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61、祈るレイラ

 私は、マザーがなぜそんな話をするのかと疑問に思った。だけど、すぐにその理由がわかった。


 彼女は、私がずっと、アルベルトの生まれを気にしていたことを知っている。だからそのせいで私が、婚約破棄を言い渡したと考えたのね。


(違うのに……)


 だけど、前世の記憶が戻る前の私なら、それが一番アルベルトを追い出したい理由だった。だからマザーは私に、この話をしたのだろう。



「アルベルトは、6歳の頃には、もう基礎学習を習得できていたのね。どうりで知恵が回る策士なわけね」


「ええ、子供の頃から、非常に頭の良い人でしたよ。ただ、人との付き合いは苦手なようでした。それは、今でも、変わらない部分があるようですね」


「幼い頃から命を狙われていたなら、人間不信になるのも当然ね。その心の傷は、簡単には消えないわ」


 私がそう言うと、マザーは少し寂しそうに微笑んだ。また、自分の力不足だとか思ってるのかも。


(これは無理ね)


 私が知らないアルベルトの弱みを聞き出して、あの嘘の言い訳を考えようと思っていたけど、タイミングが悪い。マザーが、私との婚約破棄を一昨日に聞いたばかりなら、今は何を言っても、私が求める答えは得られない。


 マザーとしては、アルベルトの心が大事なはず。私のようにワガママな10コも年下の娘に、アルベルトは人生を狂わされたんだから。


(いや、これはチャンスかも?)


 彼女はきっと、アルベルトと私の関係修復を望んでいる。そうじゃなければ、彼が孤児院に来たときの印象を、私に話すわけがないもの。



「マザー、ここからが本題なんだけど……」


 そう前置きをすると、彼女はしっかりと、私の方を見てくれた。その目には優しさと温かさを感じる。もう、ぶっちゃけてしまおう。


「私は、どうしたらいいか、わからなくなってしまったの。アルベルトのことはとても信頼しているし、傷つけるつもりもなかったわ。だけど……」


 マザーは、優しい笑みを浮かべてくれた。なんだか、泣きそうになる。


「レイラ様、アルベルトさんなら大丈夫ですよ。きっと、レイラ様の気持ちを尊重されるでしょう。素直に、話し合いをされてみてはいかがですか」


「アルベルトは、私の話を聞き入れてくれるかしら」


「ええ、きっと上手くいきますよ」


 マザーにそう言われると、スーッと心が軽くなる。本当に、彼女は人格者だわ。



 私は、アルベルトに、婚約破棄を破棄するって言えばいいのよね? 彼のことをよく知るマザーが、上手くいくと言ってくれたんだもの。きっと大丈夫なんだわ。


 あっ、素直にと、前置きをされたわね。すぐに嫌な言い方をしてしまう私の性格も、マザーはよくわかっている。


 素直に、ちゃんと謝ろう。


 アルベルトに、もう一度、私の婚約者になってほしいと、素直に言おう。


(おっと、違うわ!)


 私が相談したかったのは、あの嘘をどう誤魔化すか、ということよ。なぜか本物の人生相談になってしまったわ!


 だけど、どう切り出せばいいのかしら。壮大すぎる嘘を吐いたことを、マザーには知られたくないわ。


(困ったわね、どうしよう……)




「レイラ様だっ!」


(あの子は確か、レンだったわね)


 帰ってきたばかりなのか、前髪が汗で、おでこにくっついてる。外の気温は、だいぶ上がったみたい。もう、井戸の水も大丈夫ね。


 次々と子供達が入ってくると、それを追いかけてきた孤児院の職員達も姿を見せた。



「こんにちは。ちょっとお邪魔しているわ」


「俺、こないだ……」


 レンくんが何かを言おうとしたのを、職員が口を塞いで強制的に制した。話の邪魔だと思ったみたい。


「早く昼食を食べてちょうだい。また戻りますからね」


「えー、もう今日はいいだろ。レイラ様が来てるんだぞ」


(私が邪魔しているかしら)


 子供達は、職員達によってに、まるで家畜を追い立てるように部屋から連れ出された。やはり、あの職員達のやり方って、気に入らないわね。子供を過剰に子供扱い、いや動物扱いしている。私が子供だったら、ムカついて蹴り飛ばしたかもしれない。



「お騒がせしましたね、レイラ様。養子縁組の会に参加していた子供達が、昼食に戻ってきたのですよ」


「マザー、私はお邪魔よね。また出直してくるわ。お土産に持ってきたクッキーは、ここに置いておくわね」


 私は、魔法袋の中に入れてあったクッキーの袋を、すべて出して並べた。


「あら、まぁ、本当にたくさんですね。これだけあれば、ケンカにならないと思います。ありがとうございます」


「子供達には数え方を教えるべきよ。アルベルトが6歳のときに読み書きや算術ができていたなら、あの子達にもできるはずだわ。そうすれば、ケンカは減るのではなくて?」


(あら? 何?)


 私がそう言うと、マザーはとても驚いた顔をしている。私は何も、おかしなことは言ってないわよね?



「レイラ様は子供達に、クッキーを使って数を教えようと考えられたのですね。素晴らしい発想です」


(数を教える?)


 あぁ、そういえば、私の使用人になりたいと言っていたチビっ子達に、読み書きと算術そして護身術を身につけなさいって言ったわね。


 別に、そんなつもりはなかったんだけど、確かにクッキーを使えば、数を教えることができる。だけど、それより大切なのは、ケンカしないようにする方法ね。


「マザー、数の数え方よりも割り算を教える方がいいわ。とは言っても、算術のような計算は無理でしょ? だから、大きな皿にいれて、順に一つずつ取ればいいの」


「まぁっ! 職員が分けるのではなく、子供達にやらせるのですね。なるほど、レイラ様は、いろいろな作戦をお持ちです。壮大な何かを考えておられるのですね」


(ひぇっ、何?)


 マザーは、まるで私の壮大な嘘を知っているかのようだわ。さては、アルベルトが何か話したわね……。


 だけどアルベルトとは違って、マザーは、私が何か有益なことを思いついたと、素直に捉えていると思う。アルベルトは意地悪な面があるけど、マザーは絶対に意地悪は言わない。


 彼女の目が、期待に満ちている。


(困ったわ……あっ! そうだ!)



「そうね、壮大な計画かしら。その実現のためには、マザーにも協力をお願いしたいの。良いかしら?」


(断って! お願い!)


 私は心の中で祈った。


皆様いつもありがとうございます♪

日曜月曜はお休み。

次回は、7月23日(火)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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