21 テルクの休日(後編)
年の頃は・・・よくわからない。
20歳過ぎの大人の女性のようにも見えるし、テルクとさほど違わない17〜18歳くらいにも見える。
背は高い方だが、すらりとした、というよりはややふくよかな感じの人で、それだけに優しそうに見えるお姉さんだ。
肩までのウエーブのかかった髪は真っ黒で、それなのに瞳は深い川の淵のように澄んだ碧色をしている。
その目が優しく微笑んでいた。
「初めから見てました。優しい冒険者さんなんですね。わたし、あんな小さな女の子にあんなに紳士的に振る舞う男の人、初めて見ましたわ。」
「はえ? ・・・んぐ!」
テルクは口の中の噛みかけのリンナが落ちそうになって、慌てて呑み込んだ。
その様子を見て、お姉さんは口元を押さえて可笑しそうに笑う。
その仕草にも品があって・・・。
この人、何者だろう?
「着ているものはその辺の庶民の服みたいだけど・・・。」
テルクは思ったことが、つい口に出る。
それを聞いて、お姉さんはまたくすくす笑った。
「わたしはミクリーという者です。冒険者さんは王都は初めてですか?」
「はい。ぼ、ぼ、ぼ、ぼくはテルクと言います! 王都には初めて来ました。どうして、ぼくが冒険者だってわかったんですか?」
テルクはなんだか顔が熱いような気がする。
日差し、そんなに強くないよね? あれ?
「そのお腰の剣ですわ。よかったらわたしが王都を案内しましょうか? 王宮の前庭までは一般人でも入れますのよ。」
「ほんとですか!? よ、よろしくお願いします!」
やっぱり顔が熱いぞ——?
ミクリーさんは王都のことに詳しかった。
尖塔の旗の付け方も知っていた。
美味しいプリスプ屋さんも知っていた。その店のおじさんとは顔見知りみたいだった。
一緒に歩きながら、テルクは地面から足が少し浮いているような感覚のままだった。
こんなきれいなお姉さんと街を歩けるなんて・・・。
王宮に行かなくてよかった——。
説明は半分くらい、右の耳から左の耳に抜けていった。
「テルクさんって、かわいいわぁ。弟ができたみたい。あ、冒険者さんにこんなこと言ったら失礼かしら・・・?」
きれいな人だ・・・。〜〜〜〜(*´Д`*)
たしかに、ミクリーさんの言ったとおり、王宮の前庭に通じる門は開かれていた。
門番の衛士は4人いて、門の両脇に2人ずつ立ち、入って行く者たちを厳しい目でチェックしている。
その4人がテルクたちを見ると、4人とも目をまん丸に見開いた。
「皇女様?」
「ご・・・護衛の衛士は?」
ミクリーさんは口をすぼめて人差し指を当てる。
「さあ。どこかで迷子になっちゃったみたい。」
(まいたな・・・)
(またか。・・・護衛の衛士も気の毒に・・・)
衛士たちが一斉に情けないような変な顔をする。
「でも大丈夫。親切な冒険者さんに出会ってついてきていただいたから。」
え? は? ・・・え?
「お礼に王宮の前庭をご案内してさしあげようと思いまして——。」
ミクリーさんが衛士たちに微笑みかけると、衛士たちは姿勢を正した。
今・・・「皇女」って言った?
え? ・・・ミクリーさんが・・・?
テルクは4人の衛士とミクリーさんの顔を交互に見ながら、馬鹿みたいに口をあんぐりと開けている。
ミクリーさんが皇女?
ってことは・・・ここにいる・・・いらっしゃるのはとんでもない御身分の方で・・・。
それはつまり・・・ミクリー皇女様ってことで・・・。
え?
こ・・・こういうときは、どうすれば?
地面にひれ伏すべき?
そ・・・それとも、衛士と同じように直立不動の姿勢になるべき・・・?
だいたい、ぼく・・・今までさんざんタメ口きいちゃってたぞ?
「いやだぁ。テルクさん。こんなとこで変なことしないでね? お忍びなんだから。」
そう言ってミクリー皇女はまた口の前に人差し指を持ってきた。
碧色の瞳が微笑んでいる。
「王都の人なら名前を言った時点でわかると思ったんだけどね。」
ミクリー皇女は片手で口の前を覆うようにして面白そうにくすくす笑った。
庶人に変装した(服装だけ)皇女が少年冒険者の手を引くようにして前庭の方に歩いて行ったのを見送りながら、門番の1人が小さくつぶやいた。
「オレは門番のままでいい。皇女付きの護衛の話が来ても絶対に断る。胃がもちそうにない・・・。」
* * *
その日遅く、シャノンとユーリが宿に帰ってみると、テルクは顔を上気させたまま、床から足が5センチも浮き上がったようになっていた。
目がどこか異世界を彷徨っている。
「テルク? どうしたの・・・?」
あー。あー。業務連絡。業務連絡。
個人的通信。
すみません。事前にことわりもなく勝手にモデルにしてしまいました。。m(_ _;)m
(お許しいただけなければ名前を変えます)