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94、時は流れて

 それから、あっという間に二年ほどの時が流れた。


 精霊『純恋花』様は、あれから実体化してフローラとして、私の前に現れることが増えていた。


 あのとき、なぜ彼女がアルベルトに、あんなことを命じたのか、私にはわからなかった。ハワルド家の娘では釣り合わないと、拒絶されたと感じた。


 だけど、それは私の被害妄想だということが、暴露系な精霊のおかげで、徐々にわかってきた。



 アルベルトの父親である前国王が書いた手紙は、一通ではなかったらしい。私が前世の記憶を取り戻す少し前に、もう一通が、別の権利者によって開封されたことがわかった。


 それを開封したのは、王家にいる現国王の姉妹の誰かだという。つまり、その手紙が開封されたことで、精霊『純恋花』様が慌てたみたい。


 その手紙は、やはりアルベルトの存在を知らせるものだった。前国王は、弟がいるということを娘達に伝えたかったのだろう。それが、大きな悲劇の引き金になる可能性を考えなかったのね。


 姉妹の一人が、何も知らないアルベルトを捜し出して、自分の傀儡かいらいとして新国王に擁立しようと考えたらしい。


 アルベルトを傀儡に……操り人形にできないなら、始末してしまおうとまでたくらんでいるという。



 慌てた精霊『純恋花』様は、強制的に私の記憶の蓋が外れるように、働きかけたらしい。つまり、あの実習の日のゴーレム出現による転落事故は、慌てた彼女が仕組んだことだったみたい。


 不思議な光の目撃情報から、私の魔力がゴーレムを引き寄せたと噂されたけど、その光って、私じゃなくて精霊『純恋花』様だったのね。亡くなった人もいるのに。


 だけど、アルベルトが持つ手紙が開封されなければ、とんでもない数の犠牲者が出たと思う。下手をすると、国全体に戦火が広がって、この世界が消滅する可能性もあった。


 薬師が大量に殺されたり、イブル家が怪しげな行動をしていたのも、もう一通の手紙の権利者が原因で、起こったことだと、湖の精霊が教えてくれた。


 この世界が危機的な状況になっていたのは、集まってくる堕ちた神々のせいかもしれない。だけど、精霊『純恋花』様は、その神々が集まっていることで、互いに均衡が保たれているとも言っていた。



 彼女があんなことをアルベルトに命じたのは、アルベルト自身に、ノース家を抑えさせる時間を与えたかったのかな。


 これも、湖の精霊からの情報だけど、アルベルトの父親を明かしたとき、ノース家の人達に黒い感情が生まれたらしい。


 ノース家当主よりも、その供をしていた人達の方が、どす黒くなったと言っていた。おそらく、アルベルトの血筋を公表すれば、ノース家は高い爵位を得られると考えたのだろう。


 アルベルトがこれを抑えるか、もしくは調子に乗ってしまうのか……。


 精霊『純恋花』様は、アルベルトを試したのかしら。



 ◇◇◇



「レイラさん、今日も立ち会いをお願いしたいの。今からでも大丈夫?」


「フローラさん、ここは剣術学校、今は授業中ですよ? 勝手に入って来ちゃダメです。夕方なら大丈夫ですよ」


「あら、うっかりしていたわ。皆さん、お邪魔しちゃってごめんなさいね。じゃあ、夕方に、施設の食堂にお願いね」


 突然どこにでも実体化して現れる精霊『純恋花』様。


 初めは驚いていた先生達も、もう慣れてしまったみたい。私の、変わった友達だと思われているらしい。



 精霊『純恋花』様は、ノース家の当主のように、時間が欲しいと祈る者達に、堕ちた神々を憑依させている。彼女が実体化しているのは、そのためだという。


 前世の記憶を持つ私は、その場に同席することを求められた。私には、精霊を補助する光があるらしい。私をこの世界へ導いた神が、転生者にそのような力を与えていたみたい。


 そのチカラのせいで、私がまともな魔法が使えないこともわかった。


 精霊『純恋花』様が、私が彼女の一部でもあると言っていたのは、その力のことみたい。もともとは、彼女のチカラだったものを、あの手紙の神が、私達をこの世界に招くためにアレンジして、分け与えてしまったんだって。


