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スリーセンス  作者: Aju
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27 結界を越えて

 宿に帰ってシャノンとユーリが夕食をとっていると、テルクが珍しく食事に遅れてやってきた。

 手に糸玉を持っている。


「これ買ってきちゃいました。考えたんですけど・・・」

と、糸玉をテーブルの上に乗せる。

「うわ! いい匂い! 美味しそー!」


「糸玉がどうかしたの?」

 ユーリはシャノンの手をテルクが置いた糸玉に導きながら、問い返す。

「あ、そうだった。あのですね、師匠・・・。」


『なるほど。』

とシャノンが指文字を送ってくるのと、テルクがドヤ顔で説明を始めるのが同時だった。


「この端を結界の岩の綱に結んでおいて、糸を伸ばしながら中に入っていくんですよ。()()()爺さんの話では、森が突然魔界に変わってしまうって結界を作った人は言ったって話じゃないですか。だったら、たとえどっちがどっちかわからなくなってしまっても、この糸をたどって戻れば結界のところまで戻れるんじゃないか、って思って——。」


 相変わらずよくしゃべるやつだ。

 と呆れながらも、そのアイデアはいい! とユーリは思った。

 ・・・が、シャノンはさっき『なるほど』って書いてきたよね?

 ということは・・・。糸玉を触っただけで、シャノンはテルクの考えを読み当てたのだろうか?


 わ・・・わからなかったのは、わたしだけ・・・? (・・);


()()()じゃなくて()()()だ。」

 ユーリは訂正しながら、大事な内容なのでシャノンにテルクの話の全てを指文字で伝えてゆく。

 糸が赤いのは、結界のご加護を期待しているのだろう。こいつ、結界の前でビビってたもんな。


『糸玉は「赤色」だろ?』

 シャノンが送ってきた指文字にユーリは驚いた。

 シャノンは、触っただけで「色」がわかるのか!?


『臆病というのは、知恵が湧くものだ。結界の綱に結んであった紐が「赤色」なら——色とはどういうものか、俺にはわからんが——それが魔力を封じる力があるなら、いいアイデアだ。』


『テルクは、臆病で、勇敢で、頭がいい。』

 シャノンは、あの街道でのゲルドグ退治以来、テルクの能力を高く買っている。


 ユーリはちょっと微笑んで、シャノンのその言葉をそのままテルクに伝えてやった。

 それを聞いたテルクが、ぱああっと顔を輝かせる。

 その笑顔といったら———!

 何の陰りもない。素直で、まっすぐで子どもみたいな・・・。


 もう! 抱きしめちゃいたいぞ! (๑>◡<๑) 




 数日、雨が降るのを待ってシャノンたち3人は再び結界へと出向いた。


 いろいろ想定したため、荷物がけっこう大きくなった。

 3人ともそれを背中に背負った上、さらに弩も持っている。

 身動きが悪いな・・・。とシャノンは少し不安になった。


 結界までの細道はユーリが先導する。

 結界から先は、臭いのわかるシャノンが先導することにした。


 結界は先日来た時と特に変わってはいなかったが、今日は雨で地面が濡れている。

 シャノンはここで履き物を脱いで裸足になった。


『糸玉はテルクが持ってくれ。テルクもユーリの手を離すなよ。』

 ユーリはシャノンが送ってきた言葉をそのままテルクに伝える。

「手じゃなくて、ベルトを掴め。両手が塞がってると、いざという時困る。」

 ユーリがそう付け足すと、テルクは少し頬を赤らめて手先を彷徨わせた。


「なんだ? 腰に触るから気にしてんのか? 心配するな。男だとは思ってないから。」

「ぐさっ・・・!」

 それ、口に出すか? とユーリは可笑しくなった。


 まあ、でも。わたしの言い方もよくなかったか——。

「言い直す。弟みたいに思ってるから。」



 結界を越えても、特にこれといった空気の変化はなかった。


 ユーリの鼻ですら刺激的だと感じるほどに、森の緑の匂いがする。

「森のハラワタのニオイですね。」

 テルクがうまいことを言う。

 シャノンはさらに濃密に感じていることだろう。


 たしかに。この黒い森は、これまでに入り込んだどの森とも少し違うかもしれない。

 それが、広大な規模によるものなのか、性質によるものなのかは分からないが、森という巨大な生き物のハラワタに入ったようだ——というのは言い得て妙かもしれなかった。


 結界から50メートルほども歩いた頃、シャノンがユーリの手に伝えてきた。

『これは・・・、俺たちにはかなり不利な状況かもしれない。』



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― 新着の感想 ―
『森のハラワタ』って表現がすごくいいですね(*´Д`*) 深い森のにおいとか、湿度とか、そういう感覚が言葉から伝わって来ます! 参考にしよう……
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