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49、アーシー、怒る

「治療院の人手が足りないの?」


「いえ、ノース家で見習い薬師をしているカルロスも来ていますので、人手はなんとか足りています。ただ、高度な技術を持つ薬師が不足しているのですよ」


(薬師カルロス!)


「高度な技術が必要なの? 何があったの?」


「まぁ、言いにくいのですが、連絡のつかない女性が半分以上いるので……」


(あっ、死体の保護か)


「きちんと探してくれてるのね」


 いろいろと話したいけど、ここではできないわね。あの盗賊というか暗殺者も、話を聞いているだろうし。


「はい。ただ、少し時間が経ちました。スノウ薬師学校のサーフさんが来てくれましたが、彼にあまり魔力を使わせるわけにもいかないので、困っているのです」


(えっ? サーフ先生!?)


 パッとアーシーの方を見ると、ポーカーフェイスをしているつもりだろうけど耳が赤い。


(これはチャンスだわ!)


「じゃあ、アーシーを貸してあげるわ。アーシーはサーフ先生の教え子だから、助手にピッタリだもの。アーシーの安全は、アルベルトがきちんと守るのでしょうね?」


「もちろんです。治療院まで私が連れていきます。あっ、アーシーさん、黄色い帽子はそのままで構いませんよ。治療院には、迷子の子供も預かっていますから、ギルドミッションの範囲内です。サーフさんが、追加報酬の手続きをしてくれるでしょう」


 アルベルトの話の中で、サーフ先生の名前が出ると、ビクッと反応するアーシー。


(ふふっ、楽しみね)


「じゃあ、私は、チビっ子達をノース孤児院のマザーに送り届けた後、治療院にアーシーを迎えに行くわ。アーシーは、サーフ先生の助手をしっかり頑張ってね」


「は、はい。かしこまりました」



 アルベルトが警備兵にいくつかの指示を出すと、兵達は、盗賊を連れて湖から離れていく。だけど、暗殺者だという男は、隙を見て逃げるだろうな。


 そしてアルベルトは、アーシーを連れて、治療院の方へと歩いて行った。




 私は、チビっ子達の方に視線を移す。


(さっきまでとは違うわね)


 私が貴族だとわかり、戸惑いが隠せないみたい。だけど涙目になっている子はいないから、まだマシね。


 私の家名をアルベルトが明かしたけど、あれは、盗賊達への牽制だったみたい。暗殺者の男でさえ、逃げる気力を失っていたもの。


 チビっ子達が、ハワルドという家名を知らなくてよかった。



「みんな、ノース孤児院が利用する宿の場所は、わかる?」


 私がそう尋ねると、2人が頷いた。他の子はキョロキョロしてる。最初の6人のリーダー格の子と、別の冒険者が連れて来た3人のうちの一人ね。


「じゃあ、はぐれないように気をつけて。場所がわかる子は、しっかりと面倒を見てあげてね」


「はぁい!」


(ふふっ、かわいい〜)


 クゥゥ〜


 誰かのお腹の悲鳴が聞こえた。屋台の焼き物の匂いが漂ってきたからかな。


「でも、ちょっとお腹が減ったわね。ここの屋台じゃなくて、宿がたくさんあるストリートにあるパン屋さんに寄って行こっか」


「えっ? おかね、ない……」


 チビっ子達は、一瞬、嬉しそうな顔をしたけど、リーダー格の子の言葉で、シュンとしちゃった。だけど、タダで何かを施すのは、教育上良くないよね。


(あっ、そうだ)



「あのね、私、ノース孤児院の定宿がどこだったか、ちょっと自信ないのよ。それに、こんなにたくさんの子を迷子にしないで連れて行く自信もないわ」


「えっ……」


 私が辞めると言い出したと思ったのか、チビっ子達に戸惑いが広がる。


「だからね、私がみんなを雇うことにしてもいい? 報酬は、パンを食べ放題でどう?」


「レイラ様が、俺達を雇うのか? えっと、仕事は何を……」


「そう、私が雇うの。宿の場所を知っている子は、案内係ね。大きな子は、小さい子が迷子にならないように、ちゃんと見てて。小さい子は、しっかり歩いて宿までたどり着くのがお仕事だよ。できる?」


「「できる!!」」


(ふふっ、ハモってる)


「よし、じゃあ、ミッション開始ね。えーっと、どっちだったかしら?」


「レイラ様! 左の広い道だよっ。みんな、整列しろ! 大きな子はチビと手を繋げ! これは仕事だぞ」


 リーダー格の子がそう言うと、チビっ子達は、2人ずつ4列に並んだ。一番後ろには、宿がわかると言っていた子が並んでいる。たぶん、お出掛けのときの並び方なのね。


「じゃあ、行きましょう。転ばないようにゆっくりね」


「「はいっ!」」


(かわいい〜)




 ◇◆◇◆◇




「アルベルトさん、あの、私が助手というのは……」


 治療院へ向かう道で、アーシーはアルベルトに遠慮がちに話しかけた。


「はい、何でしょう? あぁ、先程は、あんな説明になりましたが、調合師であるアーシーさんの方が、サーフさんよりも能力が高いことは、わかっていますよ。レイラ様は、何もご存知ないようですが」


「そんな、私は助手で充分なのです。調合師とはいっても、経験がまだまだ足りませんから」


「ふふっ、そうですか。貴女のように謙虚な方だから、レイラ様との相性がいいのですね。レイラ様も、あの転落事故以来、少し落ち着いてこられましたが」


 アルベルトは、思い出し笑いをしているのか、その表情は穏やかに緩んでいた。そんな彼の余裕に、アーシーは疑問を感じている様子。いや、苛立ちだろうか。



「アルベルトさんは、レイラ様を気に入っておられますよね? それなのに、婚約破棄を言い渡されて、なぜそんなに平気なんですか。なぜ撤回するようにと、レイラ様にお願いされないのですか!」


「あぁ、そうか。アーシーさんには伝えられてないんですね」


「えっ? レイラ様に、お願いしたのですか? でも、レイラ様は……」



 アルベルトは、少し思案顔をしていたが、軽く頷いて口を開く。


「アーシーさんは、レイラ様を大事にしているのですね。私もレイラ様を大切に想っていますよ。あれ以来、婚約の件の話はしていません。そんな必要はありませんから」


「どうして必要ないのですか! レイラ様はきっと、アルベルトさんのことが……。放置するなんて、ひどいです! レイラ様は、アルベルトさんからの申し出を待っているはずです。それなのに必要ないだなんて、ひどすぎます!」


 アーシーの目から、ポロッと涙がこぼれた。



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