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56、ごまかすレイラ

「レイラ様、なぜ変装が……」


 ノース孤児院の定宿を出て、治療院にアーシーを迎えに行くと、見知らぬ女性が私を見て驚いた顔をしていた。彼女は、ダサい黄色の帽子を被っている。


(そっか、アーシーなのね)



「ちょっと緩い力を使ったら、香水が消えちゃったの」


「じゃあ、一旦帽子を取ってください。帽子にかかると困るので」


「わかったわ」


 私がダサい帽子を取ると、彼女が受け取り、少し離れた椅子に置いた。その後、私にプシュッと変装の香水を吹きかけた。


(アーシーだわ!)


 同じ香りを纏うと、変装の香水の効果は現れない。そう説明されていたけど、ここまでハッキリと変わると面白いわね。


「アーシーの見た目が、アーシーになったわ」


「えっ? あっ、香りが消えていた間は、違って見えたのですか。残香があれば大丈夫だと思っていましたが、レイラ様の特有能力は、すべてを消してしまうのですね」


 アーシーは何かを考え込んでしまった。実証結果を頭の中でまとめているのかも。


 私は椅子の方へと移動し、ダサい帽子を被った。



「難しい話は、調合室で皆と相談する方がいいよ。私には全くわからないもの。そろそろ帰らない?」


「あ、はい。えっと……」


 アーシーは、治療院の奥の階段に視線を移すと、困った顔をしている。怪我人でも運ばれたのだろうか。



 少し待っていると、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。


(あっ! そうだったわね)


 すっかり忘れていたけど、治療院には、薬師学校のサーフ先生と薬師カルロスがいるんだったわ。


 アルベルトがアーシーを貸してくれと言ったのは、死体の保護のためだったっけ。治療院の1階は、応急処置が必要な人が運ばれてくるから、広いスペースになっている。上の階に、女性達が寝かされているのかな。




「おや? そちらの女性は……」


 サーフ先生は、私の帽子を見て、アーシーに視線を移した。アーシーのことはわかっているみたい。


「レイラ様ですよ。私を迎えに来てくださったのですが」


(アーシーは帰りたくないのね)


 一瞬、サーフ先生と離れたくないのかと思ったけど、真面目なアーシーが、そんなことで抵抗するわけがない。



 私の名前を聞いて、薬師カルロスが深々と頭を下げ、口を開く。


「レイラ様、以前は大変失礼しました。母や兄のこと、そして兄の子供のことまで捜していただき、感謝します」


(あれ? 何か変ね)


 彼の兄の子は、たぶんアルベルトが見つけたのだと思う。私がこれ以上捜しに行かないようにと、立ち回ったのだろう。


「カルロスさん、だったかしら?」


「は、はい! カルロスです」


 一応、名前を確認するフリをしておいた。薬師カルロスは乙女ゲームの登場人物だから、よく知っている。だけど、そんなことは言えないもの。



「私ではなく、アルベルトが動いたのだと思うわ」


「あっ! そういう話にしておくようにと言われていました。すみません。僕はまだ貴族の方々の常識がわからなくて……」


 薬師カルロスは、すっごく慌てているみたい。アルベルトがどう言ったのかはわからないけど、これ以上の質問はやめておく方が良さそうね。


「見習い薬師なのよね? 少しずつ学べばいいと思うわ。えっと、サーフ先生、アーシーはまだ連れ帰らない方がいいかしら?」


 私は、サーフ先生に視線を移した。アーシーが帰りにくそうにしている原因を知ることが先ね。


 アルベルトがアーシーをここに連れてきた理由は、私に話した言葉どおりではないような気がする。サーフ先生の魔力が心配なら、ここにまだ彼がいるのはおかしい。アーシーが来た時点で、対岸に戻るはずだもの。



「レイラ様、アルベルトさんから依頼されたのは、判別の難しい女性達の修復なのです。サーフ先生と私が協力すれば可能なのではないかと言われました」


 アーシーがそう言うと、サーフ先生も口を開く。


「本当に驚きましたよ。腐敗が進んだ身体を元に戻すなんて、考えたこともなかった。薬師は生きている人だけを相手にする商売だと思っていましたよ」


 サーフ先生の言い方に、少し引っかかりを感じた。無意識なのかもしれないし、悪気はないのかもしれない。でも、アーシーが好きな人が悪しき薬師に染まっていくのは、やはり……。


(黙ってらんない)



「サーフ先生、少しよろしいかしら?」


「あ、はい、どうぞ」


「サーフ先生は、何か誤解されているようですわ。腐敗した死体の顔を判別できるようにしたいとアルベルトが言ったのなら、それは、今を生きている人のためですわ」


「えっ? えーっと」


(鈍いわね)


「残された家族の心を治すのも、薬師の仕事ではなくて? 身体の怪我や病気しか治す気はないのかしら。もしくは、多くの薬師がそうであるように毒薬にしか興味がないの?」


「いえ、むしろ毒薬には関心はない方かと……」


 私の言い方が強すぎたのか、サーフ先生は少し怯えたように見えた。純粋なアーシーが想いを寄せる人なんだから、真っ当な人であって欲しい。


 私は、さらに話を続ける。


「酷い事件に巻き込まれて傷ついた人達の心の傷は、誰が治すの? 強いショックで記憶を失った子供達は? 心の傷にも、薬師が関わるべきではないかしら」


 この世界には医者は居ない。だからこそ、治癒薬師がもっと活躍するべきだと思う。多くの薬師は、毒薬の研究ばかりしている。その方が儲かるからなのよね。



 シーンとしてしまった。


(マズかったかしら)


 少なくとも姉達なら、こんなことを薬師に言わない。薬師は、より高性能な暗殺用の薬を作る道具だと、ハワルド家の人達は考えている。


 前世の記憶が戻る前の私も、薬師は毒薬製造者というイメージが強かったもの。




「それは、どういう意味ですか、レイラ様」


 背後からアルベルトの声が聞こえた。振り返ってみると、その表情は戸惑っているように見えた。私がマザーに会って、アルベルトの過去を聞いたからこんなことを言い出した、と思ったのかも。だから、こんな顔して……。


(ごまかさなきゃ)


「何なの? いきなり話に割り込んで……」


「レイラ様、ごまかされませんよ。マザーから何を聞いたのかは存じませんが、貴女はハワルド家の……」


「黙りなさい! アルベルト。何を言っているの? 私は、私の利益の話をしているのよ!」



皆様、いつもありがとうございます♪

日曜月曜はお休み。

次回は、7月16日(火)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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