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1-1

 無性(むしょう)に氷を(かじ)りたくなる時がある。

 そんな時はアイスペールの(おけ)いっぱい氷を平らげる。ガリガリと音を出しながら齧る。それが快感なのだ。


 好きなものは氷だと言うと、大抵の人は「カキ氷?」って()き返す。違う――!僕が好きなのは冷蔵庫の製氷機が作ってくれた普通のキューブアイスだ。


 一言で冷蔵庫のキューブアイスと言っても様々なものがある。

 僕の好みは出来るだけガリッと齧りやすい扁平な台形をしたものだ。そのため冷蔵庫を買う時は製氷機の作る氷を基準にして選ぶ。大型電気店の定員にきいても氷の形状や寸法を答えられないから、パンフレットを貰ってメーカーに電話し、ストーカーかと思われる程、氷について質問する。


 今のP社の氷の形と柔らかさは最高だ。

 思いっきり齧るとガリッと気持ちよく割れる。その割れた氷を今度はバリバリと噛み砕くのだ。これが最高に美味い。


 友人にその趣味を言うと、それならガリガリ君でいいではないかと言う。しかしあれだと柔らか過ぎなのだ。ガツッと噛みついたくらいでは割れず、ギリギリと圧力をかけ噛み込んでいくと遂に僕の歯に抗しきれなくなり、「ああー、もうダメー。我慢できない。パキッ――」、そう叫び割れていく氷を愛しているのだ。


 ガリガリと細かく崩れる氷菓子は、長いこと机の上で忘れ去られた湿った炭酸せんべいみたいで、噛んだ瞬間に(きょう)ざめしてしまう。かと言って冷蔵庫から出したばかりの(しも)でカチカチの氷も駄目だ。それだとあまりに若すぎる。やはり女性と同じくそこそこ熟れて(つや)を出しているような氷でないと駄目だ。


 室温で表面がしっとりと濡れ、高貴な水晶のようになって向こうが()けて見えるような熟した氷がよい。それを想像するだけで僕はうっとりとしてしまうのだ。どうしてこうも僕が氷を愛しているのかというと、これには理由がある。一種の病気なのだ。それは人格表現としての意味での病気ではなく、具体的な氷食症(ひょうしょくしょう)という病だ。


     *

 僕は産まれた頃から極度の貧血で悩まされている。

 貧血とは、血液中の赤血球のヘモグロビン濃度が低下し、体内への酸素供給が少なくなり生命活動機能が低下する状態。氷を齧りたくなるのは、決まってそういう状態だ。


 不思議なことに氷を齧るとなぜか楽になる。氷を食ったからと言って決してヘモグロビン濃度が上がる分けはない。氷には水素と酸素しか入っていない。しかしなぜか貧血状態が納まる。これは僕に限ったわけでなく多くの貧血患者が経験していることだ。この傾向の強い人が氷食症と呼ばれる。


 医学書で氷食症を調べると、異食症の一種で食べ物ではないものを日常的に食べる摂食(せっしょく)障害と書かれている。異食症で多いものは、紙や土、人間の髪や爪・皮膚など。氷食症の場合はこれらと違い、衛生面での問題や異物による消化管での閉塞などを心配する必要はない。氷を大量に食ったからといっても、胃の中で溶けて水になるだけだ。ただし、身体は中心部から急速に冷やされる。だから僕は冬場には、熱い風呂に浸かりながら氷を齧ることにしているのだ。


   (1-2へ続く……)


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