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スリーセンス  作者: Aju
9/33

9 信頼

 ハヤンは、ユーリとシャノンが素直に離れていったのを見て安堵した。


 あいつらにはまだ早い。

 弩なんか持って出てきて。

 矢立てに入ってたのは、ありゃ爆裂矢だったぞ?

 ユーリのやつ、くすねやがったな?

 後で厳しく叱っておこう。


 シャノンの気持ちはわかるが、おまえたちはまだ子どもだ。

 ゲルドグは子どもの手におえるようなものじゃない。


 半鐘が鳴った。

 見張りが向かってくるゲルドグを発見したらしい。


「それにしても、見張りより早く臭いで気がつくなんて、シャノンはまるで野生動物だな——。」

 ハヤンは口の中で小さく呟く。

 その能力、先が楽しみだと思わず頬がゆるむ。


「村の土塁の外で迎え撃つぞ! 村に入れるな!」


   *   *   *


 シャノンは村の中をウロウロと歩き回っている。

 まるで行く先が定まらないみたいだ。


 だが、ユーリにはもうシャノンが何をしているのかわかっていた。

 臭いを求めているのだ。

 風下へ、風下へ、と動きながら。

 風が息をするたびに、場所を変える。


『村の入り口から800mくらいのところにいる。』

 シャノンがユーリの手に伝えてくる。

『距離までわかるの?』

『風の強さと、臭いの強さで。』


 やっぱり、シャノンはすごい!

 ユーリは胸がドキドキしてくる。


『それと、そろそろ地面からあいつの振動が伝わってきている。』

 そう伝えてからしばらく後に、シャノンは歩き回るのを止めた。

 雨が少し強くなってきた。

『来た。入り口から200mくらいだ。』


   *   *   *


 ユーリには地面の振動などは分からない。

 しかし、村を囲む土塁の外側で大人の戦士たちの叫ぶ声と、爆裂矢の爆発音が聞こえてきた。


『大人たちの攻撃が始まった。』

 シャノンがユーリの手にそう伝えてきた。

 ユーリは驚いた。


 こんなに離れてて、どうやってそれが分かるの?

 それも地面の振動?


 ゲルドグのおぞましい咆哮が聞こえた。

『土手を避けて入口の門の方に動いてる。あいつは急な坂を登るのが苦手みたいだな。』

『それも地面の振動?』

『うん。あれくらい重いやつだと、動き方もだいたい分かる。爆裂矢は効いてないみたいだな。』

『鱗が硬いんだ。片目にしたんだから、もう1つの目を狙えばいいのに。』

 ユーリがそう伝えると、シャノンはひどく大人くさい返事をユーリの手に伝えてきた。

『関節とか目とか、動くマトに当てるのはそりゃ難しいよ。』


 ・・・・・・・・・

 しばし沈黙があった。


   *   *   *


 どうすべきか?

 シャノンはまだ迷っている。

 ユーリを逃すべきではないか?


 ユーリと2人で弩に爆裂矢をセットし終わると、シャノンはユーリの手に『逃げろ』と書こうとした。

 それより早く、ユーリがシャノンの手に伝えてきた。

『わたしは逃げないよ。作戦を教えて。』


 シャノンはまだ少し戸惑う。

『わたしたちはまだ子どもだ。1人じゃ爆裂矢を放つ弩を正確に支えきれない。』


 ふう。

 とシャノンは大きく息を吐く。


 そうだな。

 2人で逃げるか、2人で戦うか——。どちらかだ。


 シャノンは覚悟を決めた。

『あいつが僕たちを喰おうと口を開けたところを撃つ。内側から頭を吹っ飛ばす。』


 ・・・・・・・・・

 ユーリは少しだけ動きを止めた。

 想像してみる。

 ゲルドグの大きく開けた口を。

 それは身の毛もよだつ恐ろしさだ。

 しかし・・・

 恐怖に負けたら、矢を外すかもしれない。

 1発だけの矢を外せば・・・

 次に待っているのは・・・・


 恐れるな。

 恐れたら終わりだ。


『やっぱり、やめようか?』

 シャノンがユーリの手に書いた。

 ユーリだけは守りたい。

 たとえ屈辱とともに逃げることになっても。


『やめたら助かるの?』

 ユーリが返してきた。

『ここまで入ってこられたら、もうやるしかないよ?』

 ユーリはさらにとんでもないことを書いてきた。

『確実にこっちに向かって口を開けさせるために、わたしがおびき寄せる。餌がこっちにいるぞ、って。』

 シャノンは思わずユーリの手を掴んだ。

 その腕に、ユーリのもう一方の手が指文字を書く。


『大丈夫。シャノンがいるから。』



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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊張感が伝わってきます。 初めての狩り、巧くいくといいですね。
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