97、二つの結婚式
最終話です。
いつもの倍くらいの長さになっています。
暖かい春が訪れてしばらく経った今日、私は、19歳の誕生日を迎えた。そして、私の結婚式の日でもある。
アルベルトが言っていた賭けは、どちらかの誕生日に結婚式をしたいということだったらしい。アルベルトは夏生まれだもんね。
カードの理由を尋ねると、彼は恥ずかしそうな顔をして、そのことを明かした。事前に考えてくれたサプライズ演出の一環だったみたい。
(ふふっ、失敗しちゃったけどね)
ハワルド家では、普通の結婚式はしない。当主である母に結婚の挨拶をするだけの、式とも呼べないものだ。
(少しおかしいのよね)
普段は、母は屋敷を離れている。様々な雑務をする父から聞かされたことは、普段着で良いということと時間の連絡だけだった。
すぐ上の姉は去年結婚した。長女はその場に出席したみたいだけど、私には、その日が終わってからの事後報告。暗殺貴族だから、姉妹の馴れ合いを避けるためだろうけど。
いろいろと考えた結果、今日は試練の日なのだと私は思っている。
その根拠は二つ。
一つ目は、去年の姉の結婚の日に、治癒薬師長であるシャーベットが、屋敷に呼び出されていたこと。
彼女は施設の指導を急に休んでいた。おかしいと思って私が連れ戻しに来たとき、見知らぬ男性の手当てをしていたのよね。
しかも、私には何も話せないと隠した。シャーベットが数日離れられないほど、その男性の怪我は酷かった。治癒ポーションを使えない事情があったみたい。
そして二つ目は、乙女ゲームの知識。悪役令嬢レイラ・ハワルドは、19歳で死んでいる。だけどなぜ断罪されたかは描かれていない。あの物語を未来予知して書いた神には、詳細がわからない。つまり、何かの罪での死刑ではないということ。
だとすると、レイラを殺せる能力のある人は限られている。普通に考えれば、ハワルド家の血族しかいない。だけど姉達には、私は殺せない。今では私が一番強いもの。当主を除けば、だけど。
当主と会う機会は、ほとんどない。
悪役令嬢レイラは、誰かと結婚しようとした日に、秘密裏に行われる試練に失敗して命を落とした、という可能性が高いと思う。
私は、動きやすいワンピースを着た。そして堂々と腰には短剣を3本装備する。護身用には頼りないが、無いよりはマシだもんね。
朝、時間より少し前に、アルベルトは騎士風の礼装で屋敷を訪れた。
(すっごく緊張してるみたい)
「レイラ様、おはようございます。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。アルベルト、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。挨拶だけだし」
「ええ、いや、はい。ちょっと昨夜は眠れなくて……」
(ふふっ、やっぱりね)
アルベルトは、私に弱味を隠さなくなった。信頼してくれているってことよね?
「今日は、アルベルトは動かなくていいからね」
会場となる部屋へ歩きながら、私は明るい声でそう告げた。
「どういうことでしょう?」
私が腰の短剣を指差すと、彼は息を飲んだ。
「貴方は、ハワルド家の当主の前で、剣を抜いてはいけないということよ」
「剣を抜くような無礼は……かしこまりました」
アルベルトは、廊下に人の姿を見つけ、反論をやめた。彼の生まれのことは、既に屋敷にいる全員が知っている。だから彼が剣を抜かなければ、絶対に、もしものことは起こらない。
◇◇◇
「レイラ様とアルベルトさんが到着されました」
客間として使っている部屋に入ると、私の予想通りだった。壁側にはズラリと、完全に武装した近衛兵が立っている。
当主の椅子の横に、もう一つ椅子が用意されている。
(姉の分かしら)
私が部屋の中央で立ち止まると、アルベルトは片足を床につき、頭を少し下げて、敵意がないことを示している。
しばらくすると奥の扉から、父が入ってきた。そして、当主の椅子の横に立つ。
母と長女は、一緒に入ってきて、それぞれの椅子の前にも立った。
「レイラ、その格好は何なの? 結婚する花嫁には見えないわね」
母は、私に冷ややかな視線を向けている。
「お母様、これは、私のお気に入りのワンピースですわ。こちらの者が、婿となるアルベルト。本日これより、私は彼と夫婦になることを宣言いたします」
「そう。それで、アルベルトは良いのかしら? 貴方は王家の血筋でしょう? この場で結婚を取りやめても構わないのよ?」
「当主様、私はレイラ様と夫婦になりたく思います。どうか、お許しください」
キン!
