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7、純恋花と治癒薬師シャーベット

「おはようございます、レイラ様。足は痛みますか?」


 目が覚めたら私の部屋だった。私は、いつの間に運ばれたのだろう?


(爆睡していたわ)


 もう朝なのね。左足は完治しているみたい。包帯も外されたままだし、傷跡もない。


(さすが、ハワルド家の薬師ね)



「シャーベット、もう大丈夫よ。昨日、難しい話をしてたよね」


「それは良かったです。えっと、難しい話ですか?」


「ええ、よくわからなかったわ。私は、鉱物系ゴーレムにやられたの? 鉱物系ってよくわかんないけど。ゴーレムって、どれも岩みたいな鉱物の魔物でしょ?」


(岩も鉱物よね?)


 私は、部屋で付き添いをしてくれていた薬師に尋ねた。彼女は、薬師であり調合師でもある。つまり、高度な薬を調合する能力が高いみたい。


 彼女が私の付き添いをしていたということは、結構難しい治療をしたのだと思う。シャーベットは、ハワルド家の治癒薬師のトップだ。もう40代だと思うけど、20代前半に見えるほど、透明感のある美肌の持ち主なのよね。


(美魔女だわ)



「あぁ、アルベルトさんですか。ノース領の方々は、通常のゴーレム以外を、鉱物系と言われますね。多くの冒険者もそうかな。各学校が鉱物系と教えているからですね」


「ふぅん、変な習慣ね。私の付き添いは、ロックゴーレムって言ってたみたいだよ。ロックゴーレムって何?」


「通常のゴーレムより大きく強いモノは、ロックゴーレムと呼ばれますね。身体の大半が岩石で出来た魔物です。毒はありません」


「ふぅん、鉱物系ゴーレムは毒を使うってこと?」


「ええ、冒険者はそういう理解だと思います。鉱物系の魔物は、ゴーレム以外にもいますが、触れるだけで毒となる種類もあります。薬師なら、完璧に種類の情報を把握しますが、冒険者にはその分類知識は不要でしょう」


「毒持ちと毒無しという分類じゃ、薬師は治療できないもんね。私の足は、もう治ってるの?」


「はい、ゴーレムの毒は完全に消えています。ただ、毒を除去するために少し強い薬を使ったので、一時的に左足の機能が低下しています。数日は、ゆっくりしていてください」


 私はベッドから降り、歩き回ってみた。確かに左足は痛くはないけど、動かしにくいし重い気がする。



「学校は、お休みすべきかしら」


「座学の授業なら大丈夫ですよ。学校に行かれるなら、包帯を巻いておきましょう。レイラ様の怪我の状態は、ノース領の薬師から学校へ連絡があったようです。包帯をしておかないと、その薬師は虚偽報告を疑われますからね」


(なるほど)


 シャーベットの意図は別にあるわね。たぶん、ハワルド家の薬師達の能力を知られたくないんだ。



「じゃあ、包帯を巻いてちょうだい」


「はい、かしこまりました。取ってきますので、少しお待ちください」


「調合室に行くなら、ついていくわ」


 私がそう言うと、シャーベットはニヤッと笑った。


「レイラ様は、小さな頃から、調合室がお好きですね」


「ん? なんだか落ち着くのよ。口うるさい人は居ないもの」


「それは、お姉様方のことでしょうか? 調合室のニオイがお嫌いのようでしたね」


「今は、アルベルトの方が口うるさいわよ」


 そう。私は物心がついた頃から、薬の調合室が好きだった。遊び場というわけではないけど、何かの理由を見つけては、調合室へ行っていた。


 薬師達は、個性的な人が多い。でも、他の使用人とは違って、私を対等に扱ってくれる。なんだか大人になった気がして、居心地が良いのよね。



 ◇◇◇



「レイラ様、足の具合はいかがですか」


「少し重いけど、問題ないわ。傷がなかったかのように完全に消えているの。素晴らしい技術だわ」


 話しかけてきたのは、調合室の室長だ。彼は高齢のためか、朝しかいない。私が褒めると、離れた場所にいた若い薬師が、涼しい顔をして小さなガッツポーズを作ってる。


「皮膚の治療は、治癒ポーションを使ったわね。誰のものかしら?」


 シャーベットは、それに気づきながらも、すっとぼけているみたい。薬師って、みんなちょっと変わってるのよね。ストレートに褒められるのは苦手なのに、陰で褒められると喜ぶ。


「きっと、熟練者の治癒ポーションだね」


 私は、さらに褒めておく。こんなもので良いかしら。これで、私の居心地はさらに良くなるのよね。




「レイラ様、その寝台に上がってください。学校へ行かれても外れないように、しっかりと包帯を巻きますから」


「私、暴れないわよ?」


「ふふっ、冗談ですよ」


(あれ?)


 寝台に寝転がると、調合室の真ん中に位置する柱の上の方が、光っていることに気づいた。


 これまで、数え切れないほど来ているけど、あんな場所が光っていたことは一度もない。



「シャーベット、あの柱の上には何があるの? 何か光ってるよ」


「おや、レイラ様にも見えるようになりましたか。ここの薬師でも、半数以上は見えないんですよ」


 シャーベットは、手際よく包帯を巻きながらも、少し驚いているみたい。他の薬師達の作業も止まっているわね。


「あれは何なの? あたたかい光ね」


「レイラ様、どう見えるかは口に出してはいけません」


「ん? どういうこと?」


「あの場所には、純恋花がいらっしゃいます。見る人によって、見え方が変わる。それは、純恋花からのメッセージです」


「じゅんれんか? 花?」


「花や花びらに見えることが多いようですね。純恋花は、私達のような薬師の仕事を助けてくださる精霊様なのですよ。この調合室には、純恋花の加護が満ちています。薬師が願う薬の調合を、成功に導いてくださるのです」


「へぇ、なんだか素敵ね。だから、この場所は落ち着くのかしら? でも、どう見えるかを話すと何がマズイの?」


「他の人に知られると、願いが叶わなくなるのですよ。純恋花は、その形を変えて、見える本人だけを導いてくれるので」


「ふぅん、どういう仕組みなのかしら? 不思議ね」


 話している今も、柱の光はあたたかくユラユラしている。でも、花の形には見えない。こぶしくらいの光の球体だ。つぼみなのだろうか。



「レイラ様、できましたよ。純恋花が気になるようでしたら、今度、精霊様に関する書物を借りてきましょうか?」


「ええ、是非! 気になるわ」


(純恋花って、同じ名前だもの)


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