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62、壮大な夢物語

「私にできることなら、精一杯、レイラ様に協力させていただきます」


(なぜ断ってくれないのー)


 私は叫びそうになるのを必死で抑え、表情を崩さないように頑張った。マザーに協力を依頼して断られたら、それを理由に、すべてを無かったことにしようと思いついたのに……。


 だけど、諦めるのはまだ早いわ。絶対に無理な計画を話せば、そのどこかで、出来ないということになるはず。マザーだけでなく、関係者をもっと広げる方がいいかしら。


(ふふっ、完璧な作戦だわ!)



 私は、神妙な表情をつくる。他にも反対しそうな人がいる方がいいわね。


「マザー、手の空いている職員さんにも同席してもらえるかしら?」


「わかりました。少しお待ちくださいね」




 しばらく待っていると、昔から居る年配の女性と、さっきからウロウロしている若い男性が、緊張した様子で部屋に入ってきた。


「レイラ様、ご無沙汰しております。マザーの補佐役をしているバーラです」


「お久しぶりね。バーラさんのことは、よく覚えているわ。私に美味しいパイを焼いてくれたもの」


 私がそう返すと、彼女はとても恥ずかしそうな笑みを見せた。古い職員だと思ってたけど、マザーの補佐役なのね。確か、二人の女性が付いていたと思う。もう一人は、孤児院の留守番かしら。


 おそらく、マザーがまだノース家にいた頃の侍女だと思う。マザーが貴族の地位を捨て、潰れそうな孤児院を継いだ後も、主従関係は変わらないのね。



「レイラ様、今は子供達の昼食中ですので、この二人だけですが、よろしいでしょうか。こちらの職員は、孤児院で育った者です。私達よりも子供達のことをよく理解していますよ」


(子供達を動物扱いしてたけどね)


 でも、こういう嫌なタイプがいる方が都合が良い。私の提案に反対できるのは、こういう無神経な人よ。



「ええ、構わないわ。忙しい時間にごめんなさいね」


「いえ、とんでもありません」


(あっ、怖がらせたかしら)


 私が、社交辞令的なことを言うと、みんな身構える。怯えさせちゃいけないわ。断る勇気が消えてしまうもの。


「気楽に聞いてちょうだい。ただの私の夢物語のようなものだから」


 そう前置きをすると、若い職員も少しホッとしたみたい。反対意見を言いやすいように、語気には気をつけなきゃ。


 私は、アルベルトに話してしまった壮大な嘘を思い出しながら、口を開く。



「私はね、治癒薬師と治癒魔導士を育てる施設を作りたいの。薬師は毒薬の研究ばかりしているでしょう? どんな毒も治癒できる薬師は居ないわ」


「まぁ! 治癒の施設ですか。素晴らしいですね。ですが、それをレイラ様がなぜ……」


 マザーが素朴な疑問をぶつけてきた。えーっと、アルベルトに話したことと矛盾しないようにしなきゃ。


「私が暗殺貴族だから、心配してくれているのね。これは、私の利益になることよ。高度な毒薬を作れる薬師が多いハワルド家に生まれたから出来ることなの。別に暗殺を逃れるための治癒薬を作りたいわけじゃないわ。私は、その先の技術を育てたいの」


「治癒薬の先の技術ですか? 万能薬のようなものかしら?」


「ええ、究極の万能薬ね。私は、蘇生薬の研究施設を作りたいのよ」


 そこまで話すと、三人とも固まってしまった。あぁ、死を操る禁忌がどうのと考えている顔ね。


「勘違いしないで欲しいんだけど、死の操作ではないわ。アンデッドの研究ではないの。単純に、死んだ人が生き返る蘇生薬よ。夢物語だけど、蘇生薬が存在する異世界があるの。治癒の最終形が蘇生だと思う。研究には長い時間と多くの人材が必要だと思うけどね」


「な、なんと……」


「ハワルド家は暗殺貴族だけど、死だけでなく蘇生もできれば、ちょっとカッコいいでしょ? 生と死を司る番人みたいで」


 最後のは、保険のための追加説明だ。ハワルド家の当主に反逆すると勘違いされたら、私は断罪されるもの。


「生と死を……」


 三人とも呆然としちゃった。絶対に無理だと思ってるはず。流れは完璧だわ。



「ええ、そうよ。私が生きている間には完成しないかもしれない。でも、別に構わないの。この研究をすることで治癒薬師の地位が上がれば、私の意志を受け継ぐ人が現れるはずよ」


「それほどの時間が……」


「だから、施設を作ろうと考えたの。資金は私の財産でも出せるけど、それでは意味がないわ。私に賛同する貴族や商人から、出資をつのるわ」


「借金ではなく、えっと、出資とは……」


「出資は返済しないものよ。この研究に賛同する人からお金を集めて運営資金にするわ。そして、何かの成果が出て利益が出れば、その利益の一部を出資者に配当という形で分配する。蘇生薬は簡単にはできないけど、その過程で高度な治癒薬なら、すぐにでも出来てくるわ」


「は、はぁ……」


(あっ、忘れていたわ)


 三人とも呆然としてるけど、自分達に何を依頼されるのかを聞き逃さないように、緊張しているのがわかる。


 マザーは、どういうお願いなら断りやすいかしら。彼女は、ノース孤児院を……離れられないわよね?



「マザーへのお願いなんだけど……」


 私がそう切り出すと、彼女はハッとして表情を引き締めた。


「はい、レイラ様、何なりと」


「マザーに、その施設の長をお願いしたいの。慈悲深いマザーなら、治癒のイメージにピッタリだもの」


「えっ? わ、私ですか? 薬師の技術は無いですよ」


(ちょっと強引だったかしら)


 なぜマザーを長にしたいのか、アルベルトが聞いても納得する理由が必要ね。あっ、小学校!


「長に薬師の技術は不要よ。人材は、一から育てる必要があるわ。いっそのこと、施設内に初等学校でも作ろうかと思っているの。15歳になるまでの子供を集めて、基礎を学ばせる。子供達は、研究に使う素材集めに必要な労働力でもあるわ」


「子供達が労働力、ですか?」


「そうよ。ノース領にはギルドがないから、スノウ領の薬師ギルドに、施設内に出張所を出すよう依頼しようかしら。子供達でも薬草摘みはできる。稼ぐ力を学ばせておけば、15歳からの選択肢も広がるわ」


「その初等学校は、何歳から……」


「そうね。まぁ、5歳からの10年間、全寮制でもいいし、通う子がいてもいい。その下に5歳になるまでの子が通う保育所も作って、マナーを学ばせるのもいいわね」


 マザー達は、驚きで目を見開いている。完璧だわ。さぁ、断ってちょうだい。



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