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スリーセンス  作者: Aju
10/33

10 勇者爆誕

 ゲルドグが村の入り口にある木製の門をぶち壊した激しい振動が、シャノンの足裏に伝わってきた。


『来た。弩の方向はわたしがコントロールするね。』

 ユーリがシャノンの前に回り、姿勢を低くして弩の銃身を肩で支える。

 シャノンが銃座を肩で受けて、引き金に指をかける。

 訓練でやっている体勢だ。

『発射のタイミングはいつもの通り、わたしが伝えるよ。』


 ゲルドグの暴れ回る振動と、大人たちの爆裂矢の爆発が空気圧となって伝わってくる。

 ほんの150mほど先のことなのだ。

 苦戦しているようだ。と、シャノンは推測する。


『こっちにおびき寄せるね。』

 ユーリが指でシャノンの腕に伝えてきた。


 誘き寄せる?

 さっきからユーリが伝えてくる『誘き寄せる』とは、どういうことだ?

 ユーリは何をするつもりなんだ?


 突然、ユーリの体と弩が左右に大きく揺れた。


   *   *   *


 村の入口の門が破られた。

 この中に、肉の柔らかい若い人間エサがいる。と知っているのだ。

 昨年の襲撃で味をしめたのだろう。

 手酷い反撃も受けたが、動き回っていれば人間あいつらの妙な武器は急所には当たらない。

 そういうことも学んだのだろう。

 今回は手強い。


 ゲルドグの残った左目を狙おうと回り込んだハヤンは、目の端にとんでもないものを見た。

 ユーリとシャノンが広場の外れで、ひざまづいて弩を構えているのだ。


 思わず、ゲルドグから視線を逸らしてそちらに顔を向けてしまった。


 どおおん!


 ハヤンの爆裂矢はゲルドグの左目からは外れて、頬のあたりの硬い鱗の上で爆発した。

 ゲルドグは爆発の瞬間、瞼を閉じただけだった。


「何をやってる!? 逃げろ!」

 ハヤンは走りながら大声を出し、急いで次の矢をセットしようとする。

 その時、もっと驚くことが起こった。


「きゃあああああほほほほほぉーい!」


 ユーリがゲルドグに向かって大きく手を振り、悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げた。

 子どもの声だ。

 ゲルドグが、はっきりとユーリをロックオンしたのが分かった。


 柔らかで美味そうな人間エサがいる。


 ゲルドグは一直線に2人の子どもに向かって走り出した。


   *   *   *


 来る!


 ゲルドグはシャノンとユーリに向かって、突進し始めた。


 ユーリは再び体勢を立て直し、弩の方向を定める。

『来る。わたしたちに向かって走ってくる。弩の方向はわたしが調整するから。口を開けたら合図する。』


 指文字で伝えられるまでもなく、ゲルドグの踏み下ろす足の振動が地面から伝わってくる。

 強烈な臭いがゲルドグの興奮を伝えてくる。


 その距離。

 80m。


 50m。


 30m。


 まだ口を開けないか?


 20m。


 15m。


 ユーリの左手が、ぽん、とシャノンの膝を叩いた。

 シャノンは静かに引き金を引く。

 ゲルドグの口の中の臭いがシャノンに届いた。

 弩の反動が、肩に来る。


 1秒後。

 猛烈な空気圧と、火薬の臭いと、ゲルドグの血の臭いがシャノンの顔面を襲った。


 ユーリがシャノンの膝を左手で、ぱあん、と叩いて立ち上がった。

 その動作に、喜びと興奮が表れている。


 が、シャノンはその足裏に届く振動で、次の危険を察知していた。


   *   *   *


 ゲルドグの頭が叩き割った大きなカナルの実みたいに吹っ飛んだ。


「やった!」

 ユーリはそれをただ手のひらでシャノンの膝を叩くことで表現し、立ち上がった。


 が、次の瞬間、シャノンがいきなりユーリの体を抱えると横っ跳びに跳んだ。

「・・・ッ!」


 脳からの信号を失ったゲルドグの巨体が、膝から崩れ落ち、ゆっくりと倒れ込んできた。


 ボロ雑巾のようになったその頭が、つい今しがたまでユーリたちがいた所に落ちてきて、取り残された弩がゲルドグの頭蓋骨の重みに耐えきれず、血の海の中で真っ二つに折れた。

 シャノンと2人で地面に転がった後で、ユーリはそれを目撃した。


 あの瞬間、シャノンはゲルドグの倒れる方向と位置まで予測していたのか?


「すごい! シャノン。あんた、すごぉい!」

 叫んでから、ユーリはそれがシャノンには聞こえないことを思い出した。


 ユーリはシャノンの頬っぺたといわず腕や脚といわず、手当たり次第に指文字で称賛の言葉を書きつけ、それから、母親に抱きつく小さな子どもみたいにシャノンに抱きついた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読みました。 限定された描写でここまで表現できるのがすごいです! スリーセンスでも伝わってくる臨場感……読みながら違和感を抱かせないのがさすがですね。 続きも楽しみに読ませて頂きます…
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