47、対岸で絡んで来た男達
「こっちもすごい人ね」
対岸のノース領側に、転移魔法陣を使って移動すると、私の知る景色とは全くの別物だった。
私達と同じく、『迷子捜索』と書いてあるダサすぎる帽子をかぶった冒険者の姿も、チラホラ見えた。派手な黄色の帽子はよく目立つ。
こちら側から逃げたチビっ子は、私達が連れ戻した6人どころじゃないみたい。
スノウ家の次男が、大規模な養子縁組の会をしていて多くの孤児が集まってる、と言っていたけど、大人の方が圧倒的に多くて騒がしい。逃げ回る子供もいる。
(なぜ、逃げるのかしら)
「あぁ、6人かい。ありがとう、預かるよ」
転移魔法陣の小屋近くにいると、軽装の中年の男性3人が声をかけてきた。
(何か、おかしいわね)
「ちょっと待って。この子達は、ノース孤児院の人に引き渡すわ。貴方達は何者かしら」
「俺達は子供達の回収を、そう、その孤児院に頼まれて来てるんだよ」
「じゃあ、その証明をしてちょうだい。このダサい帽子みたいに、何かあるでしょ」
「そんなもん、あるわけねぇだろ。さっさと引き渡して、おまえらは対岸に戻れよ」
チビっ子達は全員、やはり私を盾にして隠れている。アーシーに視線を移すと、怪訝な顔をしていた。やはり、この人達はおかしいよね。
「私は、ノース孤児院のマザーの顔を知っているわ。それに古い職員もね」
私がそう言うと、彼らはチッと舌打ちをした。そして、新たに到着した子供達の方へと移動していく。
(そういうことか)
私はアーシーに、目配せをする。彼女は、私の言いたいことがわかったみたい。力強く頷いてくれた。
「あのオジサン、おかしくないか?」
チビっ子達のリーダー格の男の子が、そう言ってきた。
「よく見ていたわね。私も変だと思う。子供を誘拐するつもりかもしれないね」
「孤児院のマザーは、困っている子がいたら先生に教えてねって言ってた。今、先生はいないけど」
「アーシーは薬師だから、薬師学校に行くと先生って呼ばれるよ」
私がそう教えると、男の子はアーシーの顔を見た。やはり薬師は苦手みたいだけど、助けなきゃという正義感で頑張ってるみたい。
(くぅ〜、かわいいよ〜)
「わかりました。今だけアナタ達の先生をします!」
(アーシーも頑張ってる)
小さな子が集まっていたら苦手だと言っていたけど、このミッションで克服できそうね。
「そっちは3人だな。ありがとう、預かるよ」
「あっ、はい、お願いしま……」
「ちょっと待ってください。私達は、ノース孤児院の方に、引き渡しに行きます。ここは人が多いですから、事故があってはいけないので」
(アーシー、頑張ってる!)
男達は、まだ笑顔を保っているけど、明らかにイラついている。連れて来た冒険者2人は、ちょっと怯えてるかも。
「おまえら、こっちに来いよ! そのお姉さんは先生なんだぜ。知らない大人を信じちゃダメだ」
(あっ、来た)
リーダー格のチビっ子がそう言うと、3人のチビっ子達がこちらに駆け寄ってくる。
すると男達は、突然、長剣を抜いた。
「俺達の仕事の邪魔をする気か? 駆け出しの冒険者だろ」
「私は、Cランク冒険者です! 言っておきますが、対岸では氷花祭が始まりました。意味はおわかりですね?」
(アーシーが、かっこいい!)
「はぁ? 知らねぇな。そんな細い腕で、剣も持たずにCランクだから何だってんだよ」
アーシーは、チラッと私に視線を向けた。
(ギブアップみたい)
私は数歩、男達に近寄った。
なぜか、チビっ子達もついてくる。動きにくいな。子供達は、心底怯えているみたい。それに、3人を連れて来た『迷子捜索』の2人も、思いっきりビビってるわね。
「アンタ達、こんな場所で子供達を誘拐するつもり? 私達が許さないよ。あっ、氷花祭が始まったから、毒薬は使えないね。私が代わるよ」
そう言いながら、さらに少し近寄ると、チビっ子の一人が私に短剣を渡してくれた。
(持ってるんだけどな)
でも、思いっきりキラキラとした目で、力強く何度も頷きながら託されたら……借りないわけにはいかないか。
「ありがとう、借りるね」
私がそう言うと、リーダー格の子が合図をし、他のチビっ子達がその場に止まった。
(動きやすくなったわ)
「はぁ? おまえみたいなガキが代わるだと? しかも、子供が持っていたオモチャの剣だろ」
「これで充分よ。今日は、祭の手伝いミッションで来てるから、おとなしく帰るなら見逃してあげてもいいわ」
「ふふん、大人を舐めるとどうなるか。女だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」
キン!
振り下ろしてきた剣を、借りた短剣で弾き、その男が体勢を崩したところを、蹴り飛ばしてみた。
(結構、強いわね)
蹴りが当たって草の上に倒れたけど、その男は、すぐに立ち上がり、剣を構え直した。他の男達は、見ているだけね。
「チッ! おまえも、Cランクか?」
「さぁね。こんなとこで騒ぎを起こしたら、そのうち上位冒険者や警備兵が来るわよ」
「さっき止めたのは、マグレだな? そもそも短剣で勝てるとでも思ってるのか」
(面倒くさい男ね)
だけど確かに、この短剣は、次の一撃を受けると壊れるかも。
「じゃあ、双剣にしてあげるわ」
私は、持っていた自分の短剣を左手に持った。
「2本持っても、短剣じゃねぇか。バカだろ」
(そんな挑発には乗らないわ)
男は、また剣を振り下ろしてきた。重い斬撃ね。私が避けるとチビっ子達に当たるように狙ってる。
キン!
左の短剣で受け流し、そのまま相手の胸元に踏み込み、右の短剣を男の喉元に突き立てた。
「なっ、何? 消え……ひっ」
「オモチャの短剣を突きつけられて、悲鳴? アナタの方こそ、バカじゃない? 長剣を持ってるくせに、チビっ子から借りたオモチャの短剣に負けてるの? ほんと情けないわね。そんなんだから、子供の誘拐しかできないのよ。盗賊なら、弱い者じゃなくて金の亡者を狙いなさいよ!」
「右を見て! 右っ!」
(ん? 何?)
アーシーが、身振り手振りで何かしてて、右って言ってるけど……うぎゃっ!
パッと右を見てみると、そこには、ノース家の警備兵とアルベルトが立っていた。
私は変装の香水を使ってるから平民に見えているはずだけど……アルベルトは、呆れ顔で仁王立ちだわ。
(なぜバレてるの?)




