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53、ノース孤児院の定宿にて

「まぁっ! 本当にレイラ様!?」


 ノース孤児院が定宿としている小さな宿屋に着くと、そのロビーには、心配そうな表情をしたマザーが待ち構えていた。


 たくさんの紙袋を持つチビっ子達が、湖岸の避暑地を整列して歩く姿は、やはり目立つのだろう。マザーは、私がチビっ子達を引き連れてくることを知っていたみたい。



「マザー、ご無沙汰しておりますわ。転移魔法陣を踏んで対岸に来てしまっていた子供達を、冒険者として連れて来ました」


「あら、まぁ、こんなに……」


 マザーは、驚きの表情を浮かべた。21人も迷子になっていたのかと、少し誤解させてしまったわね。


「対岸に来ていたのは6人、いえ9人なんですが、少しずつ増えてしまったのよ。お土産にパンを買ってきました。おやつに皆さんでどうぞ」


 私は、マザーと一緒に待っていた孤児院の職員らしき人に、パン屋の紙袋を渡した。



「まぁ、ありがとうございます。それに、その子達にもパンを買い与えてくださったのですか」


「報酬でもらったんだ!」


 チビっ子のリーダー格の子が、私より早く、職員らしき人の問いに答えた。すると、職員らしき人は怪訝な表情を浮かべる。


(盗み癖があるのかも)


 まぁ、私達に短剣を突きつけて、お金ちょうだいって言ってたもんね。おそらくは盗賊の子だ。これまでにも、問題を起こしていたのだろう。


「誰から何の報酬で……」


「レイラ様だよ! 俺達はレイラ様に雇われたんだ。その報酬なんだよ!」


 するとマザーは、不思議そうな表情で私に視線を移した。他の職員達は、チビっ子の嘘だと思っているのかも。



「その子の言うとおりですわ。最初は、9人だったのだけど、誰も迷子にせずに、私一人でここまで連れてくる自信がなかったから、ミッションを依頼したのよ。報酬は、湖岸で一番美味しいパン屋のパンにしたの」


「ミッション? ですか?」


「ええ。誰も迷子にならずに、しかもパン屋でも行儀良く行動していたわ。この宿までは整列して歩いてきたのよ。小さな子も、しっかり頑張ったわ」


「まぁ、子供達が? すぐに誰かが走り出してしまうのに」


 職員達は信じられないみたいね。そういう態度だから、チビっ子達は、大人に短剣を突きつけるのよ。


「小さな子には難しかったかもしれないけど、大きな子が、手を繋いでサポートをしていたわ。孤児院にいるときはわがまま放題でも、この子達も、仕事ならキチンとできるわよ」


「帰ってくるだけのことが、仕事なのでしょうか」


「ええ、誰も怪我をしなかったんだから、完璧な仕事よ。職員さん達は、子供の能力をわかってないわね。私は、4歳のときには何でもできたわ」


「それはレイラ様が、貴族のお嬢様だからですよ。普通の4歳児は、すぐに迷子になって泣いてます」


 職員達は、この子達に手を焼いているみたいね。対岸に来たチビっ子達は、後から合流した子達とは少しタイプが違う。


 親が盗賊だった子供達を、やはり色眼鏡で見ているみたい。盗賊の子は、盗賊になることが多いからよね。


(きっと、大人のせいだわ)



「それだから大人はダメなのよ。子供だと思って舐めちゃいけないわ。子供の方が、純粋に助け合う心があるの。あと、護身術も教えなきゃダメよ」


「子供は10歳になるまでは、私達が安全に……」


「大人が安全を与えられるという考えは、傲慢だわ。だから、誘拐が多いのよ。私は特殊な環境だったけど、鍛えられたら4歳の小さな身体でも、大人から逃げるくらいのことはできたからね」


(本当は、殺せたんだけど)


 暗殺貴族ハワルド家の娘は、4歳までには、ひと通りの護身術を習得する。遊びだと思っていたのが、暗殺術だったりしたのよね。


「いや、でも……」


「まぁ、レイラ様は、ハワルド家のお嬢様ですから、物心がつく前から、厳しい訓練を受けておられますもんね」


 マザーがそう言うと、反論しようとしていた他の職員達は口を閉じた。みんな、驚いて目を見開いている。私の素性を知らなかったみたい。




「レイラ様は、偉い貴族なのか? さっきも偉そうにしていた貴族が、オドオドしたぞ」


 チビっ子のリーダー格の子が、マザーに尋ねた。職員達の表情の変化に敏感ね。


「ええ、レイラ様は、公爵家のご令嬢だからね。ハワルド家は、貴族の中では、名実ともに最高位と言えるわね。王命を受けて、悪さをする貴族を断罪するチカラがあるのよ」


 マザーは、上手く言葉を選んで説明している。だけど平民には、貴族間の地位の差なんてわからない。ハワルド家が恐れられるのは、暗殺貴族だからという理由だけ。


「そっか! だからレイラ様は、俺達のこともよくわかっているんだな。偉い人は、頭が良いんだ」


(関係ないと思うよ)


「ふふっ、レイラ様には、子供達を掌握する能力もあるのですね。ハワルド家には珍しいのかもしれませんが」


 マザーは、私に目配せをしてきた。他の職員達が、疑問に感じるということか。マザーのこういう所は、アルベルトに似ている。いや、逆ね。アルベルトがマザーから学んだのね。



「確かに、姉達は子供を寄せ付けないでしょうね。だけど、私は末っ子なのよ」


「はて? レイラ様、それはどういうことでしょう?」


 マザーは、穏やかに微笑みながら、そう尋ねた。ここから、それらしい理由を話さなきゃね。



「私は四女だから、姉達のように家名に惹かれて集まる使用人を得る機会は少ないわ。だから私は、ノース孤児院には期待をしているの。マザーに育てられたアルベルトが優れた才能を発揮したように、この子達の中には、私の使用人になる逸材がいるかもしれないもの」


「あら、それで、子供達にミッションという形で試練を与えたのですね」


 マザーは、やわらかな笑みを浮かべて、チビっ子達に視線を移した。


「ええ、この子達は、完璧な仕事をしたわよ」


 私がそう答えると、ザワザワと騒がしくなった。でもすぐに、リーダー格の子が、それを鎮めた。



「レイラ様、もしかして、孤児を使用人にされるのですか? 公爵家の使用人になど、なりたくてもなれるものではありませんが」


 なぜか、職員達が慌てている。


「私は、能力のある者なら、家柄など気にしないわ。ただ、すぐに騙されるような者や口の軽い者は雇わないけどね」



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