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5、乙女ゲームでの悪役令嬢レイラは

「ええっ!? アルベルト様、そんな、ノース家のような立派な領主様のお屋敷に、僕なんて……あっ、にっ、兄さんなら、お役に立てると思います」


 カルロスは、アルベルトの呟きが聞こえたみたい。すっごく驚いてオロオロしている。


「それなら、兄弟で来ればいいですよ。貴方達は、お嬢様を治療し、迅速に学校へ連絡してくれた。その機転の良さと、俺も気付かなかった薬師としての知識を見込んでのことです」


「はわわわ、そ、そんな、僕はまだ経験も浅く……」


(こういう所も、薬師カルロスらしいわね)



 やはりこの世界は、乙女ゲームと酷似している。アルベルトの雰囲気は全然違うけど、これは私のせいだ。


 前世の記憶が戻ったのは、私のこれまでの態度を反省し、婚約者であるアルベルトとの関係を改善しなさいという、神様からの戒めかしら。


(ちょっと難しいわね)


 私は、前世の記憶が戻っても、アルベルトに対して暴言を吐いてしまう。まずはこの癖を直さないと、彼との関係は改善できない。


 でも、どうしてここまで、私はアルベルトに嫌な態度を取ってしまうのだろう? 婚約者だと紹介されたとき、私は、どう感じたっけ?


(うーん、思い出せないわね)


 彼が孤児だったことを知らなかった頃は、嫌な印象はなかったと思う。私はそんなにも、平民をさげすんでいたのかな。養子になった彼は、ノース家の子息なのに。


 前世の記憶が戻ったことで、今の私は、25歳の日本人の感覚の方が強くなっている。平等とは言えないけど、貴族なんていない世界。


 それなのに、アルベルトに対して嫌なことを言ってしまうのは、身分以外の何かがあったのかも。


(とにかく、ムズムズするもんね)


 私はこれまで、自分の行動をかえりみたことは、一度もない。言いたいことを言って発散してすっきりすると、忘れてしまっていた。


 まずは、このムズムズの原因探しから、かな。その原因がわかれば、反射的に暴言を吐く癖が直せるかもしれない。




「アルベルト様、せっかくのお誘いですが、俺は別で探しますよ。兄弟揃ってノース家に仕えるのは、ちょっとリスクがありますからね」


 私が考え事をしている間に、カルロスのお兄さんも中庭に出てきていた。この人の名前はわからない。乙女ゲームに登場しないし、誰も名前を呼んでないからね。


「ノース領で暮らしているのに、ノース家は信用できないということですか」


(ん? どういうこと?)


「信用できない土地には住みませんよ。ただ、今の領主様は高齢ですからねぇ。失礼ですが、アルベルト様は25歳でしたよね? まだ若い。代替わりしたときが一番危ういでしょう? そのときに兄弟揃って使用人でいることは、やはりねぇ」


(25歳? 前世の私と同い年ね)


 薬師の兄は、いろいろな経験があるようだ。おそらく、代替わりした貴族を潰そうとする側の経験かな。



 ノース家は、爵位を持つ貴族だけど、その爵位の中でも一番低い男爵家だ。その爵位は子が世襲できるはずけど、世代交代のときに争いが起こると、後継者が爵位にふさわしくないという理由で、王家が爵位自体を剥奪することもあると聞く。


 爵位を失うと、おそらくは領地も失う。すなわち、このノース領を欲しがる貴族は、世代交代のタイミングを狙うのね。



「なるほど、確かに、危惧される気持ちはわかります。だが俺は、とある名家に仕えているので、代替わりの危険は少ないと思いますがね」


 アルベルトがそう言うと、薬師の兄は、ちょっと気まずそうな顔をしたように見えた。


(理由は別にありそうね)


 おそらく、アルベルト自身もそれに気づいている。だけど無理に雇う必要もないから、スルーしているのね。



「あ、あの、兄さん、僕は……」


「あぁ、おまえは、初めて仕えるわけだから、ノース家で雇ってもらえば良いだろう。まぁ、俺達の技術なら、もっと上を狙えるはずだけどな」


(あー、ちょっとわかったかも)


 薬師の兄の方は、ノース家では不満なのね。おそらく、ノース家よりも格上の貴族に仕えていたのだろう。


(薬師って、ほんと強欲よね)




「では、夜も更けてきましたので、我々はこれで失礼しますね。カルロスさん、明後日の昼以降に、ノース家の屋敷にお越しください。そこで正式な雇用契約を結びましょう。俺が不在なら他の者が対応しますので」


 アルベルトはそう言うと、紙に何かを書いてカルロスに手渡した。カルロスは目を輝かせて、何度も頭を下げている。


(薬師カルロスの誕生ね)



 私が知る乙女ゲームよりも、今は少しだけ早い時代みたい。アルベルトがカルロスを雇う場面に今、私は遭遇しているのね。


 これから、私が知る通りのことが起こるのなら、私は未来のことを知っていることになる。


(でも、こんなことってある?)


 あまりにも不思議すぎる世界だ。でも、考えてもわからないことよね。気にするのはやめよう。



 私は、悪役令嬢レイラに転生した。レイラが何を失敗したのかを知っている。未来は行動の結果だから、未来を知る私なら変えることができるはず。


 悪役令嬢レイラは、16歳でアルベルトとの婚約を破棄し、スノウ剣術学校では、まるで独裁者のような行動をしていた。そして卒業後、20歳になる前に暗殺されるんだっけ。


(えっ!? 私、暗殺される?)


 前世の乙女ゲームの記憶をたどっていると、私はとんでもないことに気づいた。


 私は、このまま乙女ゲーム通りに行動してしまうと、何者かに暗殺される未来が待っているんだわ!


(変えなきゃ! 絶対に変えなきゃ!)


 まずは、アルベルトとの婚約破棄をしないことから、始めよう。まぁ、推しのアルベルトと結婚できる夢のような地位を、自ら捨てるようなバカな真似はしないけど。


 そのためにも、彼とのこの悪循環な関係は、なんとかしたい。すべては、私のムズムズ衝動にかかっているのよね。




「では、我々は失礼しますね」


 アルベルトはそう言うと、手に持っていた何かを潰した。すると、私の足元に、転移魔法陣が現れた。私だけじゃない。アルベルトも、彼が連れてきたハワルド家の使用人達の足元にも同じ魔法陣が現れている。


(帰還の魔道具ね)


 私達は、魔法陣が放つ白い光に包まれた。



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