13 3人の戦士(前編)
『来る。』
シャノンがユーリの手にそう伝えてきた時、街道右側の森の奥から鳥の群れが空に飛び立つのが見えた。
『ゲルドグ?』
『そうだ。距離500。こちらに向かっている。風向きのせいで臭いがわからなかった。』
「何なんです?」
テルクが初めて不安そうな顔を見せて訊いた。
「ゲルドグがこっちに向かっている。500m奥。風上だから、今まで気がつかなかったって。」
ユーリがテルクに説明すると、テルクは目を輝かせた。
「みっ! 見られるんですね!? スリーセンスのナマ戦闘!」
ユーリは露骨に嫌な顔をしながらも、それはそのままシャノンに伝えた。
周囲で何が起こっているか、誰が何を言っているかをできるだけ伝えてシャノンの状況把握を的確なものにするのは、ユーリの役目でもある。
シャノンからは意外な答えが返ってきた。
『おまえも戦うんだぞ。協力しろ——。と伝えてくれ。』
『子どもだよ?』
『ゲルドグ2頭を退治した冒険者だろ?』
ユーリがその言葉をそのままテルクに伝えると、テルクはぱあーっと顔を輝かせた。
まるで、街中で推しのアイドルにばったり出会った少年みたいな顔だ。
「仲間にしてもらえるんですね!?」
ユーリは(ちょっとかわいいかも)と思ったが、ことさら厳しい顔をつくった。
「暫定的な・・・協力者だ。まず、後ろから来る家族連れに、危ないから離れるように言え。町の方に戻るように——。」
「イエッサ!」
テルクは胸の前に手を持ってくる軍隊式の敬礼をすると、後ろの家族連れに向かって走っていった。
『300m。』
『街道まで出てくるかしら?』
『来るだろう。こちらの臭いは届いているはずだ。この振動は・・・』
シャノンは地面に手を当てる。
『本人的には、獲物に近づく抜き足差し足ってつもりらしい。』
ユーリは思わず、ぷふっ、と笑う。
あの巨体でそんなことしても・・・。
「何してるんですか?」
家族連れにゲルドグが迫っていることを伝えて、戻ってきたテルクがユーリに訊いた。
シャノンを見ながら、怪訝な顔で地面に手をついて真似をする。
「地面の振動でヤツの動きを観測してるんだ。わたしたちにはわからないよ。」
ユーリはシャノンと手をつないだまま、情報をやり取りしている。
「あと200m。そろそろ、木々をかき分ける音や足音が聞こえるはずだ。」
テルクは真剣な表情で地面に手を置いたまま、ユーリに尋ねた。
「で、作戦は?」
ユーリは弩に爆裂矢をセットする。
「いつもどおりだ。我々を喰おうと口を開けたところへ爆裂矢を撃ち込む。」
テルクは目を輝かせた。
すげえ!
話には聞いてたけど、並の肝っ玉じゃねぇや!
だが、ユーリが少し浮かない顔をしているのをテルクは見逃さなかった。
「どうしたんです、師匠?」
「師匠じゃない!」
「お二方とも師匠ですぅ! 何か手伝えることないですか?」
「危険だから、少し離れてろ。」
ユーリの浮かない顔には理由がある。
街道は一見すると開けていて見通しがいいようだが、街道沿いの木々は、日が当たる分だけ下の方まで葉が茂っている。
森の中のように見通しが利かない。
直前まで、ゲルドグの正確な動きをユーリが把握しづらいのだ。
すると突然、テルクが弩を持って街道の前方へと駆け出した。