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90、精霊『純恋花』が明かす真実 ②

「ええ、生まれましたよ。人の想いから精霊が生まれると、加護を受けると考えたのでしょう」


 実体化して、私の隣りに座る精霊『純恋花』様は、何の抵抗もないような笑顔で教えてくれた。やはり、何も隠すつもりはないみたい。


「アルベルトが精霊の加護を受けることを、願われたのでしょうか」


「ふふっ、彼は人のことも精霊のことも、正しく理解できていませんからね。人は、耐えがたい強い衝撃を心に受けたとき、自分の心を守るために、つらい記憶を意識から遮断することがあります。その遮断された記憶が、何かを媒介にして精霊を生み出すことがある。たった一人の記憶の場合もあれば、大勢の記憶の場合もあります。そうして生まれた精霊には、その痛みを癒すチカラがあるのですよ」


「辛い記憶を癒すのですか」


「ええ。もちろん、時間はかかります。そして、それを受け止める準備が整ったときに、失われた記憶は戻るはずです。精霊は失った記憶を戻す手助けもできますからね」


「その神は、一緒に過ごした時間を思い出してほしくて、精霊が生まれることを願ったのかもしれませんね」


 私がそう言うと、精霊『純恋花』様は、ふわりと笑みを浮かべた。すべてを受け入れてくれるような優しい笑み。私がそう指摘することが、わかっていたみたい。


 神々がジュレカ姫の親衛隊をつくるのも、少し理解できる。私もファンになってきたもの。



「レイラさんの疑問は、解消されたでしょうか」


「はい、だいたいは解消されました。ですが、氷花ちゃんが私に対して、いつもファイティングポーズな理由は……私の想像で正しいのでしょうか」


「そうですね。氷花、お話しなさい」


『むむ? 嫌だよー。私は悪くないもん。変な子が悪いんだもーん』


(はぁ……)


「仕方ないですね。ええ、レイラさんがお考えの通りでしょう。氷花は、レイラさんを見ると、イタズラをしたくなる気持ちを抑えられないようです。アルベルトさんの5歳までの性格を濃く引き継いでいますね。精霊は、別の個性を持っているので、嫉妬心も加わっているようですが」


 彼女の話で、みんなに動揺が走った。一番動揺しているのは、アルベルトかしら。


 精霊『氷花』は、やはりアルベルトの記憶から生まれたのね。でも時間的に、少し遅い気はする。アルベルトが幼い頃の記憶を失ったのは、もう20年程前のことだけど、湖の精霊が生まれたのは私と同い年なら、16年前だわ。


 精霊が生まれるまでには、時間がかかるのかしら? まぁ、そういう不思議な力は私にはわからない。気にしちゃ負けね。



「なるほど、氷花ちゃんが幼い理由もよくわかりました」


『私は大人だよっ!』


「氷花、静かに」


『ひゃいっ!』


 テーブルの上を、私の方へツカツカと歩いてきた湖の精霊は、精霊『純恋花』様に叱られて、慌てて正座している。


 辛く苦しい心から生まれた精霊だから、逆に、こんなコメディアンみたいな子になったのかしら。



「レイラさん、貴女は何を打ち明けるべきか、まだ迷っているの?」


 精霊『純恋花』様の優しい声で、私は現実に引き戻された。やはり、アルベルトにはすべてを話すべきだと思う。ここにいる人達に聞かせたくない部分は、きっと、その神が記憶を消すのだろう。


 すべてを明らかにすると、私は婚約者ではいられなくなる。だけどここまで、精霊『純恋花』様が、力を貸してくれているのだから……。



「いえ、私は、すべてをお話しますわ」


 皆の顔をぐるりと見回した。本当は、アルベルトとマザーの表情だけを見たかったけど、二人だけに視線を向けると、先入観を与えてしまいそうな気がしたから。


(順番を間違えてはいけないわ)


 私は、スゥハァと深呼吸をして、話を始める。



「前世の私は、25歳のときに崖から落ちて、命を落としたようです。その記憶が蘇ったのは、15歳のとき、ゴーレムの出現により崖から転落した後でした」


 ここから話す必要があったのかは、わからない。だけど、前世の記憶から話すべきだと思った。


「フローラさんのことは、前世でやっていたゲーム……いえ、物語の中で知りました。その物語では、アルベルトも登場していた。また、レイラ・ハワルドも悪役令嬢として描かれていました。この世界で起こる未来を題材に描かれていたのでしょう。そういう意味では、私は未来の一部を知っていることになります」


 何人かが、ハッと息を飲んだような気がした。だけど、すべて話すと決めたもの。


「私は、悪役令嬢レイラ・ハワルドに転生したのだとわかり、強いショックを受けました。そして、自分に起こる災いを避けようと決意しました。物語では、悪役令嬢レイラは、アルベルトと婚約破棄をした後、学校では誰からも恐れられ、主人公を追い詰める人物です。最終的には20歳になる前に断罪される。だから、それを回避しようとしていました」


 私は、精霊『純恋花』様の方に視線を移した。だけど彼女は、優しく微笑むだけだった。


(試されているのかも)


 私は気を引き締めて、口を開く。


「物語を描いた神は、前世の記憶が戻ると、私が回避行動をとることを予想されていたのでしょう。そして、その回避行動こそが、彼が望む結果に繋がっていったような気がします。前世の私は、15歳の私とは全く異なる価値観を持っていましたから」



 すると、やっと、精霊『純恋花』様が口を開く。


「あの物語は、異世界からの転生者が存在しない状態での未来予知に基づくものだそうですよ。私達の世界のことを理解してくれた人達を、その死後、こちらの世界へ招いたようです。未来を知る異世界人なら、アルベルトさんの良き助けになると考えたようですね」


「私が断罪される未来は……」


「えーっと、美咲さんかしら」


「えっ!? あ、はい」


「25歳まで生きた美咲さんが、前世で得た知識を活用し、正しい判断を続けていけば、あの物語のような結末にはならないでしょう。しかし、不思議なものですね。あの物語を描いた彼が、悪役として選んだレイラさんに、アルベルトさんが惹かれたのですから。やはり、あの神は、何もわかってないわね」


 そう言って笑顔を見せた精霊『純恋花』様の右上に、何かの光が見えた気がした。


(ここに、いらっしゃるの!?)


 私がそう思った瞬間、その光は弾けるように消え去った。


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