしっかり見れた。
ユージンはアルフォンソの脇で、申し訳なさそうにしている。
「いや…いや…ねぇ」
「申し訳ありません。私の力が及ばずに……」
「頑張ったよ。さすが君だ」
「恐れ入ります」
「何なの。もう!」
佳奈の姿はなんともコメントしがたかった。
美しくない。でも敢えて言うほど醜くもない。完全なる中途半端さ。やっぱり――。
「残念顔だねぇ」
「黙れ変態王!」
「はっはっは。嫉妬かい?しょうがないな。なんていったて、ボクは月の女神と美を競うほどの美しさ…創造神さえも震えあがった美しさなんだから!」
「黙れ若づくり!」
「君は若いのに美しくないねぇ」
完全に遊ばれる佳奈。
そこに新たに選手入場。
「あんたたち何やってんのよ」
「おや?フェルデニアじゃないか」
「…前から思ってたんだけど、フェルデニアってマリーベルのこと?」
『……』
激しい沈黙。
アルフォンソが、眉間を揉みながらため息をつく。
「残念頭」
「黙れ異常性癖!」
「どちらも正しいわよ」
「佳奈様……」
公式の場にも関わらず、使用人であるユージンも思わず口を挟んだ。
「あなた、私の自己紹介聞いてた?」
「はぁ?自己紹介?」
「シェーゼスにあった時のよ」
「……」
――回想
「お初にお目もじ仕ります。女王陛下。クレスティア王国王女のフェルデニア・エル・マリーベル・クレスティアでございます。以後お見知りおきを」
「なっなっ…!」
確かにいつも超自分勝手で、女王様な感じだったが、まさか本物の王女様だったとは…。
――回想終了
「フェルデニア。さすが我が娘だ。美しい名乗り上げだね」
「お父様に言われても」
「何だって!この朝露のように清らかで、燃え上がる炎のように激しい美貌のボクなのに……」
「…え?で?結局マリーベルはフェルデニアなの?」
「そうだって言ってるでしょ。偽名よ偽名」
「何でまた…」
「面白いじゃない」
「マリーベル…それは叔母上の名前だねぇ」
「は?叔母さん?もう良くわかんないんですけど」
「私たちみたいなのは、本気で名乗ろうと思ったら果てしない名前があるのよ。その中に親しい人の名前とかも入ってるの」
「は、はぁ」
もう佳奈はどうでもよくなった。
ため息しか出ない。
「まぁそれはいいや。それよりも気になるんだけど…変態王の隣にいるのは誰?というか何?」
アルフォンソの隣には、赤い巻き毛のヒゲが立っている。
肩幅はかなりでかい。なのに佳奈のよりも可愛いいドレスを着ている。
筋骨隆々としていて、ぜひ土木現場にいってほしかった。
アルフォンソは、そんなヒゲを抱き寄せて腕の中におさめた。…と言っても、ヒゲの方が背が高い。
さらに愛しそうに首筋に口づける。…そんな様子でも絵になる美形の不思議。
「何って、そんな言い方をするんじゃないよ。君よりよっぽど美しいじゃないか!輝く三角筋!計算されつくした腹直筋!芸術的な大殿筋!!ああ、何をとっても美しい。肉厚の唇に、今すぐにでも口づけたいいいいい」
「ゴメンナサイ。人類のために死んでください」
「何を言っているんだ!ボクが死んだりしたら世界が闇に包まれてしまうよ!!世界中の筋肉美を持つ男性諸君が、胸の筋肉をぴくぴく言わせて悲しんでしまうよぉ!!」
「今だけは佳奈の味方かしら」
「今だけ!?」
そんなアホな人々の周りから、徐々に人が離れていく。
いや、まるで嵐のように近づいてくる影がある。開け放たれた扉の奥から、この広間に向かってかけてくるのは……。
「フェルデニアさまぁああああああああああああああああああ」
「きゃぁあああ本当にフェルデニアさまだわああああああああああああああああ」
ドレスをたくしあげた軍団。
砂煙をあげたイノシシ軍団。けれどその面々は、みな一様に美しい。
「おや?フェルデニアの親衛隊じゃないか。どうやらご帰還が伝わったようだね」
「そうね。でも、このタイミングはマズイんじゃなくて?」
「そうだね。シェーゼスの息のかかっていない貴族をこっそり集めての会なのに、これでは……でも彼女たちの情報収集能力には恐れ入ったね」
「そんな大事な会だったんかい」
とか話している間に、軍団が近づいてきた。
『フェルデニア様!本日も最高に麗しくございますね!!!!!!!!!!!』
「そうね。みんなも相変わらず綺麗よ」
『きゃぁあああああああああああああああ』
「って、マリーベルってそんなキャラだっけか」
「マリーベル様は、元来の女の子好きですよ」
「そうだったの!?え?やだ!私襲われちゃう!?」
「いえ、それは絶対大丈夫です――身の程を弁えろよな……」
「え?なんて言った?」
「いえ、何も」
なんて話していると、急に親衛隊の視線が佳奈に集まる。
なぜか、その瞳には殺気が宿っていて……。
「そこの不細工!何でそんなにフェルデニア様の近くにいるの。今すぐどきなさい」
「そうよそうよ。この親衛隊だって、フェルデニア様直々に選ばれないと入れないのよ」
「不細工の出る幕じゃないわ。消えなさい」
「死になさい」
「消滅しなさい」
大ブーイングだ。
佳奈は半泣きになった。
「泣いてもキモいんですけど」
というか、もう泣いた。
でも、どうしてだろう。こうやってみんなに苛められると、何だか――。
「その先はいわせねぇええええええええええええええ」
再び、ユージンとマリーベルの声が重なる。
でも耐性がついた佳奈は止まらない。
「ドキドキしちゃう」
「してんじゃねぇえええええええええええええええええ」
「もっと苛めてぇえ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「消えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「な、なによコイツ」
「ヤバいわ…陛下以来のヤバい奴よぉおおおおおお」
「君たち。ボクのことをそんな風に思っていたのか」
「やだ。みんな変態王ばっかり苛めて。今は佳奈ちゃんの番で・しょ♡」
「悪化してんじゃねぇかああああああああああああああ」
なんかもうグチャグチャだった。
彼らの半径10メートルに、近づく人はない。
「私の楽しみを邪魔するなぁああ」
「ふっ。美しい者には敵いっこないのさ。跪け残念顔」
「ああ。でも、そういうのはいいかも♡」
「お前ら2人ともだまれぇええええええええええええええええ」
結局、2人の王様はどちらも変態なのだった。
とかで終われるかッ!って叫びたくなりますね。
でも、果てしなく壊れているので、書いてる方は楽しいです。