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スリーセンス  作者: Aju
14/33

14 3人の戦士(後編)

 テルクはユーリたちから30mほど先に行ったところで立ち止まると、森に向かって叫び声を上げはじめた。


「きゃああああっほほほほおおおい! やほおおおおい! きゃっきゃっきゃあ!」

 女の子のようなかん高い声だ。


   *   *   *


 シャノンはテルクがすぐ脇を駆け抜ける振動と風を感じた。

 ゲルドグの足の振動にかき消されて、その先はわからない。


『テルクは何をやっている?』

おびき寄せだ。30mほど先で。あのバカ・・・』

『いや、バカじゃない。頭がいい。そのままやらせろ。』

 シャノンはユーリの手に伝える。


 シャノンも不安だったところなのだ。

 街道沿いの木々は下まで葉が茂っている。

 おそらくユーリは、ゲルドグが相当近くまで来なければ捉えることができまい。

 ゲルドグの動きを街道の上で補足してコントロールできるなら、それの方がはるかに有利だ。

 ユーリより先にあの少年はそれに気がついたのか。


『ゲルドグが出てきたら、誘き寄せをしながらこっちに走ってきて俺たちの後ろに隠れるように伝えてくれ。』


 あと70m。

 地面の振動から得られる情報では、ゲルドグは向きを変えて速度を上げたようだった。


『もうすぐ出るぞ。』


   *   *   *


 テルクの目の前の藪が大きく揺れて、おぞましい姿が現れた。

 それを見たテルクが、まさに脱兎のような勢いでユーリたちの方に走ってくる。


「きゃあああ! きた、きたあ! きゃああああああっ!」

 発している言葉とは裏腹に、ものすごく嬉しそうな顔をしている。


 そのテルクを追いかけて、ゲルドグがこちらに突進してきた。

 やや小型だ。

 これでは街道に出るまで、木の葉にさえぎられて姿を完全には捉えられなかっただろう。

 なるほど。テルクは頭がいい。

 この状況ならば、こっちが断然有利だ。


 ユーリとシャノンは、街道上のゲルドグに向かっていつもどおりの体勢をとる。

 ユーリは膝を、シャノンの背中に当てる。

 テルクがユーリの後ろに駆け込んだ。


 ギシャアアアアァァ!!


 ゲルドグが吠える。


「きゃああ! こわい! こわいい! きゃあああああっ!」

 ユーリの背後で、女の子みたいな声でテルクが叫んでいる。

 それでいて、しっかりと弩を構えている気配がある。

 コントロールを確実にするための「おびき寄せ」なのだ。


 こいつ。

 いい度胸だ。


「3発あれば確実に仕留められるな。タイミングを逃すなよ。」

「了解です! 師匠!」

「師匠じゃないっての——。」


 そう言いながら、ユーリは腹の中でちょっと違うことを思っていた。

(これだけデキるやつにそう呼ばれるのも、けっこういい気分かも・・・)


   *   *   *


 傍らを抜けるヒトの足の振動と風を感じた。

 テルクが戻って、ユーリの後ろに入ったんだろう。


 いつもどおり、ユーリが背中に弩の向きを指示してくる。

 やっと臭いを捕捉できた。

 いつ嗅いでも嫌な臭いだ。


 街道の地面は踏み固められているので、ゲルドグの位置も動きもいつもよりはっきりと分かる。


 口を開けたな。

 臭いが強い。


 ユーリの膝が「撃て」の合図を送ってきた。

 少しだけタイミングが早くないか?


 だが、これに関しては全幅の信頼を置くユーリの指示に従う。


 シャノンは静かに引き金を引いた。


 ゲルドグの足が止まる。

 すぐに、激しい空気圧とゲルドグの血の臭いがシャノンの顔を襲った。

 いつもより爆発の圧が強い。


 ああ、そうか。

 テルクにも撃たせたのか。

 それで、爆風が強くなるから少し距離をとったんだな。


 大きな振動を最後に、ゲルドグの動きは止まった。


 ゲルドグの振動がなくなると、背後で足を踏む小さな振動がシャノンの足裏に伝わってきた。

 歓びに満ちあふれたステップだ。

 テルクだな——?

 シャノンは思わず顔がほころぶ。


   *   *   *


 ゲルドグが膝から崩れ落ちた。

 頭がほぼバラバラに吹き飛んでいる。

 頭頂部の銀色の鱗も牙も損傷が大きい。


「値が下がるな、こりゃ・・・。」

 ユーリが独りごちる。


「いいいやったあ——! やったあ! すげえぞ、オレっ!」

 テルクがぴょんぴょん跳ね回っている。

「スリーセンスさんと一緒にたおしたぞぉ! 今までの人生で、最高の瞬間んんん!!」


 くっくっ、と笑う声が聞こえた。

 シャノンが笑っている。

 たぶんテルクのはしゃぎようを、シャノンなりに路面の振動で感じとっているのだろう。

 シャノンは時々、こんなふうに声を出して笑うときがある。


 もちろん、シャノン本人は聴こえていないが、喉が震えていることはわかるようで、以前ユーリがそのことを伝えたことがある。

 聴こえなくても、シャノンは声は出るのである。それを利用して話すことができないか。

 と2人でチャレンジしてみたことがあったが、ちゃんと聞き取れる言葉にまではならなかったので、それっきりになった。

 指文字のコミュニケーションでシャノンを独占しておきたい・・・。そんなユーリの思いが早々と諦める要因の1つになっていない、と言えば少し嘘が混じるだろう。


 ユーリが、長い針の付いた白い三角錐をゲルドグの死体に突き刺す。


 シャノンがユーリの手にテルクへの伝言を伝えてきた。

「テルク。シャノンが『おまえのエンブレムも刺せ』と言ってる。」


「え? いいんですか!?」

 テルクの嬉しそうな顔というのは、なんともかわいらしい。

 これ、こいつの武器だな——。とユーリは思う。


 テルクは荷物の中から自分のエンブレムを取り出した。

 白い球体が3つ連なっている。

 それに針を取り付けて、顔中で笑った。

「初めてっす。自分のエンブレムつけるの。」

 涙ぐんでいる。


 今までは「お手伝い」扱いで、エンブレムは付けさせてもらえなかったようだ。

 そりゃあ、嬉しいだろうな。


「ちょっと借りていいか?」

「もちろんっす!」

 ユーリはシャノンにも触らせてやろうと思ったのだ。

 それにしても、おかしな形のエンブレムだ。

 あまり強そうに見えない。


『ダンゴだな。』

 というのがシャノンの反応だった。

『だね。(笑)』


「憧れのスリーセンスさんにあやかりたいと思ったんです。でも、さすがに白い四角錐とか菱形は・・・。で、丸にしたんです。でも、3という数にはこだわって・・・!」

 どうみても串団子・・・だが・・・?


 それは口には出さず、(シャノンの反応も翻訳せず)ユーリは笑顔だけを見せた。

 嬉しさを全身で表して串団子をゲルドグに突き刺すテルクを眺めながら、ユーリはすっかりこの少年の「武器」にやられたな——と思った。


「いい働きだった。弟子にしてやってもいいぞ?」

「マジっすか!?」


 そのやりとりをシャノンの手に伝えると、シャノンからは別の答えが返ってきた。


『「仲間」でいいじゃないか。』



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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛くて有能な仲間が増えましたね。 (もし敵にまわると怖い子だ…)
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