 ほんと、身勝手な神のせいで、あれもこれも大変だわ。



 ◇◇◇



 剣術学校では、私は、真面目に座学の授業を受けるようになっていた。学ぶべき知識はない。ただ、先生がどうやって授業をするのかを観察していた。


 特別親しい友達はつくらなかった。近寄ろうとする人は少なくない。だけど、ハワルド家に生まれた者の宿命よね。親しくなりすぎて王命による仕事に支障が生じるといけない。でも、今の王家は不安定だけど。


 私は卒業したら、正式に、施設に併設する初等学校で働くことにしている。別に、先生をするわけじゃないけど、生徒への接し方や話し方は、きっと役立つと思う。



 スノウ家の次男とは、あまり学校で会うことはなくなった。だけどアルベルトとは、変わらず交流があるみたい。薬師ギルドの出張所を、施設内に作ってくれた。


 しかもコルスさんも、卒業後は、施設で働くことになるという。薬師ギルドの責任者なのに。


 これは、薬師学校のサーフ先生の強い推薦があったみたい。サーフ先生は、施設で研究だけがしたいらしく、コルスさんを近くにおいて、薬師学校の先生に育てるつもりだと、アーシーが言っていた。


 アーシーからサーフ先生の話は、たまに聞くようになったけど、二人は互いに好きだと思うんだけど、まだ何の進展もないみたい。


 私は見守ることにしていたけど、あまりにもじれったくて、そろそろ限界かもしれないわ。



 ◇◇◇



 アルベルトは、ノース家にいることが増えていた。学校に現れることもなく、屋敷や施設で見かけることも、ほとんどなかった。


 アルベルトの素性のことは、ノース家の人達には明らかにしたみたい。当初は、隠されていた。だけど、王家の誰かがアルベルトを捜し当てたときに、状況がガラリと変わったみたい。



 私には何も聞かされてないけど、彼が現国王の実弟だったことを、アルベルト自身が、父にも明かしたらしい。当然、そんな情報はすぐに、ハワルド家当主である母の耳に入る。


 それによって、母がどういう行動を取ったかは、私にはわからない。だけど、ハワルド家の仕事の手伝いを減らしたことを、父から聞いた。


 父は、私の施設の管理が大変そうだから、と、嘘だとバレバレなことを言っていたっけ。


 でも、アルベルトの素性がわかっても、父の態度は変わらなかった。もしかすると、もっと早いタイミングで、その情報を入手していたのかもしれない。



 ◇◇◇



 ノース孤児院の子供達は、移設した孤児院の中で読み書きを習っている。初等学校に通う貴族の子供達よりも、優秀な子も増えてきたみたい。


 湖の精霊は、毎日、マザーに会いに行くらしい。


 マザーは、私が施設にいる長い休みの間は、湖の精霊が特に元気だという。単純に、私にケンカをふっかけたいだけだと思うけど。



 ノース家に仕えている見習い薬師カルロスは、施設に常駐し、孤児院に出入りすることが多くなった。そのため、彼の母親も、湖の近くの治療院に転院したようだ。


 私が崖から落ちて、前世の記憶を取り戻したとき、一番最初に会話をしたのが、彼女だった。薬湯を作って飲ませてくれたっけ。


 あの後、あの薬師一家には辛いことが続いた。


 私を助けてくれた薬師は殺され、その息子のポロくんは、まだ記憶が戻らない。毎日楽しく過ごしているみたいだけど、お婆さんの顔も、カルロスのこともわからないままだ。


 ポロくんが失った記憶から、精霊は生まれないのかな。でもアルベルトも、5歳までの記憶は戻ってない。受け止める準備ができれば、本当に記憶は戻るのかしら。



 ◇◇◇



 剣術学校の授業がすべて終わった、卒業式の数日前の初冬の朝、私にアルベルトから手紙が届いた。


 手紙は短く……


『卒業式の日の翌朝に、新たな精霊が生まれるそうです。湖岸に来てほしい』


 それだけが、書かれていた。


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