68、ジュレカ姫の親衛隊があるらしい
「彼女は、精霊『氷花』様をその箱の中から救い出そうとしたようです。すべては、精霊『純恋花』様の導きです」
アルベルトがそう言うと、こびとサイズに実体化している湖の精霊は、手を口に当てた。
「ジュレカ姫が、アナタ達を寄越したの? ひーん、また叱られちゃうわ。どうしよう、ねぇ、私、どうしたらいいのー?」
(ジュレカ姫?)
「ジュレカ姫と呼ぶのですか?」
アルベルトが遠慮がちに尋ねた。私の頭の中も、疑問符だらけだわ。精霊同士の愛称なのかな。
「うん、そうだよー。あっ、でも、人間は、じゅんれんかって呼ぶよね。名前長くて呼びにくくないのー?」
「私は、じゅんれんか様と覚えていますので……」
「ふぅん、真面目なのねー。じゃ、そっちの変なアナタは?」
(はい? 私が変なの?)
「私も、じゅんれんか様と覚えています。私が変だとおっしゃるのは、どういう所ですか」
「変だから変なのよー。アナタは二人が一人になってるもの。あっ、ジュレカ姫の伝説の世界から来た子なのかな」
「えっ? 伝説の世界?」
「あれー? 何も知らないのー? ジュレカ姫の親衛隊をしてる頭のおかしな神々がいるでしょ? ジュレカ姫がいるこの世界を使って、偉大な精霊だってことを広めてるでしょ」
「親衛隊? 神々って……」
(全く意味がわからない)
「あっ! またジュレカ姫に叱られるじゃない。アナタのせいだよ? 私はアナタの質問に答えてあげただけだもん。私がペラペラと言いふらしたわけじゃないものー」
プイッと背を向ける小さな精霊。氷花様って、もしかしてトラブルメーカーなんじゃないの?
『氷花、またやりましたね。貴女が居なくなるとこの付近の水源が崩れると、何度も注意しましたよね?』
(何? この声)
「ひゃー、ジュレカ姫、違うのー。この変な子が悪いの」
小さな精霊は、私を指差してる。私に罪をなすりつける気なの?
アルベルトは、斜め上を向いて祈りを捧げる仕草をした。だけど、その方向には、何も見えないけど。
『氷花は、何を言っているの? 貴女がまたつまらない仕掛けに騙されて精霊狩りに捕まったことを、私は咎めているのですよ』
「ひーん、あれは、どうしてなのかなーって思ってたけど、それって、精霊狩りをする人間が悪いよ。私は悪くないもん」
『精霊狩りをする人間は、遊びでそういうことをするわけではありません。彼らは命を繋ぐために、精霊を吸収する必要があるのです。ですが、彼らはどの精霊を捕まえれば大丈夫なのかは、理解していません』
「そんな人間は、ポイってしなきゃダメだよ。あっ、人間のフリをした堕ちた神だっけ?」
(堕ちた神?)
『氷花、本当に貴女という子は……』
「ハッ! 人間が聞いてるんだったわ。アナタ達、気を利かせて、耳を塞ぎなさいよね!」
(この精霊、面倒くさい)
私達は今、精霊同士の会話を聞いているのね。なんだか、すごく不思議な気分。
「私達は、決して他言はいたしません」
アルベルトはそう言うと、小さな精霊にも祈りを捧げる仕草をしている。
ハワルド家は、精霊信仰はしていない。だから、アルベルトがやっていることの意味はわかるけど、私にはできないことだわ。
話の続きが気になるけど、深く聞いてしまうと、私が前世の記憶を持つことを、アルベルトに知られてしまうわね。
『そうですね、氷花がほとんど明かしてしまったので、その先のことを教えましょうか。ただし、条件があります。ハワルド家のお嬢さん、この近くに大きな建造物を造るのですね?』
小さな精霊が、パッと私の方を向いた。精霊『純恋花』の光はどこにあるかはわからないけど。
「はい、私の趣味の施設を造る予定ですわ」
『ふっ、発した言葉の責任を取るということですね』
(嘘だったと、バラされた?)
「はい、そういう感じです」
『では、その場所に、氷花の宿る場所を用意してもらえますか? そうすれば氷花が精霊狩りに遭っても、吸収されて消滅する前に、取り返してもらえるでしょう』
「えっと、光る柱ということですか? 純恋花様がいる調合室のように?」
『ええ、そうです。特別な何かは必要ありません。ただ、人間の手が触れない場所に、花びらを置くだけです』
(花びら?)
あっ、そういえば、どちらの精霊の名前にも花が付いている。
「花の精霊なのですか?」
『ふふっ、花の名を持つ精霊ですよ。同意してくれましたね。いっそ、氷花を閉じ込める巣箱でも構いませんよ』
(巣箱?)
「ちょっと待ったぁ! ジュレカ姫、私のお家は、この湖なのっ。どうして人間のおうちに行かなきゃいけないのよ! それに箱は好きだけど、巣箱って何? 私は虫じゃないのよ」
小さな精霊が、アルベルトの方を向いてプンスカと怒ってる。彼の近くに、純恋花の光があるのかな。
「氷花様は、箱がお好きなのですか?」
アルベルトがそう尋ねると、小さな精霊は、ふんぞり返って頷いた。
「それでしたら、綺麗な木箱を作り、その前には毎日、林檎酒や葡萄酒を捧げることにいたします」
「正方形の箱にしなさいよ? 蓋は暗くなるからいらないわ。葡萄酒は甘い方が好きなの。赤い葡萄酒は嫌い」
「かしこまりました。葡萄酒は甘くて白いものを用意します。林檎酒はシュワシュワなもので良いでしょうか」
「えっ? 何? シュワシュワの林檎酒って知らないわ。甘いの?」
「はい、とても甘いです」
「そう。じゃあ、シュワシュワの林檎酒も捧げなさい。仕方ないわねー。そこまで言うなら、人間のおうちに行ってあげるわ」
「ありがとうございます、氷花様」
(さすが、アルベルトね)
上手く説得できて嬉しかったのか、アルベルトは私に爽やかな笑顔を向けた。いや、ドヤ顔かしら?
(か、かわいいわ)
『ふふっ、では、氷花の巣箱ができたときに、話の続きをするとしましょう。ハワルド家のお嬢さん、あまり長い時間、湖を塞いでいてはいけない。蓋を外しますよ』
「えっ? はい、ちょ、舟がなくて……」
「純恋花様、問題ありません」
アルベルトはそう言うと、私を後ろから片手で抱きかかえた。
(ちょ、ちょっと!)
私の心臓のドキドキが、アルベルトの手に伝わってしまうわ!
パチンと光が弾けると、湖の氷もパッと消え、氷のゴーレム達が、湖の底へ帰って行くのが見えた。




