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43、純恋花の謎すぎる導き

「うるさかったかしら。邪魔するつもりはないから、どうぞ、お仕事を続けて」


 近寄ってきた毒薬専門の薬師は、相変わらず不機嫌そうな顔をしていた。幼い頃の私は何度も叱られたし、調合室からつまみ出されたこともある。


(この人、苦手なのよね……)


「レイラ様がうるさいことには、皆、慣れていますよ。その奇妙な植物というのは……」


「みんな忙しいんでしょ。貴方が抜けると作業が止まるわ。私は邪魔しないから、作業に戻ってちょうだい」


(あっちに行け〜)


「ふっ、もう、高度な技術を使う部分は終わりましたよ。それより、そのサーフローズについて聞きたい」


 幼い頃に怖いと感じた薬師は、さすがに16歳になった今では怖くはないけど、苦手なものは苦手だ。それがわかっているのか、彼は私によく絡んでくる。



「それなら、私じゃなくて調合師に尋ねてちょうだい」


「レイラ様が手に持つサーフローズは、誰が摘んだのかな」


(嫌な言い方ね)


 私はスッと目を細めてみた。アルベルトがよくやる顔だけど、ヒヤッとするもんね。


(ちょっと効果アリかしら?)


 いつまでもこの薬師を、苦手だなんて言っていられない。もう私は子供ではないし、前世の記憶が戻ったんだもの。



「私が採取したわ。明日、薬師ギルドに持っていくから渡さないわよ。気になるなら自分で採りに行きなさい」


 冷たく言い放つと、その薬師はシャーベットの方をチラッと見て、首筋をポリポリと掻いている。


(あら? 意外にすぐ引き下がるのね)


 これまでの私の態度が、彼をつけあがらせていたのかもしれない。ガツンと反論すると、黙るのね。



「レイラ様、アーシーを呼んできますね」


 シャーベットはそう言うと、逃げるように出て行った。彼女も、この薬師が苦手なのかもしれないわね。



「あぁ、治癒薬師長にまで逃げられたか。コホン。レイラ様、そのサーフローズが、魔物草だとおっしゃっていましたな?」


「はい? そんな表現はしていないわ」


「だが、目玉が開いて花粉を飛ばすとか、次々と連携するというのは、その証拠だ。どんな土壌に生えていたのか、何に反応するのかを知りたい」


「そんなことを知って、どうするのよ?」


「当然、調薬の素材としての可能性を探る。俺の仮説が正しければ、サーフローズの群生地は、ゴーレムの墓場だ」


 その薬師は、突然まじめな顔で、おかしなことを話し始めた。ゴーレムの墓場って何? そもそもゴーレムは倒されると、魔石は残っても屍は残らない。岩石や砂に変わるだけでしょ。



「おかしな仮説ね。サーフローズの見た目は確かに黒くて、群生地も黒いモヤモヤの谷に見えたけど、ゴーレムの屍なんてなかったわよ」


「ほう、黒い谷か。深いのかな」


「上から見ると深い谷に見えたけど、サーフローズは岩盤に生えていたし、腰くらいの高さしかなくてゆらゆらしていたわ」


「堅固な岩盤か?」


「ええ、土壌はカチコチだったわ。波動に反応すると注意されたけど、普通の話し声には反応しなかったわね」


「マナやオーラの波動に敏感なのか」


「さぁね。目玉の下を切っても無反応だったから、鈍感かもね。目玉の上を切ると目玉が開くわ。あと、魔法には反応するみたいね」


「ふむ、なるほど」


(ハッ! 全部喋ってしまったわ)


 やはり、この薬師に絡まれると、私は何でも答えてしまうのかしら。幼児期のトラウマって恐ろしいわね。




「レイラ様、お呼びでしょうか」


 青白い顔をしたアーシーが、調合室に入ってきた。サーフローズの説明をさせようとして呼んだのに、私が喋ってしまったわ。


「ええ、昨日はお疲れ様。顔色が悪いわね。お菓子でも食べる?」


「お、お疲れ様でした。えっ? お菓子なんて……えっと」


 アーシーは、調合室のニオイで気分が悪くなるのかも。昨日の治療と死体を思い出すのよね。だけど、ここで逃げると、もっと辛くなると思う。



「レイラ様から、サーフローズについての基本的な群生地の情報だけを聞いた。だが、詳細はわからないようで、アーシーさんを呼んだんだよ」


「えっ? 毒薬師長が?」


「俺じゃなくて、呼んだのはレイラ様だ。俺の仮説をおかしいと一蹴されたんだが、サーフローズを研究するサーフ先生の教え子である、キミの意見を聞きたい」


「は、はい。えーっとあの……」


「サーフローズの群生地は、ゴーレムの墓場ではないだろうか? もしそうなら、サーフローズの根が欲しい」


(この隙に……)


 アーシーは、サーフローズについての話を始めた。私は、ソーっと離れ、本棚に向かった。




 調合室の真ん中の柱の上の方に居る、純恋花と呼ばれる精霊の導き。確か、繋がりにも意味があるんだったよね。


 私は、写本を本棚の近くのテーブルに置き、ペラペラとページをめくる。



 一番最初は、淡いオレンジ色の球体だった。


『新たな目覚め。新たな心。動き始める変化の兆し。これまでとは違う何かが生まれた証。変化の始まりを怖れないことが大切』


 これは、前世の記憶が戻ったことを示しているのよね? たぶん。



 こないだのは、白銀の強い光を放つ小さな球体。


『ゼロからのやり直し。今までに試したことのないことを試すべき。未知の光は、未知の闇にある』


 あれ? 未知の闇って、サーフローズの黒い谷のこと? やったことのない薬師ギルドのミッションを受けたよね?


 いろいろなことに当てはまるような表現だけど、私は純恋花の導きに従ったのかな? 純恋花は成功に導くというけど。



 そして、今は、鮮やかな青色の球体だ。えーっと、この導きは……あ、あった!


『水に宿りし精霊は、目覚めし氷のモノを嫌う。水を味方につけるには、従順な心が邪魔となるだろう』


 この導きは、何を言ってるのか、全くわからない。水を味方にって……敵も味方もないよね?


 チラッと純恋花に視線を移してみると、青い光は、より鮮やかに大きくなったように見えた。


(はぁ、全然わかんない)




「レイラ様! わかりましたぞ! やはりサーフローズの群生地は、ゴーレムの墓場ですよ」


 アーシーと話をしていた薬師は、大声で叫んだ。


「あら、そう。そんなことより、調薬の邪魔になるから静かにしなさいよね!」


 そう返すと、あちこちからクスッと笑う声が聞こえた。


(ふふん、私の勝ちね)


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