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57、嘘から生まれたもの

「レイラ様の利益、ですか?」


 アルベルトは、キョトンとしてる。私の口から出た言葉が、彼の予想外のものだったみたい。


「そうよ! 私の利益の話よ。アルベルトには関係ないわ」


「話がよくわかりませんね。薬師学校のサーフさんも困っておられるようですが?」


(どうしよう……)


「もうっ! アルベルトには関係ないんだから、あっち行って!」


 私がそう言うと、アルベルトはフッと笑みを浮かべた。嫌な笑い方ね。


「レイラ様が、あっち行けというときは、大抵、何かを隠しているか嘘をついてますよね?」


(やば、どうしよう)


「それは、私が子供の頃の話でしょ。今の私は、余裕で大人なのよ!」


「大人は、あっち行けなんて、言わないですよ。マザーに何を言われたとしても、レイラ様は……」


「黙りなさいって言ってるでしょ! マザーは関係ないわ。私は、私の利益の話をしているの!」


「では、どのような計画なのでしょう? サーフさんに妙なことを言ったのは、さぞかし壮大な計画の前フリなのですよね」


(マズイわ……)


 アルベルトはニヤッと笑って腕を組んだ。こういうときの彼は、私が謝るまで徹底的に食い下がってくる。


 もう婚約者じゃないのに、私の教育なんかする必要はないのに……。



「どうされました? 壮大な計画をお聞かせください。ここにいる者は、皆、秘密を厳守できますよ?」


(あー、もう、どうしよう)


 適当に私の利益って言っちゃったのよね。きっとアルベルトは気づいている。だとすると、この状況は何? 婚約破棄を言い渡した私への報復なの?


 そもそもアルベルトに幼児期の記憶がないなんて、私は知らなかった。どうして言ってくれなかったのよ。


(違うわね)


 私が言わせなかったんだ。私はずっと、孤児だった彼の過去を否定してきた。あんなにギスギスした関係だったんだから、話せるわけがない。


 私にとって、いえ、暗殺貴族であるハワルド家にとって、婿は道具だ。彼を理解しようという感覚は、以前の私にはなかった。それがハワルド家の血。


(あれ? 変ね)


 なぜ、悪役令嬢レイラ・ハワルドは、20歳になる前に断罪されたのだろう。ハワルド家の感覚を持っているし、アルベルトとの婚約を破棄しても、他の有能な使用人を婿にすれば済む話よね?


(あっ! 反逆!?)


 悪役令嬢レイラ・ハワルドは、何かやらかしたのかもしれない。教育係のアルベルトが離れると、もう誰にもレイラを調教できなくなったのかも。


(いや、私は馬じゃないし)




「レイラ様、何か、良い言い訳を思いつきましたか?」


(ハッ! 忘れていたわ)


 アルベルトが、私の顔を覗き込んで、ニヤッと笑った。完全に勝利を確信しているわね?


「何の話だったかしら?」


(マズいわ、頭が真っ白だわ)



「レイラ様は、傷ついた人達の心の傷を誰が治すのかと問われましたね。強いショックで記憶を失った子供達の心の傷にも、薬師が関わるべきだとおっしゃっていたようですが?」


「そこから聞いていたのね。盗み聞きよ」


「まさか、私の気配に気づかなかったのですか? わざと私に聞かせたのかと思いましたが」


(気づかなかったわよ!)


 だけど、それを認めることは、あまりにも悔しすぎる。


「はぁ、もういいわよ」


「そうですか。マザーには今後、レイラ様に妙なことを吹き込まないようにと注意しておきます」


「アルベルトは何を言ってるの?」


「おや? 嘘で誤魔化したと白状されたのでは?」


 アルベルトはニヤニヤしてる。やっぱり、婚約破棄の報復なのね? アーシーが困ってオロオロしてる。たぶんシャーベットのように仲裁しなきゃって思って、テンパってる。



「アルベルト、それは貴方の勘違いよ。もういいと言ったのは、話してあげるということよ」


(どうしよう、どうしよう……)


「おや、そうだったのですか。申し訳ございません。では、レイラ様の壮大な計画を教えていただけるのですね」


(もう、いいや)


 私は覚悟を決めた。全部、ぶっちゃけてやるわ。




「この世界には医者は居ないでしょう?」


「えっ? いしゃ、ですか?」


 アルベルトは、混乱したみたい。彼は、様々な知識を持つ有能な人だ。彼自身も、聞いたことのない言葉はないと自負していると思う。それほど努力をしてきたのだから。


「ええ、医術がないわ。それに代わるのが薬師ね。だからこそ、治癒薬師がもっと活躍するべきだと思うの」


「レイラ様は一体……」


 アルベルトは、驚きで目を見開いている。勢いで言っちゃったけど、さすがに私が前世の記憶を持つとは言えないか。


 魔女裁判じゃないけど、転生者狩りをしているかもしれない。この世界と乙女ゲームとの繋がりは不明だけど、私が未来を知っているとバレると……。


(あっ! タイトル!)


 あの乙女ゲームのタイトル『純恋花 〜 甘ずっぱい恋をしたい』って、もしかして……。



「純恋花……が、導いたのかしら」


 私からポツリと出てしまった言葉に、アルベルトはハッと息を飲んだ。



「レイラ様、精霊『純恋花』様のお導きなのですか」


(アルベルトが誤解してる)


 でも、誤解ではないのかも。あの乙女ゲームのタイトルが、私が転生したこの世界の精霊の名なら……。



「導きの話はできないわ。ただ、多くの薬師は、毒薬の研究ばかりしている。その方が儲かるからでしょうけど、それは貴族の責任ね」


「えっ、あぁ、はい」


(壮大な計画、壮大な計画……そうだわ!)


「だから、私はその逆を考えたの。治癒薬師がもっと稼げればいいのよね? それに、別の世界には死者を蘇らせる薬もあるそうよ」


「レイラ様、死の操作は禁忌です」


「アンデッドを創ることが禁忌なのでしょう? 私が言っているのは、蘇生薬よ。魔物を生み出すのではないわ。人を生き返らせる薬が存在する異世界があるのよ」


(ゲームだけどね)


「そ、そのような……」


「この世界の者には信じられないでしょう。私も夢物語だと思うわ。だけど、治癒魔法を使える人がいるんだから、不可能ではないはずよ。治癒の最高位にあたる術が蘇生だと思うの」


「貴女という方は……」


 アルベルトは呆然としている。


「蘇生の研究には、多くの人と膨大な時間が必要だわ。いっそのこと、治癒術と薬学を一度に学べる施設をつくっちゃおうかしら」


(暗殺貴族だけど……)


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