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6、屋敷へ戻り、薬の調合室へ

「遅くなりました。レイラ様を、ノース領の外れで見つけました」


 アルベルトが使った帰還の魔道具で、私達はハワルド家の裏庭に移動した。


 この場所が転移魔法の着地点になるから、常に警備の者がいる。そして、ここでの会話は、屋敷内の何ヶ所かに届く。ハワルド家は暗殺貴族だから、襲撃者が少なくないためだ。


 アルベルトの今の言葉は、屋敷内にいる父に対してのものだろう。たぶん、姉の伴侶の誰かが出てくると思うけど。



「レイラか。本当におまえという娘は……」


(ぎゃっ、父が出てきた!)


「旦那様、レイラ様は左足に大きな裂傷を負っておられます。薬師の治療が必要かと考えます」


 アルベルトが、私をかばうようなことを言ってくれた。一瞬、嬉しくなったけど、たぶん真意は違うわよね。


(また、ムズムズする)


 前世の感覚の私は、怪我人だから説教するなら後日にしてあげて欲しいと言ったと感じた。だけど15歳の私は、アルベルトの保身だと感じてしまう。



「はぁ、付き添いの使用人の注意を無視し、高台から落ちて行方不明になるとは、呆れて何もかける言葉が見つからぬわ。アルベルト、そのバカ娘を調合室に運んでくれ」


(バカ娘ですって?)


「はい、かしこまりました」


 アルベルトは、父に対して丁寧にお辞儀をすると、私の方に近寄ってくる。父は、チラッと私の顔を見て深いため息を吐くと、屋敷の中へと戻っていった。


 父は、私の扱いに手を焼いているように見えた。いや、もう諦めているのかもしれない。


(なるほどね)


 15歳の私は、父がそれ以上何も言わなかったことで、勝ったような気持ちになっている。おそらく末娘だからということで、甘やかして育てたのだろう。


 今、私の頭の中は、二人の人格が同居しているような状態になっている。これまでの私の感覚と前世の私では、あまりにも大きな違いがあるわね。



「レイラ様、失礼しますね」


 アルベルトが、私をひょいとお姫様抱っこした。


「ちょ、私は自分で歩けるわ!」


「カルロスさんが指摘していた通りなら、出血が止まるまでは歩かない方がいいです。おとなしくしてください」


(この感覚はどっち?)


 嬉しいのに恥ずかしいような感覚。前世の私の照れ? それとも15歳の私も照れてる?


(あれ? 私って……)


 アルベルトとの関係は、かなり酷い悪循環に陥っているし、これまでの私は、アルベルトが孤児だったからという理由で、ハワルド家から追い出そうとしてきた。


 でも、だからと言って、私はアルベルト自身を嫌っているわけではないのかもしれない。彼が視界に入ると、よくわからない感情が湧いてくることが不快で、ずっと苛ついていた。


(だけど、この感覚って……)



 ◇◇◇



「まぁ! レイラ様! 大変だわ」


 薬師が大勢作業している薬の調合室に、私がお姫様抱っこで運ばれてくると、中にいた者達は作業の手を止め、集まってきた。


「レイラ様は、高台から落ちるときに、ゴーレムに裂傷を負わされています。左足です。助けてくれたのが、雇い主のない薬師だったようで、簡単な処置はされています」


 アルベルトがそう話している間に、私を寝かせる寝台が用意された。


「ゴーレムの種類はわかりますか?」


「わからないようです。魔物と遭遇した場所は、スノウ領の南部のレグレイ火山群の高台です」


(火山なんてなかったよ?)


「あぁ、地底火山ですか。レグレイ火山群なら、あらゆるゴーレムの可能性がありますね。まさか、治癒ポーションは使われてませんよね?」


「はい。流血を止めないように、配慮されたようです。また麻痺毒草も使われていました」


 話をしながら、私のスカートはめくられ、左足の太ももがあらわになっているみたい。巻かれていた包帯が外されていく。


(どうしてアルベルトまで?)


 私の傷の状態を気にしているのだろうか。いや、こうやって見学することで、薬師の知識を吸収しているのかもしれない。



「あぁ、これは酷い。アルベルトさん、見えますか? 包帯に付着した血液の変質が」


「固形化しているのですか」


「ええ、これは稀少なゴーレムですね。レイラ様を見失った護衛は、数体のロックゴーレムに襲われたと言っていましたが、レイラ様の怪我は、おそらくシルバーゴーレムによるものです。触れるだけでも金属毒を受けてしまう」


(気になるわね)


 私が上体を起こそうとすると、薬師に阻止された。


「レイラ様、処置が終わるまで動かないでください」


「自分の怪我の状態を見てみたいわ」


「見ない方がいいですよ」


「見たいわ!」


 すると、アルベルトが私の背中を支えて座らせてくれた。たぶん、私が引き下がらないとわかっているからよね。


「ひっ! 何これ」


 私は目の前が暗くなるような衝撃を感じた。傷口は、裂かれたことで肉が剥き出しになっていて、赤黒く変色している。その赤黒い肉から血がジワジワと滲み出ているようだ。


「この黒い部分がすべて、ゴーレムの毒による変色です。これは別にいいのですが、問題は、レイラ様の左足全体に巡る毒です」


「アルベルトに苦い毒消し薬を飲まされたよ?」


「鉱物性の毒には、通常の毒消しは効きません。もし治癒ポーションで傷口を塞いでいたら、今頃は全身に毒が回って手遅れになっていましたよ。この応急処置をした薬師は、よくわかっている」


(薬師カルロスだもんね)



「もう気が済みましたね。おとなしくしていてください」


 アルベルトは私を寝かせると、私が動かないようにするためか、私の肩に手を置いた。


(いや、気遣いの手かな)


 15歳の私は、すべて悪い方に捉えてしまうけど、たぶんアルベルトは、私の怪我を心配してくれている。私の性格を熟知していて、おとなしくさせる方法もわかっているみたい。


 だから父は、アルベルトを私の伴侶に選んだのか。


 すぐ上の姉は、アルベルトがこの屋敷に来た頃、目をつけていたと思う。だけど、姉には別の伴侶が選ばれた。確か姉は、アルベルトがいいとゴネていたっけ。


 その時に父が何かを言ったことで、姉はしぶしぶ引き下がった。おそらく、アルベルトが孤児だったことを明かしたのね。


 そんなことを考えているうちに、私は眠っていたみたい。肩に触れるアルベルトの優しい手の温もりのせいなのかな。


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