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83、暴露系な精霊

「私は、正方形が好きなのっ! 変な箱は認めな……あれ? 今、アナタ何て言ったの? 私のことを氷花ちゃんって言った?」


 湖の精霊は、まじまじと私の目を見ている。こびとサイズだから目が悪いのかしら。


(あれ? この精霊……)


 ポカンと呆けた顔をしていると、まるで幼い子供のように見えてくる。それに、なんだかアルベルトに似てる?



「ええ、氷花ちゃんって言ったわ。私は精霊信仰はしてないもの。それに、私のおでこを、どさくさに紛れて蹴るような子なんて、氷花様とは呼べないわ。精霊『純恋花』様とはあまりにも違うもの」


「どさくさに紛れてないよっ! 堂々と蹴ったよっ! ハッ! な、何でもないわっ。変な子が変なことを言うから悪いのっ」


 アルベルトの視線を感じると、湖の精霊は、思いっきり素知らぬ顔をしている。


 そんな湖の精霊に向けるアルベルトの表情は、とても優しい。なんだか、イライラしてくるわね。


(あれ?)


 そういえば、私が急にイライラしてきたのは、湖に霧が出てきたときだった。その直後に、この小さな精霊は、実体として現れたわよね?


 湖の方を見てみても、もう霧は消えている。あの霧自体が、湖の精霊の本来の姿だったのかも。



「精霊『氷花』様は、レイラ様のことを気に入っておられるのですね?」


(はぁ?)


「はぁ? 何を言っちゃってるのーっ? 私がこんな変な子を気に入るわけないじゃないっ。この子は、ジュレカ姫の伝説の世界から来た子が混じってるのよっ」


 不覚にも、湖の精霊と同じタイミングで、はぁ?って言いそうになってしまったわ。


「その、精霊『純恋花』様の伝説の世界というのは?」


「ひーん! また私、何か言っちゃった? 言ってないよね? 何も聞いてないよね?」


(この精霊……)


 アルベルトは、苦笑いしながら頷いた。精霊が人間に明かしてはいけないことなのだろう。この湖の精霊は、すぐに喋ってしまうみたいだけど。


 そういえば以前、ジュレカ姫の親衛隊をしてる頭のおかしな神々がいると言っていたわね。ジュレカ姫がいるこの世界を使って、偉大な精霊だってことを広めてるとか。


 あれは、私がやっていた乙女ゲームのことかしら。


(ん? 何?)



『だが、私のヴァンドールとしての寿命は、もう残りわずかだ。あと5年あれば、すべてが上手くいくはずだったのに、2度目の願いは叶わなかった。もう、私には時間がない。私はもう、アルベルトを守ってやることができない。だから、私は、ジュレカ姫に託すこととした。私の寿命が尽きるとき、息子はこれまでの記憶を失うだろう。息子の記憶から、新たな精霊が生まれることを願う。そして、この手紙を読む者が、私の息子アルベルトを支えてくれることを祈る』



 あの手紙の最後の段落が、頭の中に蘇ってきた。


 もしかして、乙女ゲームと関係があるの? あまりにも謎すぎる文章だけど……。




「精霊『氷花』様、あの……」


「何よ! 私は氷花ちゃんなのよ!? アナタ、私にケンカを売ってるの?」


(はい?)


 こびとサイズの湖の精霊は、私にシュッシュと、まるでシャドーボクシングのように、拳を突き出している。


「氷花ちゃんって呼ぶ方がいいの?」


「アナタは、ジュレカ姫のことしか、様呼びしないんでしょっ。ジュレカ姫の伝説の世界から来た子だから仕方ないわっ」


(扱いにくいな……)


「ジュレカ姫と呼ぶのは、精霊だけなの?」


「何を言ってるのっ? ジュレカ姫って言い出したのは、ジュレカ姫の親衛隊の頭のおかしな神々だよっ。私達じゃないよ。堕ちた神々は殴ってやらなきゃ!」


(また、訳わかんない)


「ジュレカ姫の親衛隊の神々が、闇堕ちしたの?」


「はぁ? アナタ、バカじゃないの? 逆よ、逆っ! あちこちでポイってされた堕ちた神々がこの世界に来て、ジュレカ姫の親衛隊になるのっ」


「ジュレカ姫と同じ名前の人とか精霊って、たくさんいる?」


「はぁぁぁあ? ジュレカ姫は、あちこちに花びらを置いてるだけだよっ! 精霊は全部名前が違うし、人間が精霊の名前をつけることはできないよっ。アナタ、ほーんとに、何を言ってるの? 頭のおかしな神々と同じビョーキじゃない?」


 湖の精霊は、後ろにアルベルトがいることを忘れているみたい。私には、思いっきり言いたい放題なのね。


 私がそう考えていると、湖の精霊は、手を口に当て、ソロリソロリと振り返ってる。



「キミ、何か聞こえた? 聞こえてないよね? 氷花ちゃんは、かわいくて良い子だよね?」


(はぁ……この精霊……)


 アルベルトが優しい笑顔で頷くと、湖の精霊は、ホッと息を吐いている。もう、この子、コメディアンにしか見えないわね。



 あの手紙を書いた人は……人間ではない何者かが同居していたのか。ヴァンドール様としての寿命は終わっても、その何者かの寿命は終わらない?


 文章には、時間がなくて焦る心境が表れている。ヴァンドール様として書いた部分と、その何者かが書いた部分が、混在していると感じる。


(少し、わかってきたかも)


 精霊は、あらゆる場所で生まれると、アルベルトは言っていた。湖の精霊は私と同い年だとも。だけど、精霊としては、まだ幼いのよね?


 私は、アルベルトより10コ年下だ。そしてアルベルトは、5歳か6歳のときに記憶を失っている。彼が記憶を失ってから4〜5年後に、湖の精霊は生まれたのよね。


 湖の精霊は、ボケーっとした顔のときは、とても幼く見えて、そして、やっぱりアルベルトに似ている。



「氷花ちゃんは、何から生まれたの?」


 私がそう尋ねると、湖の精霊はポカンと呆けた顔をした。


「私が湖の精霊なのを知らないの? アナタ、ほんとに大丈夫?」


「湖から生まれたの? それなのに、なぜ名前には湖に関連する言葉が入ってないの? 氷花ちゃんの名前って、まるで、凍りついた心から生まれたみたい」


 怒って蹴ってくるかと身構えたけど、湖の精霊は、その場で考え込んでしまったみたい。



「ハッ! ちょっと待ちなさいよっ! どうして、私が人間の想いから生まれたって知ってるのよ!」


「えっ? 氷花ちゃんは、人間の想いから生まれたの?」


 そう尋ねると、湖の精霊は、また手で自分の口を押さえて、キョロキョロしている。


「何も聞いてないわよね? 私、何も言ってないもん! さっさと帰って箱を作りなさいっ!」


 そう言うと、湖の精霊はパッと姿を消した。


(暴露系な精霊ね)


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