担任の話
「今日ね、5組に授業しに行ってきたんですよ」
担任が、授業を始めると思いきや関係ないことを話し始めた。
「文化祭で何やるかの候補に、『先生のモノマネ』ってあったんですよ。例えば?って聞いたら、ヤマ先生の虫殺すマネって返ってきたんです。みなさん、見たことあります?」
バラバラと、ないです。と声があがる。
「そうなんですね。なんかヤマ先生、『あっ、カですね。』って言って、下じきではたき落としたらしくて、その時の顔が、すっごく満面の笑みだったらしくて……」
クラス中から思わずといった笑い声があがる。
担任も自分で話しておいてツボったらしく、暫くしてからまた話し始めた。
「あと、他にもこういう関係ない話があるんですけど、みんな聞きたいですか?」
お調子者の男子が真っ先に「聞きたいです!」と声をあげる。その声に釣られるようにして、他も同意する。
「そうですか。じゃあ、歴史の授業で、前に教育実習生が来て、実際に授業してもらって、その様子を先生が見るっていうのを、このクラスでやったじゃないですか。その先生すっごく面白かったの覚えてます?なんか、生徒を指名する時、本人のとこまで歩いて、そのうえで名前呼んでましだよね」
「ふっ」と思い出し笑いのような声があがった。
担任も笑いながら、
「わたしあれ、えっそこまでいって呼ぶ?!てびっくりしたんですよね。あと、あの先生、ヨットって分かりますかって質問しましたよね。覚えてます?そりゃわかるよ!て思いましたね。面白かったですよね」
クラスみんなが、机に突っ伏して肩を震わせて笑う。
「あっ、あと、その授業の時、シマ先生がいたんですよ。みなさん、シマ先生が寝ているところ、見たことあります?」
クラスの一人が「あっ、全校集会…」と呟いた。
「そうなんですよ。いっつも、足と手組んで、寝てるんですよね。あの人。あの授業の時も寝てて、びっくりしたんですよ。なんのために来たんだろうと思って」
そこかしこから「えぇ!?」という声があがる。
ーー本当は定年退職しているはずの教師不足で残ってるおじいちゃん先生だもんね。仕方ない。
「いつも、職員室でも寝てるんですよ。あと、職員会議。まぁ、わたしも寝てるんですけど」
「えぇ〜?!」こんどこそ、一斉にクラス全員が驚きの声をあげた。
「わたしとシマ先生、隣同士の席なんですけど、職員会議で寝てるせいで、内容がわからないんですよ。終わった後に、シマ先生に何話してましたって聞くと、『さぁ?』って言われるんですよ。寝てたから」
また、クラス全員が肩を震わせて笑った。
「あと、職員会議で寝ちゃうのもそうなんですけど、他にも直した方がいいことがあって、わたし、いつも学校に来るのギリギリで、学校に8時20分に来ていればいいんですけど、8時18分に来てるんですよ。でも昨日、課題提出遅れちゃった子が朝出しに来てくれたんです。でも、わたし来るのがギリギリだったせいで、受け取れなかったんです。そしたら、その子に『社会人なのに』って言われちゃって、めっちゃ心にきたんですよ。だから、今日は早めに来ました。8時13分に来ました」
クラス全員失笑した。
ーー今日は、授業がかなり潰れるだけでなく、担任が結構やばいことと、おじいちゃん先生の話から教師不足が深刻なことがわかった。