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51、パン屋で買い物

 アーシーが、治療院でガチガチになっていた頃、レイラは、パン屋の前で苦笑いをしていた。



「いつの間に、こんなに増えたのー?」


「みんなノース孤児院の子なんだ。コイツらの分は、報酬はいらないからさ」


「ぼくのたべほうだいを、わけっこする」


「ちゃんと宿まで整列して歩くから、お願い」


 チビっ子達は、必死に訴えてくる。もう嘘泣きは使わない。なんとか私を説得しようと頑張ってるみたい。



 パン屋の前で振り返ってみると、9人だったはずのチビっ子は、倍増していた。後から加わった子達は、5歳から10歳くらいだろうか。


(仕方ないわね)


 実際のところ、私は、チビっ子達が途中でコソコソと声を掛け合い、ついてくる子が増えていくことに気づいていた。


 ただ、私が振り返ろうとすると、他のチビっ子が必死にごまかしていたから、見て見ぬフリをしていたんだけど。



「本当に、ちゃんと整列して宿まで歩ける?」


「歩ける!」


「ミッションのために仲間を増やすことは、悪いことじゃない。だけど、それで迷子になる子が出ちゃうと、お仕事失敗だよ? ちゃんと、できる?」


「「できる!」」


(ふふっ、ハモったわね)


 後から加わったチビっ子達も、元気よく返事をしてくれた。それに、みんな、キリッとしちゃってる。


(くぅ〜、かわいい)



「わかったわ。じゃあ、みんな、食べたいパンを選んでちょうだい。他のお客さんの迷惑にならないように、静かに選ぶのよ? まだミッションは終わってないわ。お仕事中だからね」


 私がそう言うと、チビっ子達は、みんな表情を引き締めて、うんうんと何度も頷いている。


「じゃあ、お行儀よく、じゃないわね。ミッション中だから、キリッとしてパンを選んでちょうだい」


「「はいっ!」」


(ふふっ、かわいい〜)




 パン屋に入っても、チビっ子達は騒がない。緊張した子や澄まし顔の子、それぞれ個性豊かね。


 数えてみると、チビっ子は21人いた。ほとんどの子は小さいから、他のお客さんが子供達のせいでパンが見えないことはなさそうだけど、少し迷惑かな。


 私は、店員に事情を説明して、前金として銀貨5枚を渡した。日本円に換算すると5万円分くらいかな。そして、ノース孤児院のマザーへのお土産も兼ねて、チビっ子達の手では届かない上段のパンを適当に選んでいく。




「おい、子供だらけじゃないか。なぜ、子供を入れてるんだ」


 新たに入ってきた3人の客が、店内を見て嫌そうな顔をしてる。店員が慌てて駆け寄っていく。この慌てっぷりからして、湖岸に滞在中の貴族かな。


「子供達もお客さんなので」


「盗むんじゃないか? 向こう側で養子縁組の会をしているようだが」


「行儀良く選んでくれていますし、付き添いの冒険者さんもいますから」


 店員の視線が私に向く。すると貴族らしい彼らは、私が被るダサい帽子を見た。


「迷子捜索だと? 付き添いじゃねぇだろ。そもそも、こんなに大勢のパンを買う金なんて持ってんのか? この店は、安いパン屋じゃねぇぞ」


「前金をもらっていますから、大丈夫です」


「はぁ? 金を出せば誰にでも売るのか?」


(当たり前じゃない。バカじゃないの?)


 このパン屋は、この避暑地では一番美味しい。だから、貴族も買いにくるのよね。


 店員は困った顔をしているけど、他の店員は手助けできない。チビっ子達が選んだパンを、会計するのに忙しい。



「おじさん、僕達はミッションの報酬としてパンを買ってもらうんだ。みんな行儀良くしてる」


 一番年長者らしき少年が、そう説明した。


「はぁ? 口の利き方に気をつけろ。こちらの方は、パラライト家に仕える、アロン・ロジック様だぞ!」


(パラライト家……)


 夏休み前の学校の正門近くでのことを思い出し、私の胸はキューっと苦しくなってきた。あのパラライト家の上級生が、アルベルトに変なことを言わなければ、私は婚約破棄なんてしなかった。


 ロジック家という家名は知らない。たぶん、爵位のない貴族なのだと思う。もしくは商人ね。



「僕は、貴族の名前は知らなくて……。でも、地位のある人が、僕達の買い物を邪魔するんですか」


(おっ、エライ!)


「あぁ、そうか。おまえ達は、孤児院の子だな? ロジック家を知らないのか? 公爵家であるパラライト家に仕える名門貴族だぞ」


「僕はノース孤児院にいますが、亡き父はスノウ家に仕えていました。この店が貴族専用のパン屋なら、僕達が買い物することを咎められるのはわかりますが、違いますよね? なぜ、店員さんにまで酷いことを言うのですか」


(へぇ、スノウ家の使用人の子か)


 私達は、その子がうるさい客の相手をしてくれている間に、すべての買い物を済ませた。たくさん買ったけど、銀貨は1枚戻ってきた。釣り銭の銅貨は、店へのチップとして、チップ箱に入れておいた。




「買い物が終わったから、店を出るよ。ちゃんと整列してね」


「「はい!」」


(ふふっ、キリッとしてる)


 私が先頭に立ち、出て行こうとすると、3人の客の一人が、出入り口を塞いだ。



「ちょっと待てよ、冒険者。ずっと無視しやがって、何様のつもりだ?」


「店の出入り口をふさぐのは、迷惑よ? 退きなさい」


「はぁ? 平民風情が生意気な口を……」


「あの赤いシャツの人が貴族でも、アナタは平民なんでしょ?」


「俺も、ロジック家の血縁者だ! ふざけんなよ、ガキ」


(面倒くさいわね)



 すると、チビっ子のリーダー格の子が口を開く。


「レイラ様も貴族だぞ! 姿を隠すために平民に見える薬を使っているんだ。レイラ様は、おじさん達のような意地悪はしない」


(あちゃ)


 チビっ子にこんな言い方をされたら、収まらなくなるわね。ふと、アルベルトが私の名前を明かしたことを思い出した。あれが結局は、こんな場では最善なのね。



「は? 貴族がなぜ平民に? くだらないミッションを受ける理由は? これだから孤児は気をつけなければならないのだ。まともな人間に育たないからな」


「なっ……」


 チビっ子達が一斉に騒ぎそうになったのを、リーダー格の子が手を広げて制した。


(そろそろ、交代ね)


 私は、チビっ子達に合図をして、彼らの前に出た。



「私は、レイラ・ハワルド。王命を受けて働く公爵家、ハワルド家の四女よ! アナタ達は、あまりにも無礼ね。死にたいのかしら」



皆様、いつもありがとうございます♪

日曜月曜お休み。

次回は、7月9日(火)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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