表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/97

41、レイラ、落ち込む

「コルスさん、湖岸の治療院に運びます。礼拝所もありますから」


 アルベルトはそう言うと、転移の魔道具を取り出した。


「待って。さっきの男が変なことを言ってたけど……」


「その件については、コルスさんにお尋ねください。私はお先に失礼します」


 アルベルトは、魔道具を操作した。


 彼や兵はもちろんだけど、カウンター内に並んでいた死体と床下から救出した女性、さらにこの店で働いていた女性も、転移の光に包まれた。


(誘拐された女性全員ね)


 出入り口を塞いでいた兵が消えると、店内にいた客は、慌てて店から出て行った。



「コルスさん、私達だけ残されたわね」


「そうだな。とりあえず、この集落を出ようか」


 まだ青い顔をしているアーシーと手を繋ぎ、私達は店から出ていく。


(居ないわね)


 家に隠れたのか、ノース家の兵に捕まったのかはわからないけど、ほとんど人影が見えない。



「住人は、捕まったの?」


「いや、逃げたんじゃないか? 俺達が集落に入ってきたときには、逃げる準備を始めていたと思うぜ」


「ノース家の兵が来たからね?」


「あぁ、ここは盗賊の集落だからな。逃げる先も事前に確保してあると思う。あの道の先の集落には、冒険者とスノウ家の兵が行ったけどな」


「あの道の先って……」


「女子供を誘拐して、人身売買をしてる盗賊の集落だ。たぶん、この集落より格上じゃないかな」


「そっか……」


 私達は、盗賊の集落を出ると、そのまま無言で未開拓地の出入り口へと歩いていった。


 まだ話したいことはあったけど、夕方の未開拓地は危険だ。途中、何度か魔物と遭遇したけど、スノウ家の次男がすべて対応してくれた。


(コルスさんって、けっこう強いのね)



 ◇◇◇



「ふう、やっと戻ってきたな」


 未開拓地の出入り口まで戻ると、そこには、スノウ家の家紋をつけた兵がたくさん居た。それに冒険者もいる。


「さすがコルス様だ! 迷子の学生を無事に見つけたんですね。お嬢さん達に怪我はないですか?」


(ん? 迷子?)


「あぁ、大丈夫だ。先に戻ってくれてよかったんだぞ」


「日が暮れてきたので、さすがに帰れませんよ。アルベルトさんは?」


「彼は、現地で解散した。別の用事が入ったみたいだからね。あっ、レイラさん、近くの転移魔法陣まで送りますよ」


 スノウ家の次男の言葉で、待っていた冒険者達が不満そうな顔をしてる。彼を薬師ギルドまで送り届けるのが、彼らの仕事なのかも。



「コルスさん、それは不要よ。アーシーが帰還の魔道具を持っているわ。もう、ここなら使えるから」


「そうか。じゃあ、ここで。もう一つの集落についての報告は、明日中にはまとめられると思う。気になるなら明後日にでも、薬師ギルドに来てくれ。採取ミッションの完了報告もその時でいいよ」


(あの坊やの行方ゆくえね)


「ええ、わかったわ。ありがとう」




 ◇◇◇




「アーシー、鼻の中が、かゆいわ。変な虫に刺されたのかもしれない」


 ハワルド家の裏庭に戻ってくると、私はすぐに不調を訴えた。するとアーシーは戸惑って、キョロキョロしている。


「えーっと? どうすれば……」


 アーシーは、私の嘘に困ってるみたい。こういう所はまだまだね。少しすると、シャーベットが出てきた。



「レイラ様、未開拓地に行かれたんですよね? まずは、身体を洗ってください。それでも鼻がおかしければ、調合室にお越しください」


「わかったわ。じゃあ、一旦、私室に戻るわね」


「レイラ様! 虫だらけで私室に戻ると、使用人が困ります。洗い場へ直行してください。着替えは、誰かが持ってきてくれるはずですから」


「じゃ、魔法袋だけ預けておくわ。薬師ギルドのミッションで摘んだの。間違えて捨てられたら困るから」


(これで確実に、調合室へ行けるわ)


 私は、アーシーと一緒に、洗い場へと移動した。




「レイラ様、あの……」


「あぁ、アーシーは初めてよね? ここは、まさに洗い場なのよ。仕事が終わった人が、汚れを落とすの。ここでは身分は関係ないから、ビビらなくて大丈夫よ。個室だし、扉を閉めれば見えないわ」


「は、はい」


 血のニオイがする洗い場に、アーシーは戸惑っているみたい。まぁ、恥ずかしいのかもしれないけど。



 頭から湯をかぶって、特殊な石けんで身体を洗う。私は床下の穴に入ったから、アーシーの消臭薬が洗い流されると、すごい異臭が復活してきた。


 生存者3人は、大丈夫だろうか。彼女達も身体を洗うと、この臭いが復活してしまうよね。特殊な臭いを落とす石けんを、アルベルトは用意しただろうか。


 彼は、湖岸の治療院に運ぶと言っていたっけ? 


 私がなぜ床下の穴から死体を引きあげさせたか、その理由を説明できなかった。


 でもアルベルトなら、何も言わなくても、私が何を考えたのか、わかってくれると思う。


 亡くなった女性は、家族の元に返したい。子供を産んだ女性ばかりなら、その子供達に返してあげなきゃ。


 きっと、アルベルトはすべてわかっているから、湖岸の治療院に運ぶのね。あの辺りは、とても美しく静かな場所だ。家族との別れに適している。


 アルベルトは本当に優しい。ハワルド家に仕えていても、人の心を失わない。あんな人は、他にはいないよね。


(また、苦しくなってきた)


 アルベルトは、私が婚約を破棄したから、いずれは別の人と結婚するだろう。そして、ノース家を継ぐんだわ。


 彼は、どんな人と結婚するのかしら。

 そのとき私は、どんな顔をすればいいの?



 そういえば、さっき、あの盗賊薬師が変なことを言っていた。私が、魔石と死体のコレクターだとか、闇魔術の素材だとか。禁忌を侵して処分されないようにとも言っていたっけ。


(あっ、アルベルトの策略ね)


 魔石の話を始めたのは、アルベルトだ。彼はきっと、あの男の考えを誘導したのだろう。


 ハワルド家の娘として、ヤバそうな趣味があることは、逆に誇るべきこと。闇魔術が何かは知らないけど、アルベルトは、私への畏怖を高め、そして、あの坊や自身が狙われないようにと、考えたのね。


(賢すぎる)


 アルベルトはハワルド家にとって、有能で役立つ使用人だ。そんな彼との婚約を破棄したことが母に知られたら、大変なことになりそう。


 何より、こんなに好きなのに、なぜ婚約破棄するなんて、言っちゃったんだろう……。


皆様、いつも読んでくださってありがとうございます♪

おかげさまで10万字を越えました。物語は、プロット通りに進めば20万字程度での完結を予定しています。予定は、しばしば狂いますが……(*゜艸゜*)


これまで毎日更新しておりましたが、今週からは、日曜月曜お休みをいただき、火曜から土曜の週5回更新に変更する予定です。また土曜日にお知らせします。

よろしくお願いします♪ (*´-`)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