アルベルトが頭を下げた瞬間、母が私を狙って短剣を投げた。私は装備していた短剣を抜き、それを弾き落とした。アルベルトはハッとした顔をしたけど、動かないよう我慢したみたい。
「あら? なぜアルベルトは、レイラをかばわないのかしら? まさか、気づかなかったの?」
「お母様! なぜ私がアルベルトなんかに守られなければいけないの? 私の方が強いのよ? まさか、私をバカにしてらっしゃるの!?」
私が怒鳴ると、場が凍りついたのを感じた。
何の術も使ってない。そんなことをすれば逆手に取られる。だけど、母の近衛兵達が一瞬だけど怯んだのは、気持ちが良いわね。
「あらまぁ、レイラはまだ反抗期なのかしら。自分の結婚の日に、短剣を装備してくるような娘に育つとは……」
(何よ!)
私は、母の視線を真っ直ぐに受け止めて、睨み返す。
「私は、自分が大切なものは、自分の手で守るわ!」
キン!
(あ、あぶないわ)
母は今度は本気で、アルベルトの胸を狙って短剣を投げた。だけど、ギリギリ、なんとか弾くことができた。
「あらまぁ、アルベルトを嫌っていたのではないの? 王家の血を引くとわかったら、態度が随分と変わるのね」
「私は大人になったのよ! 私から大切なものを取り上げようとするなら、たとえ、お母様でも許さないわよ!」
アルベルトがハラハラしているのが伝わってくる。だけど、彼は、母に頭を下げた姿勢を保っている。
「あらあら、レイラを敵に回すと面倒ね。好きになさい。ただし、ハワルド家の娘としての仕事は断らせないわよ」
「それなら、近衛兵達に下がるように言ってくださる? まぁ、一応、解毒薬は持ってきたけど」
私がそう言うと、母はニヤッと笑って、さっさと手をあげた。近衛兵達は、隠し持っていた小瓶を床に置いた。
「レイラ、貴女の施設は楽しみにしているわ。アルベルト、わがままな娘をよろしく。じゃあ、またね」
(軽いわね……)
母はケラケラと笑いながら、退出していった。姉は見届け人だったのかしら? 私にふわっとした笑みを見せて、母の後を追って出て行った。
「レイラ、おまえという娘は……」
「お父様、こうしなければ私は殺されていたわ。私が転生者だということも、知っているのでしょう?」
「未来予知か。はぁ、本当に面倒なことはしないでくれよ? 俺の身にもなってくれ。だがレイラ、見事だった。ちなみに俺は、先代の当主に、瀕死の重傷を負わされたよ」
「そんな試練は時代錯誤よ」
「あはは、そうか? アルベルトさん、こんな娘ですが、これからも頼む」
「はい、旦那様」
父が退出すると、近衛兵達は、私に跪く。なんだか手のひらを返すような態度に見えて、逆に感じ悪いんだけど。
◇◆◇◆◇
「遅かったですね。心配しましたよ」
あの後、私は自室で湖の色のような深いブルーのドレスに着替え、アルベルトと一緒に施設へ移動した。
心配そうな顔をしたシャーベットが、門の前で待ち構えていた。
「私が着替えをしていたから、ちょっと遅くなったの」
「髪がぐちゃぐちゃですよ。もうっ、ちょっとこちらに来てください。アルベルトさんは先に精霊殿へどうぞ」
「あ、はい」
アルベルトは、まだガチガチみたい。下手をすると殺されていたもんね。とんでもない儀式だわ。
シャーベットは、精霊殿の横の小さな小屋に私を連れて行った。そこには、アーシーも待っていた。
「アーシーさん、レイラ様の髪をお願いできる? 私は、ドレスに合う花を大急ぎで用意してくるわ。てっきり、ハワルド家の黒いドレスだと思ったから〜」
シャーベットは施設の方へ走っていく。張り切っているお母さんみたい。
「レイラ様、お化粧も直さないと」
アーシーも慌てて、バタバタしている。ふふっ、張り切っているお姉ちゃんね。
私は、これから精霊殿で、結婚式をすることになっている。精霊信仰のアルベルトに合わせた式だ。とは言っても、精霊が、私達を夫婦だと宣言してくれるだけのものみたい。
「氷花ちゃんが、式を仕切る精霊様なのよね?」
「あ、はい。今朝早くから準備されてますよ。髪もかわいくしてと言われて、セットさせてもらいました」
「昼頃になるって言ってたのに?」
「はい、もうずっと落ち着かない様子で。雪粒花様も、ソワソワされてます」
ポロくん達の記憶から生まれた精霊は、あれからずっと、この施設にいるみたい。湖の精霊が、まるで子分みたいに、連れ回しているのよね。
「レイラ様、花飾りはこれで良いわよね? アーシーさん、お願いね」
息を切らせて、シャーベットが持ってきたのは、雪の花だった。湖の精霊が好きな花だから、なんかギャーギャー言われそうだけど。
「わかりました。レイラ様のお化粧が……」
「じゃあ、それは私がやるわ」
アーシーは、髪に花を飾って編み込んでいく。ほんと、器用よね。なんだか、お母さんとお姉ちゃんに、お世話されてるみたいで、ちょっとくすぐったい気分になる。
「アーシーが結婚するときは、私が髪をセットしてあげるね」
「ふぇっ!?」
アーシーの顔が真っ赤に染まった。ふふっ、その日は、近いのかしら?
