巻ノ十九 進むべき道
いつ牢屋に入れられた?とか、ユージンいつからいるわけ?とか、いつから佳奈は鼻ピアスしてたの?とか…とりあえず疑問はつきないが、とりあえず佳奈たち御一行は牢屋を脱出した。
「マリーベル~それで?これから何するの?」
「そうねー…」
「あ。なんかその腕組んで小首傾げるバランスが絶妙だねっ。よ~しマネするぞぉ……ユージン、どぉう?」
佳奈はマリーベルのマネをしてみたが、超絶美形天才王女さまの隣でやられてもユージンの頬は引き攣るばかりだ。
「エエ。カナサマ。トテモ、オキレイデスヨ。ホント、ホント、アハハハハ」
「そう?キャアぁ佳奈、照れちゃう!」
タライが落ちてきた。佳奈は活動を停止した。
そんな意味不明な3人は、進めていた足を止め、ふむと顔を突き合わせる。
前後左右、どこを見てもバラ畑。バラ、バラ、バラ。
頭が痛くなるほどの極彩色が、視界を塗りつぶしている。
ぐっと目に力を込めると、遠くに王城の姿が見えた。振り返れば先ほど出てきた屋敷。マリーベル曰く、とある貴族の持ち物だそうだ。
マリーベルは、佳奈の視線を確認してうなずいた。
「そうね…今後の方針を考えないといけないわ。とりあえずわたしの意見としては……」
彼女はふっと眼を細めると、少し自嘲気味に笑んだ。
「わたしは、もう逃げるべきだと思うわ」
「逃げる?」
佳奈は問い返し、ユージンは黙った。
「元々、反王国派の人間は少なからずいたの。穏健派がほとんどだったけれど、過激派も時々事件を起こして被害がでてたわ。でも、ここにきて事情が変わったようね。佳奈は覚えてる?あの……シェーゼスにあった時のこと」
「シェーゼス…?――ああ!」
あまりにも壮大な物語を見せられたせいで、すぐには記憶が戻らなかった。
王宮についてすぐ、ユージンだと思っていた人物が、いつの間にかマリーベルの弟になっていて…えっとぉでも、本当の弟ではなくて…王子様で……。
「もう良く分からん!」
思わず叫ぶと物凄く怪しい目でみられた。
マリーベルが小さく咳払いする。その姿も美しい。マネしてみたけど、ユージンの顔面は硬直していくばかり。
「まあ覚えているならいいわ。シェーゼスは…いえ、シェーゼスじゃなかったけれど――あれは、魔法を使っていた」
「そうね」
「つまりあの人物は、人間じゃない。なのに王子に扮している。そして私たちは彼の去った後、反王国派らしき貴族の手の物に落ちたわ」
「だから?」
「ああもう!鈍いわねッ!――つまり、反王国派の掲げる王さまはシェーゼスの可能性が高いってことよ。でも、シェーゼスは本物の王子じゃない」
「王さまになろうとしてるってこと?」
「そう!」
問いかけるようにユージンを見ると、コクリと頷かれた。
――というか…。
「ユージンはいつ合流したの?」
「ああ、そうですね。佳奈様は気絶していらしたから……私は佳奈様とはぐれた後、黒エルモたちを倒しすぐに追いかけようとしました。のですが」
曰く。
すぐに彼の雇い主である水虫&ハゲ、しかも素足。なのに何故か青年という謎の伯爵リドウォール卿よりハトが飛ばされてきたらしい。
どうやら早馬で駆けた彼の元にも黒エルモが出たそうで、佳奈の方には面白がったマリーベルが勝手に迎えにいったので、こちらの護衛にこいと頼まれてしまった。
と、いうわけで彼について王宮にいったのだが、中々佳奈たちが来ない。
リドウォール卿ことセドリネに頼まれ外に出て見ると、丁度佳奈たちは大ピンチ。
マリーベルは怪我をしているし、佳奈は軽くトランス状態だし……それで駆けつけた直後気絶させられたって……。
「ユージン。ダッサぁい」
「だ、ダサ……うう」
「ってそれどころじゃないじゃん!マリーベル、怪我してたよね?大丈夫なの?」
「もちろん。どうってことないわ」
「ないって…」
思い返してみる。
マリーベルの白い肌は焼けて、血の匂いが染みだしていた。
「絶対んなわけないでしょう!」
佳奈がマリーベルの腕をつかみ、無理やり見ようとすると…‥。
「大丈夫だって言ってんだろうがっ」
低い声で呟き足蹴にされた。
「あら、御免なさい。おほほほほ」
「う、ううぅ。でも、何でだろう?」
マリーベルの細い腕に、同じように細い足。なのに、漲るエネルギー。私の身体を…足蹴に……。
なんか、なんか。
「ドキドキしちゃう……」
ぽっ。
「ぽっじゃねえええええええええええええええ」
ユージンとマリーベルの突っ込みが重なった。
どうやら全て口に出ていたらしい。
「まあ、そういうことよ。で、結局あなたはどうしたいのよ」
「え?ああ、そういう話だったか……」
佳奈は少し真面目に考えようとしてみる。けれど、バカな佳奈にはさっぱり何も分からない。
そもそもシェーゼスの話にしても、だから何なのか良く分からない。
けれど……。
「私、彼に対しては責任があるのよね……多分」
とても小さな囁き。外に出たとたん霧散してしまような声。
2人には聞こえたんだろうか?いや、どちらでもいいけれど。
「私は行きたい。王宮に」
真実のあるところに。
「そう。いいわよ。私はついていくわ」
「もちろん私も行きますよ」
「ありがとう」
佳奈はまた、王宮の方を見た。
満開のバラに囲まれても、飲まれることのない壮麗な城。
「じゃあ、そろそろいこっか」
久しぶりの投稿です。
というか、作者2が書かないので、再び1の登場です。
今回は色々整えただけの話なので、何の進展もありません。
ついでに面白みもありません。