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78、託された手紙 ②

 アルベルトが了承すると、手紙はまるで、それがわかったかのように、文字が私の読めるものに変わっていく。


『この手紙を読む者は、これから語ることについて、他言するか否かを慎重に判断していただきたい。アルベルト本人に対してもだ』


 文字が変わるだけじゃなく、私が目で追っていくと、頭に直接響く男性の声も聞こえる。そして、読んだ部分の文字は、消えていくのね。


(自信がないわ)


 アルベルトに伝えるべきことが書かれていても、文字は一度読むと消えてしまうみたい。まるで、私の記憶力を試されている?



『この手紙を読む者は、これから語ることについて、他言するか否かを慎重に判断していただきたい。アルベルト本人に対してもだ』


(あっ、また聞こえた)


 文字は消えるけど、音は消えないのかしら? そういえば洗脳系の術って、音で他者を支配する。この手紙は、読むと音に変換されて頭に残るのかも。



 チラッとアルベルトに視線を移すと、彼はとても不安そうな顔をして、私を見ていた。さっきまでの不安な顔とは、少し違う。私に変な呪いがふりかかるのではないかと、心配してくれているのかな。


 目が合うようで合わない。彼は、チラチラと自分の手元を見ている。魔道具を使って、私に変化がないかをサーチしているのかも。



 私は、手紙に視線を戻した。


『まずは、私の名からしるすことにしよう。今の私は、ヴァンドール・ハイン・ガザツーフェだ。通称、シルフ14世。ヴァンドールとしての寿命は、残り少なくなった。ここに、真実を書き残すことを決意した』


(えっ? シルフ14世!?)


 確か、20年程前に亡くなった前国王の名だ。今の国王は女性で、シルフ15世だもの。性別に関係なく国の王は、国王と呼ばれている。


 この手紙は、前国王が書いたもの? それをアルベルトが持っている。ということは……まさか……。



『アルベルトは、私の息子だ。だが、妃との間に生まれた子ではない。アルベルトの母親とは、ノース領の大きな湖のある避暑地で出会った。彼女の名は、リーゼル・ノース。現ノース家当主のいとこにあたる娘だ』


(えっ? ノース家?)


 リーゼル・ノースという人を、私は知らない。20年前のノース家の当主は、今と変わらず、アルベルトを養子にした人だわ。


 ということは、ノース家の当主は、アルベルトがノース家の血を引くとわかっていて、養子にしたの? それなら、なぜ、そのことを公表しないの?


(あっ、公表できないのかも)



『私は、大きなあやまちを犯した。いや、だが、リーゼルを守るためには、これしかなかった。私は、リーゼルを愛している。彼女は私の素性を知らない。だから、彼女には何の罪もないのだ』


(不倫だもんね)


 だけど国王には、何人かの妃がいるはず。そんなに好きなら、リーゼルさんのことも……あっ、できないか。


 王家と婚姻関係を結ぶことができるのは、伯爵家以上の爵位のある家だけだわ。ノース家は男爵家。しかもリーゼルさんは、現ノース家の本家の令嬢ではないなら、例外的にも認められないと思う。



『アルベルトは、湖岸にある治療院で生まれた。リーゼルは出血がひどく、赤ん坊の顔を見ることなく意識を失ったようだ。翌朝、私は彼女に大きな嘘をついた。死産だったと告げたのだ。これは、リーゼルを守るために必要なことだった。そう告げなければ、彼女は確実に殺されただろう』


(えっ……ひどい)


 リーゼルさんは、どれほど辛い思いをしただろう。そんな嘘をつくなんて……。えっ? じゃあ、赤ん坊は?



『私は、信頼できる者に息子を託した。私には娘しかいない。だから、初めての息子だ。アルベルトは、リーゼルに似て、利発で笑顔のかわいい子に育った。このまま、無事に10歳まで育てば、すべてを明らかにしようと考えていた。アルベルトに私の地位を譲り、私は隠居してリーゼルの元へ行くつもりだった。妃たちは地位にしか興味はないから、私が姿を消しても問題はないだろう。私は、その日が来ることを密かな楽しみとしていた』


(何、それ)


 あまりにも身勝手だ。


 前国王についての評判は、悪い話は聞いたことがない。だけど、妃の数が多いことは有名だった。確か、ハワルド家から嫁いだ人もいたはずだわ。


 そうか、ハワルド家からも嫁いだからか。現国王は、ハワルド家とは血のつながりはない。でも、後継者争いをしている中で、下級貴族の娘との間に、男の子が生まれたことを知ったら……。


(確かに、殺されかねないわ)


 それは、リーゼルさんだけじゃなくて、幼いアルベルトも同じこと。



『だが、私のヴァンドールとしての寿命は、もう残りわずかだ。あと5年あれば、すべてが上手くいくはずだったのに、2度目の願いは叶わなかった。もう、私には時間がない。私はもう、アルベルトを守ってやることができない。だから、私は、ジュレカ姫に託すこととした。私の寿命が尽きるとき、息子はこれまでの記憶を失うだろう。息子の記憶から、新たな精霊が生まれることを願う。そして、この手紙を読む者が、私の息子アルベルトを支えてくれることを祈る』


(へ? はい? 何?)


 今までの手紙は、納得できないけど意味はわかった。だけど、これは全く意味不明だわ。


 ヴァンドールとしての寿命って、さっきも言ってたわよね? 2度目の願いが叶わなかった? ジュレカ姫に託す? アルベルトの幼い記憶がないことを予言してる? アルベルトの記憶から精霊が生まれるの?


(頭がチカチカしてきた)


 ジュレカ姫って……精霊『純恋花』のことなのかな。湖の精霊が、そう呼んでいた。


(あれ? ちょっと待って)


 湖の精霊『氷花』は、いろいろなことを言っていたわね。頭のおかしな神々がどうとか……。


 いやまさか、そんなことがあるわけない。



 読み終えた手紙は、私の手から完全に消えていた。こんな重い話、どこからアルベルトに話せばいいかわからない。



『軽きモノを求めるなら、重き花と共に。慎重であることより、直感に従うことが大切』



 純恋花の導きが、頭の中に蘇ってきた。私の心を軽くしたければ、重い花を探せということ?



「レイラ様、あの……」


 アルベルトが不安そうに、私の顔を覗き込んだ。


「呪いは受けてないわ。ただ、少し時間をちょうだい」



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