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9、レイラ、16歳になる

 それから、しばらくの時が流れた。


 私が前世の記憶を取り戻してから、ひと月になる。つまり、あの事件から、ひと月も経ったということね。


 ロックゴーレムの襲撃により、引率職員が一人亡くなった。大怪我を負って辞めた職員もいるらしい。その穴を補うため、アルベルトが臨時職員をしている。


 アルベルトが臨時職員を引き受けた理由は、私には教えてくれない。父が何かを命じたのだろうけど。


 あの事件が私の魔力のせいで起こったという噂は、まだ消えてない。アルベルトが臨時職員をしていることで、ハワルド家の償いだとも言われているみたい。


 それに対して、ハワルド家からは何も弁明をしていない。暗殺貴族としては、この噂は逆に歓迎すべきものらしい。


(私は、魔法なんて使えないのに)




「レイラさん、聞いた? 午後の授業は剣術の試験だって。どうしよう〜。無理すぎるよぉ」


「いつも通りで大丈夫でしょ」


「大丈夫じゃないよぉ! 成績が悪かったら、兄貴にしばかれるよーっ」


 私は、一応、クラスメイトの名前を覚えた。記憶に自信がないから、なるべく名を呼ばないようにしているけど。また、何人かは友達として接している……フリをしている。


 私がクラスメイトを拒絶すると、アルベルトが心配そうにするためだ。


(全然、楽しくないけど)



 私に寄ってくるのは、自尊心の高い貴族ばかり。話すことといえば、家や兄弟姉妹の自慢話が多く、くだらないと感じた。おそらく私に、いやハワルド家にアピールしているのだろうけど、私に媚びる人が多くて疲れる。


 一方で、私を完全に避けている人も少なくない。別にケンカをしたわけでもないし、話したことのない人だったりするんだけど。


 父が私に何を学ばせたいのかは、すぐに理解できた。ハワルド家の者が、どういう目で見られているか。まぁ、想像通りだけどね。


 高台から落ちて以来、私の感覚は、二人が同居している状態が続いている。突発的なことなら15歳のままだけど、思考や価値観は前世の25歳の価値観が優勢みたい。


(あっ、今日、16歳になったわね)




「レイラさん、今日の授業後は、何かご予定はあるかしら? よかったら私の屋敷にいらっしゃらない? 新しい料理人のお披露目会をするのよ」


(行くわけないでしょ)


「ごめんなさい。今日は、ちょっと予定があるわ」


「まぁ、残念ね。でも、レイラさんがごめんなさいとおっしゃるくらいだから、大切な予定なのね」


「ええ、予定がなければ、行きたいところだけど」


「まぁっ! お披露目会の日程を変更したいくらいだわ。だけど、それは難しいの。そうだわ! 明日、料理人にクラスの皆さんの昼食を作らせるわ」


(えー、いらない)



「アマリス様、レイラ様は常に暗殺を警戒されているのだから、そんな昼食はご迷惑よ?」


(ナイスフォローね)


 妖艶な笑みを浮かべるクラスメイト。とても目立つ人だけど、名前は何だったかしら?


「暗殺? レイラさんが? 誰に狙われているというの?」


「あら? ご存知ないのね。ハワルド家のご令嬢には、多くの制約があるのよ。逆恨みされたりするでしょう? ねぇ、レイラ様」


(面倒くさくなってきた)


 私は、あいまいな笑みを浮かべておく。これ以上ごちゃごちゃ騒ぐなという圧を込めて。


 乙女ゲームで悪役令嬢レイラが、他の学生に怒りをぶちまけていた気持ちが、すっごくわかる。




「逆恨みといえば、少し前に、この近くの酒場で、スノウ家の薬師が殺されたらしいな」


 私達から少し離れた場所にいた人達の会話が聞こえてきた。その輪の中には、スノウ家の次男がいる。


「あぁ、ウチの薬師だけじゃない。薬師の会合を狙われたんだよ。潰された貴族の使用人だった奴らが、あちこちで暴れているだろ」


(えっ……)


 ざわっと嫌な予感がした。薬師の会合ってことは、私を助けてくれた薬師兄弟も参加しているかもしれない。


 薬師カルロスは、アルベルトがノース家で雇うと言っていたから大丈夫よね? でも、薬師の兄の方は……。



「その話、詳しく聞かせてくださる?」


 私は我慢できずに、会話に乱入した。私を避けている人達が怯えた顔をしていたけど、気にしてらんない。


「レイラさんが俺達の話に加わるなんて、珍しいね。ハワルド家の薬師は、そんな会合には出向かないはずだよ。公爵家に仕える薬師が、わざわざ辺境の……」


「落下事件の日、私を助けてくれた薬師がいるのよ。スノウ領に近い草原に住んでいるの。30代くらいで、品質の良い薬を作るわ」


「あぁ、そういうことか。悪いけど、殺された薬師の情報は俺には届いてない。今日帰ったら、生き残った薬師に聞いておくよ。だが、期待しないでくれ。もう半月ほど前のことだ」


「ええ、わかったらでいいわ。コルスさん、お願いね」


 私が名前を呼んだことで、スノウ家の次男は、目を見開いた。えっと、間違えたのかな?


「レイラさん、全力で調べますよ!」


 彼は、目を輝かせて、グーサインをして見せた。任せろってことね。


(名前は合ってたみたい)




「私達、レイラさんの今夜の予定が、わかっちゃいましたよぉ〜」


 席に戻ると、さっきの取り巻きがまた集まってきた。予定なんて何もない。誘いを断る口実だもの。


「えーっと、そろそろ午後の授業の準備をしないと、間に合わないわよ?」


 私がごまかすと、なぜかキャーって言ってる。


(何事?)



「レイラさん、今日、お誕生日ですよね。16歳おめでとうございます!」


「えっ? ありがとう。なぜ……」


(なぜ、知ってるの?)


 確かに誕生日だけど、この世界では5年ごとにしか祝う習慣はない。


「アルベルト様が今日お休みなのは、その準備のためでしょう? 昨日、明日がレイラ様のお誕生日だと、教えてくださいましたよ」


(なぜ言うかな?)


 アルベルトは、私が、友達がいるフリをしていることに気づいているのだろうか。


「婚約者と一緒に誕生日の夜を過ごすなんて、幸せですよね。羨ましいわ。キャー」


(ありえないわ)


「レイラさんのような美しい方は、アルベルトさんのような素敵な方と、本当によくお似合いですよね。素敵だわ」


 なんだか、キャーキャーと騒がしくなってる。こういう女子トークって、誰にも止められない。


(でも、ありえないわ、絶対に)



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