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プロローグ 「最後まで悪運」

 多くの人が賑わう東京。

 住んでいる人たちは、働いたり、遊んだり、時には笑ったり泣いたり怒ったりしている。

 ……それは生きているから出来ることなんだ。


 俺は今、自分の会社の屋上に立っている。

 季節外れの台風が来たかのように、大雨が降り、風も強く吹いている。

 そう、俺は今から自殺するんだ。


 理由は明白だ。

 生きている意味を見出せなくなったからだ。

 もう30年……人によっては“まだ“という人もいるかもしれない。

 でももう疲れたんだ。


 社畜だからいけないのだろうか?

 俺が童貞なのは、出会いがない社畜だからだろうか?

 自分に問いかけても、答えは返ってくることはない。


 ただ、始発の電車に乗り、終電に乗って帰る。

 会社と自宅を行き来するだけの毎日。

 それを繰り返すと、洗脳されたかのように続けてしまうものだ。

 もしかしたら、それが会社の思惑通りなのかもしれない。


 だから、俺はいつまで経っても社会の歯車なんだ。

 搾取され続けて、死ぬまで同じことを繰り返す……意味もないことをやっていると自覚はできないだろう。

 どうせ、死ぬんだ……今更、考えも遅い。


 でも心残りなのは、俺の父さんだ。

 俺が小学生の時に母が死に、1人で俺を育ててくれた。

 仕事の量を増やし、休みを削って全て俺に尽くしてくれた。


 昨日は、父さんに「死ね!」と言ってしまった。

 たった一つのすれ違いだったのに。

 謝ればよかったかな?

 でも、どうせ口を聞いてはくれない。

 ならこのままいなくなった方がお互いに都合がいいのかもしれないな……。


 俺は生まれつき悪運体質だったんだ。

 電車では、いつも席に座れず、ずっと立っていた。

 コンビニで、欲しい商品を買いに行っても、必ず売り切れている。


 もし運が良ければ、こんなことにはならなかっただろう。

 

 このまま異世界転生とかできたらな……。

 最強能力で、無双しまくって、最後は自分好みのハーレムを作れる。

 そんな妄想も今日で終わりだ。


 下を見ると、人通りが少なくなってきた。

 チャンスだ。

 俺の死でトラウマを植え付けられたら困る。

 けど、俺をゴミのように扱った奴は俺の死を見て欲しい。

 一生の苦しみを味わって欲しい。


 俺は靴を脱ぎ、雨で滲んだ字が書かれている紙をそっと乗せた。

 「……ただ、死ぬだけだから」と、

 ただの強がりなのに、なんで格好をつけているんだろう。


 片足を宙に浮かす。

 このまま体重を乗せれば……一瞬で終わりだろう。


「はぁ……はぁ……」

 急に怖くなってきた。

 いざ死ぬとなると、いろんな気持ちが込み上げてくる。

 でも、楽しかった思い出よりも圧倒的に――辛い思い出の方が勝っていた。


「父さん……ごめん」

 俺は、足を大きく突き出した。

 そして身を流す。

 身体は軽く、感じられるのは重力と風だけだった。


 !!!!!


 痛い痛い痛い痛い痛い――。

 即死できなかった。

 最後の最後まで、俺は悪運に取り憑かれている。

 内臓が飛び出ている気がする。

 頭が割れているのかもしれない。


 自分の姿なんて確認できないからわからない。

 ただ、「きゃぁぁぁぁ!!!」や「誰か……救急車、呼べって!!!」という声が頭に響く。

 俺はもうすぐ死ぬ。


 だから最後に一つ。

 もし……もしも望めるなら……悪運じゃなくて――幸運になりたい……。


 俺の意識は完全に途切れ、俺は死んだ。

 


 

 







 


 

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