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54、レイラは孤児を変えたい

「どうすれば、レイラ様に雇ってもらえるんだ?」


「騙されないようにすればいいんだよ」


「どうやって?」


 チビっ子達が、コソコソと相談している。マザーに視線を向けると、優しい笑みを浮かべていた。その意味はわからないけど、見守っているのかな。


 職員が口を開こうとしたのを、マザーが制した。ということは、私が話すべきなのね。



「みんな、よく聞いて。これは、私の使用人になるかならないかに関係なく、賢く生きるために必要な能力の話なの」


 私が話し始めると、チビっ子達は私の方を向いた。まだ、お仕事モードみたいね。キリッとしてる。


「騙されないようにするには、知識が必要なの。バカだと騙されていることにさえ気づかないわ。そして、口が軽い人も困る。よく喋る人という意味じゃないの。大切な秘密を、他の人に話してしまう人はダメってことよ」


「レイラ様、知識って何?」


 チビっ子のリーダー格の子が尋ねた。


「いろいろなことを知っていることよ。まずは文字が読めること、そして計算ができることが必要だわ。そうすれば、様々な情報が読めるし、釣り銭を誤魔化されることもないわ」


「それって、学校に行って勉強しろってこと?」


 一番年長者の子が、チラッと職員を見て、そう言った。常に言われているのかも。


「私は、学校に行く前に、すべてを習得したわ」


「えっ、どうやって?」


「私の場合は、近くにいる大人から、読み書きや計算を習ったの。でも、学校に行って学ぶ人も多いわよ」


「じゃあ、学校は行かないのか?」


「私は今、スノウ剣術学校に通っているわ。15歳になったら身分に関係なく、みんは学校に行かなきゃいけないからね。仕方なく通っているの」


 クスクスと笑いが起こった。私は、そんなに嫌そうな顔をしていたのかしら。


「じゃあ、学校では何をしてるんだ?」


「ん〜、そうね。社会勉強かしら。私とは全く価値観の違う人がたくさんいるから、多くの驚きがあるわね」


「ふぅん」


 チビっ子達は、たぶん半分も私の話が理解できてないと思う。でも、わかる言葉を探そうと、必死に聞いてくれているみたい。


 まぁ、職員達への説明でもあるから、これでいい。チビっ子でも、私は過度に子供扱いしない。




「レイラ様、この子達には、お話が難しいようです」


(やっぱりね)


 職員の中の一人の態度が、少し気になっていた。子供達を従わせたいのだろうか。大人は子供を守らなければならないという義務感が強いのかも。


 チラッとマザーに視線を移すと、彼女もその職員の方を複雑な表情で見ていた。マザーの雰囲気からして、悪い職員ではないみたいね。だけど……。



 私はその職員の方を、真っ直ぐに見て、口を開く。


「私は、この子達を子供扱いしないわ」


「えっ? いや、子供ですよ」


「俺達は、ガキじゃないぞ!」


 チビっ子のリーダー格の子が口を挟んだ。私が視線を向けると、ハッとして口を押さえている。


(ふふっ、かわいい〜)



「職員さん、この子は、いくつですか?」


「えっ? えっと、レンくんは……」


(年齢が出てこないのね)


 すると、マザーが口を開く。


「その子は、レンといいます。両親はスノウ領の人だったようですが、ノース領の貧民街で保護されました。誕生日がわからないので、推定ですが6歳ですよ」


「そう。6歳なら、もう一人でも大丈夫な年齢ね。親のいない子は、大人になるのが早いから」


「レイラ様は変わらないですね。幼い頃から、そのようなことを話してくださいましたね」


(全然、覚えてないわ)


「そうかしら? でも、これは事実ですもの。両親にチヤホヤされて育った貴族の子は、10歳になっても自分で生きる力がないわ。だから簡単に殺されるのよ」


(あっ、しまった)


 余計な一言を添えてしまったから、職員達がひきつってる。だけど、これは紛れもない事実だ。


 ハワルド家では、10歳になると、当主である母から引き離される。すなわち、早目の成人式。逆の言い方をすれば、10歳になった娘は、対等なチカラを持つ脅威なのだろう。



「変な言い方をしてしまったわね。ごめんなさい」


「いえ、孤児院にいる子供達よりもレイラ様の方が、辛い幼少期を過ごされたでしょう。確かに、おっしゃる通りですね。親がいないことは決して不幸なことではない。精神的に早く大人になることで、得るものは大きいはずです」


「ええ。あえて子供扱いをする必要はないわ。理解できない話があれば、それを理解しようと努力するはずよ。ただ、サポートは必要だと思うけど」


 私とマザーの言葉は、職員に伝わっただろうか。


(無理っぽいわね)


 チビっ子達は、キリッとして話を聞いているけど、肝心の職員には響いてないみたい。




「そういえば、マザー、新たに孤児を引き取って来られたんですってね」


「ええ、レイラ様も関わられた件だと、アルベルトさんから聞いていますよ。酷い事件でしたから、まだショック状態で、ロクに話せない子ばかりですが」


「どういう状況だったか、教えていただけますか。私は、女性達が捕らわれていた集落に行っていたので、まだ詳細は聞いてないの」


「わかりました。では、あちらの部屋に」


 マザーは、チビっ子達にも職員達にも、聞かせたくないみたい。それほど酷い事件だからね。



(あっ、その前に)


 私は、チビっ子達の方に視線を向け、口を開く。




「ミッションは、これにて終了です。みんな、よく頑張ったね。報酬のパンをどうぞ」


「「はいっ!」」


(ふふっ、ハモってる)


 その子供達の返事に、職員達は驚いたみたい。



「レイラ様、俺、レイラ様の使用人になりたい」


 チビっ子のリーダー格の子がそう言うと、何人かが、うんうんと頷いている。


「そう言ってくれて嬉しいわ。じゃあ、学校を卒業する18歳までに、語学と算術そして護身術を身につけてちょうだい。ハワルド家は、使用人でも狙われることが少なくないの。それが、絶対に必要な条件よ」


「ごがく、さんじゅつ、ごしんじゅつ?」


「ええ。文字の読み書きと計算、そして剣術か武術ね。薬師は薬師学校を卒業しないと雇えないけど、それ以外の使用人は、10歳から雇えるわ」


「わかった! 頑張る!」


 何人もがキリッとしてる。これで盗賊に堕ちる子が減るといいわね。



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