4 2人の戦い方
『そろそろだ。そろそろ地面が話し始める。』
シャノンは爆裂矢をセットした弩を持って、地面に片膝をついた。
そのすぐ背後にユーリが立つ。
ユーリとシャノンは、その態勢で再び手と手を取り合った。
『まっすぐ来る。およそ400mだ。』
シャノンがユーリの手にそう伝える。
再び雨が強くなる。
『来た。350m。』
『感じる?』
『ああ。もう臭いだけじゃない。ヤツの足が地面を蹴る振動が伝わってくる。』
こうなればシャノンはもう完全にゲルドグを捕捉している。
重さ4トンもあるゲルドグの走る振動なればこそ、これだけ離れていてもシャノンの足裏は正確に感知するのである。
誰よりも鋭敏な皮膚感覚。これがシャノンの「勝算」だ。
ダンタアナでの鉄鋼弾蹴り返しも、床を転がる鉄鋼弾の振動を感知したからできたことなのだ。
あれがもし軽いテニスボールか何かだったら、さまざまな微振動のある店舗内では正確に把握することはできなかったかもしれない。
それが鉄鋼弾だったからこそ、ユーリは何もせずにシャノンに任せたのだ。
『300m。』
シャノンがユーリの手に伝える。
ユーリはその情報に100%の信頼を置いている。
餌はここだぞ。
ここにいるぞ。
チャンスは1度きり。
ヤツが目の前の餌を喰おうとして口を大きく開けた時だけだ。
その口の中に、爆裂矢を射込む。
『250m。』
50mを切ったら、そこから先はユーリが合図を送る。
これが2人の狩りのやり方だった。
ユーリが膝をシャノンの背中に当てる。
『200m。』
『150m。』
雨がまた弱くなる。
臭いと振動が強くなる。
『100m。』
『50m!』
ここから先は、ユーリがゲルドグの動きを捕捉してシャノンに伝える。
ユーリの膝が、シャノンの背中で微妙に動く。
それによって、シャノンが構えるべき弩の方向を指示しているのだ。
30m!
20m!
10m!!
ゲルドグの体重が地面を揺らす。
臭いがキツい。
口を開けた!
ユーリの膝が、シャノンの背中をトンと軽く押す。
シャノンの弩が爆裂矢を放った。
一瞬ののち、ユーリの爆裂矢も後を追う。
万が一、シャノンの矢が外れた場合を考えての2段攻撃だ。
1秒後に、激しい空気の圧力がシャノンを襲った。
ゲルドグの血の臭いが強烈にシャノンの鼻をつく。
しばらく後に、地面が大きく揺れ、そして、振動は収まった。
ユーリの腕がシャノンの首に巻きついてくる。
強烈なゲルドグの血の臭いに混じって、ユーリの肌のかすかに甘い匂いがする。
ユーリの息が、シャノンの耳元にかかる。
巻きついたユーリの手が、シャノンの頬に2人だけにわかる「文字」を書いた。
『斃したよ。』