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40、捜す理由と事件の首謀者

「ひっ! は、ハワルド家の四女か!?」


(ほんと、失礼ね)


 ハワルド家の出来損ないと言ったのは私自身だけど、それで四女だと気づくこと自体、ムカつくわね。


 こういう裏界隈では、レイラという名前は知らなくても、ハワルド家の四女は出来損ないだと周知されているらしい。


 私が不機嫌さを隠さないで、その男を睨みつけると、彼は顔から滝のような汗を流し始めた。


(コイツは、首謀者じゃないわね)


 さっきまでの好戦的な笑みは消え、恐怖で狂いそうになっている。私は何も特有能力は使ってないのに、これだもの。この男は、ただの駒だわ。




「あ、あの、お嬢様が捜しておられる子供というのは……」


(マズイわね)


 ハワルド家の娘が捜していることが広まると、あの坊やは、これからずっと狙われることになるんだっけ。私の弱味になるとは思わないけど、あの坊やが危険にさらされることは明らかだ。



「お嬢様、まだあの子供を捜していたのですか」


 アルベルトが事務的な口調で、私に問いかけた。きっと、呆れてるわね。あの坊やを捜しに行こうとして揉めて……その結果、私は彼に婚約破棄を言い渡したんだもの。


「別に、捜してないわよ」


「はぁ、嘘だとバレバレですよ。そんなにも、魔石にこだわる理由は何ですか? ロックゴーレムの魔石なら、既にお持ちでしょう?」


(何の話?)


 アルベルトは、作り笑顔を浮かべたまま、表情を変えない。えーっと、こういうときの彼は、何かの意図があって、作り話をしていることが多いかも。


「シルバーゴーレムかもしれないわ」


 私が話を合わせると、アルベルトは微かな笑みを見せた。やっぱ、アルベルトが笑った顔って好きだな。


「シルバーゴーレムの魔石も、お持ちですよね?」


「うるさいわね! 貴方には関係ないでしょ」


 そう言ってみると、アルベルトは、やれやれという顔を作っている。彼が怒ると無表情になるから、これも芝居みたい。



「あ、あの……魔石と子供に何の関係が……。あっ、もちろん、我々も捜す手伝いを……」


(はい? どの口が言ってんの!)



 すると、アルベルトが口を開く。


「店主、それは無理ですね。この集落は、王家の兵が取り囲んでいる。地下室にいた客は、すでにノース家の兵が捕えて引き渡した頃でしょう」


「えっ? 王家? な、なぜ」


「半年前から、各地で似た事件が起こっていることを知らないようですね。近いうちに、王命によりハワルド家が、この件の首謀者を断罪するでしょう」


「レイリッヒ家の当主が、兄を売ったのか」


(レイリッヒ伯爵家が首謀者?)


 そういえばレイリッヒ家は、最近、当主が変わったのよね。確か、商才があることで有名な長男ではなく、あまり目立たない次男が後継者に指名されたと、一時期けっこうな噂になっていたっけ。



「やはり貴方を動かしていたのは、レイリッヒ家の当主の兄でしたか。先代の当主の人を見る目は正しかったということですね」


 アルベルトがそう言うと、店主の盗賊薬師は、ぐわっと目を見開いた。だけど私の視線に気づくと、ガクリとうなだれている。


 もしかすると、アルベルトには首謀者がわかってなかったのかも。今の話を聞いたノース家の兵が地下室へ降りて行った。別の出入り口付近に待機する誰かに伝えに行ったのね。




「あの、お嬢様。その魔石は、食料でしょうか」


(はい? 何のこと?)


 店主は、必死な顔をしてる。もう、彼を動かしていた者を裏切り、私に媚びようということか。


 この男にとって、誘拐した女性の生命は、商品と同じなのね。だから、壊れた道具を捨てるかのように、女性を床下の穴に捨てていたんだ。


 前世の感覚の私は、激しい怒りを感じている。一方で、15歳までの私は無関心だった。これが暗殺貴族の感覚か。


 ここで私が、前世の感覚で怒りをぶつけるわけにはいかない。穴の中から死体を引きあげるように指示した私の行動は、アルベルトには異様なものに見えたかな。


 ハワルド家の娘……姉達なら、きっとこんなことはしない。放置か無関心だろう。魔法が得意な長女なら、このまま火葬するかもしれないけど。



「あ、あの……お嬢様……」


(しつこいわね)


 アルベルトは、魔道具で何かの連絡をしているみたい。店主は、その隙にと考えたのか、私に取り入ろうと必死ね。


 カウンター内に整然と死体を並べさせた理由も、説明が必要かもしれない。店主はカウンター内の様子の方を気にしているようにも見える。



「なぜ、アナタがそんなことを気にするわけ?」


 私がそう尋ねると、店主の表情は一気に期待に輝いた。失敗したかしら。


「お探しの魔石を、その子供が持っているなら、我々は全力でその魔石を探します!」


(はい? あー、そっちか)


「アナタ達のような盗賊には、関わってほしくないわ」


「決して、別の物とすり替えたりしません! 魔石は個性があるから、すり替えは不可能です。過去が刻まれるのですから」


(何を言ってるの?)


 私は、はっきり言って、魔石なんて燃料だとしか思ってない。アルベルトが変な作り話をするから、訳がわからなくなってしまったわ。



 すると、スノウ家の次男が口を開く。


「盗賊が触れると魔石が濁ると、彼女は言ってるんだ。まだ調薬ができない薬師の子供は、魔石の濁りを浄化するだろ? だから、薬師の子供は高く売れる。事情は知らないが、レイラさんは、その子にゴーレムの魔石を預けていたんだな? ゴーレムの魔石は濁っていることが多く、濁りを取り除かないと種類がわからないからな」


(コルスさんも作り話?)


「確かにゴーレムの魔石には、高価で貴重な物がある。子供が身につけることができる小さな物なら、特に稀少な金属系ゴーレムの魔石の可能性も少なくないからな。だが、ハワルド家のお嬢様が金目当てだとは思えないが」


「何? アナタも死にたいのかしら」


 私がそう言うと、その男はフッと笑った。


(なぜバカにされた?)


「ハワルド家の四女が出来損ないだという噂は、こういうことか。魔石と死体のコレクターね。闇魔術の素材だな。禁忌を侵して処分されんよう気をつけなさい」


 そう言うと、店主は姿を消した。


(はい? 逃げた!?)



「コルスさん、店主が……」


「俺達には捕まえられない。悔しいけどね」



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