◇◇◇
「えっ!?」
私は、シャーベットとアーシーに連れられ、精霊殿へと入って行った。そこには、あまりにも多くの人が参列してくれていて、私は、思わず驚きの声をあげてしまった。
ノース家の人達はもちろん、施設の人や孤児院の子、さらには、卒業した剣術学校の同級生までがいる。見たことのない人達も少なくない。アルベルトの知り合いかしら。
「レイラさん、おめでとうございます。さぁ、前へ」
「ありがとう、マザー」
マザーが、そっと手を引いてくれた。アルベルトのお母様なのに、孤児院の子達と一緒にいたのね。
祭壇の前には、緊張した表情のアルベルトがいた。
「とても似合っていますよ。綺麗です」
「そう? ありがとう」
二人一緒に参列した皆に軽く会釈をして、祭壇の方へ向くと……。
「えっ!? フローラさん」
『氷花ちゃんがやるって言ってるのに、ジュレカ姫がやりたいって言うの〜っ!』
『ボクも〜、ゆきんこもやりたい〜』
「氷花は、見ておきなさい。雪粒花もね」
『むぅ〜、氷花ちゃんだってできるのにぃ〜。ゆきんこは、ここで見てなさいっ』
(ふふっ、姉弟みたい)
フローラさんは、淡い光を放ち始めた。参列していた人達が、少しザワザワしている。
『二人がここで夫婦となることを、純恋花の名のもとに宣言いたします。これからの二人に、幸多きことを祈りましょう』
私は、アルベルトを見習って、祈りの仕草をする。やったことないから、ぐちゃぐちゃだわ。
スーッと光が収まると、アルベルトはホッとしたような穏やかな顔で、私を見ている。えっと、たぶん、これで終わりよね?
『ちょっと! 変な子! 誓いのキスはどうしたの!』
「えっ? 今? 司会進行は?」
すると、雪粒花が、私に耳打ちする。
『レイラ、女の子から誓いのキスをするんだよ』
「私から? アルベルトからじゃないの?」
『ジュレカ姫が宣言したから、女の子からだよ。ボクが宣言したら、男の子からなの』
コソコソと話していると、アルベルトが、ぷぷっと吹き出している。最初から教えといてよ。
『レイラさん、アルベルトさんに誓いのキスを』
(司会進行があるじゃない!)
「えっと……ちょっと心の準備が」
「ふふっ、いくらでも待ちますよ」
アルベルトは、心の底から楽しそうな笑みを浮かべている。悪戯が成功した子供みたいな顔だわ。
でも、ちょっと待って。こんなに大勢の前で? チビっ子も見てるよ?
(もうっ!)
頬が熱い。きっと真っ赤になってる。
「アルベルト……私が守ってあげるから」
「はい。俺も、レイラを守りますよ」
(レイラって初めて言われた!)
さらに熱くなる頬。
だけど、覚悟を決めるしかない!
私は、そっと唇を重ねた。
そして、唇を離したとき、アルベルトは、私だけに聞こえる小さな声で囁いた。
「愛しています。これからもずっと、貴女だけを」
──────── 《 完 》 ────────
皆様、最後までお読みいただきありがとうございます。
おかげさまで、無事完結まで描くことができました。本当にありがとうございます♪
それに、ブクマや星応援、いいねもたくさんありがとうございます。チカラを入れて頑張ったエピソードにはいいねが多く、ちゃんと伝わっているんだと嬉しくなりました。
次の異世界恋愛ジャンルは、いくつか候補を考えていますが、まだプロットは作っていません。優しくてほっこりできるお話を書きたいと考えています。そのときは、またお越しいただけると嬉しいです。
最後にお願いです。
付けてくださったブックマークは、枠に余裕があれば外さないでほしいのです。ブクマが減ると忘れ去られるようで寂しくなるので……(´・д・`)ワガママすみません。
完結作もいくつかあるので、よかったら作者ページから覗いてみてください。短編では、恋愛要素なしですが、大人向けの童話として描いた『桜色スライムのメイドカフェ』が、個人的にオススメです。
後書きも最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました♪ アリ(´・ω・)(´_ _)ガト♪




