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スリーセンス  作者: Aju
15/33

15 母と子(前編)

「これは? スリーセンスどの?」

 あの家族連れに連絡を頼んで、今夜泊まる町から派遣されてきた検視官と処理班のリーダーがユーリに問いかけた。


「それは僕のエンブレムです!」

 テルクが嬉しそうな声をあげる。


 検視官はしばらく台帳をめくっていてから言った。

「あ、あった。ありました。初めての戦果ですな。」

「いえ。登録はしてないけど、これまでにも2頭倒してます!」

 ニッコニコの顔で臆面もなく言うテルクを、リーダーがやや変な顔をして見た。


「お手伝い扱いでエンブレムは付けさせてもらえなかったらしいですよ。」

 ユーリが悪戯っぽい笑い目で言う。


「スリーセンスさんの仕事なのに、これは付けさせていいんですか?」

 検視官は、他ですら『お手伝い』でしかない少年がスリーセンスと同列に並ぶことに違和感を覚えたらしい。


 やりとりを通訳されていたシャノンが、ユーリの手に伝言をよこす。

『彼がいなければ、倒せたかどうかわからない』

 ユーリがそれをそのまま声に出して伝えると、テルクは顔を真っ赤にして涙を浮かべた。


「この仕事において、彼は重要な働きをした我々の仲間だ。」

 ユーリのダメ押しの一言に、処理班の面々までもが手を止めて、テルクの真っ赤になった顔と白いダンゴのエンブレムを交互に見た。



 手続きが終わり、気をよくしたテルクはそのあと町までの道中、しゃべりまくった。


 さすがにユーリもうんざりし、指だけでこっそりシャノンに訊いた。

『通訳やめていい?』

『かまわない。大事だと思ったことだけ伝えて。』

 シャノンも辟易とした表情をしている。


 そういう2人の表情にお構いなく、テルクだけが幸せそうな顔をして脈絡のない話をしゃべり続けていた。


   *   *   *


 時は少し戻る。


 シャノンとユーリの最初のゲルドグ狩りから5年。

 シャノンは17歳。ユーリは16歳になっていた。


 冒険者の登録をしてからも、すでに3年。

 狩りったゲルドグの数だけでも、20を超えている。

 17歳で銀糸勲章を受けた冒険者「スリーセンス」の名は、すでに王国中に轟き始めていた。


 「スリーセンス」はシャノンのみを指す場合もあれば、シャノンとユーリを合わせたユニット名として使われることもあった。

 ただ、当人たちはそういうことに頓着していない。

 この二つ名は当人たちが名乗ったものではなく、誰言うともなく広がったものだったのだから。

 名乗る時には相変わらず「シャノン」「ユーリ」と名乗っている。

 彼らの目的は、名を上げることでも金を稼ぐことでもないのだ。


 シャノンは、まるでそのことに取り憑かれたように魔獣ゲルドグを狩り続け、ユーリはそんなシャノンの最も頼りになる相棒バディであり続けようとしていた。


 ゲルドグを1000頭狩れば母親が戻ってくる——。


 ひょっとしたらシャノンは自分の中でそんな願でもかけているんじゃないか?

 そんなふうに思わせるほど、シャノンは他の冒険者が行かないようなところまで入り込んでいって、ゲルドグを狩った。


 憎んでいるのだ。

 と、その心事はユーリも理解できるし、共感もしている。

 ユーリもまた、忘れられない。

 あの、今にも消えてしまいそうなシャノンを1日中ずっと抱きしめていた日のことを。



 そのゲルドグが凄まじい勢いで2人に突進してきたのは、午後の陽もようやく傾きかけた森の中だった。

 通常の冒険者が来ないような場所で、シャノンがゲルドグのにおいを嗅いでそれを追ってこんな奥までやって来たのである。


 おびき寄せをやるまでもなく、こちらのにおいを嗅ぎつけたのか、ゲルドグは凶暴と言うしかないスピードで若木を薙ぎ倒しながら突進してきた。


 迎撃体制を作るのが精一杯。

 弩の向きを膝で調整する間さえなく、ユーリとシャノンが同時に爆裂矢を放った。


 シャノンの矢は口の端に刺さり、ユーリの矢が上顎の中に刺さった。


 それでもゲルドグはのけぞったりしない。

 そのまま2人を噛みちぎろうとするかのように、その鋭い牙で襲いかかってくる勢いを止めなかった。


 シャノンがユーリを抱えて横っ跳びに跳ぶ。

 ゲルドグの牙がそれを追って顔の向きを変えた時に、爆裂矢が爆発した。


 地面に転がってユーリを庇うように丸めたシャノンの背に、ゲルドグの生温かい血飛沫がかかった。

 ユーリを庇ったまま、大地から伝わる大きな振動でシャノンはゲルドグが斃れたことを確認した。


『斃した。』

 とユーリがシャノンの腕に伝える。

 ユーリの速い心臓の鼓動が、シャノンの胸に伝わってくる。


 起き上がってお互い怪我がないか確認しあっている時に、シャノンがユーリの手のひらに指文字を書いてきた。

『あと2頭いる。』


 ユーリの心臓が跳ね上がる。

 ゲルドグは通常単独行動では?


『でも振動が小さい。遠いようだ。』

 ・・・・・・・

『いや。においは近い・・・?』


 シャノンがやや混乱したように伝えてきた時、ユーリはその正体を()()


『仔だ。』

とシャノンに伝えたまま、ユーリは固まった。



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