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31、スノウ家の兄弟

「採りに行こうぜって、コルスさんも一緒に?」


「あぁ、俺も兄貴もな」


(兄貴?)


「カイル・スノウです。弟がいつもお世話になっています」


 護衛かと思っていた男性が、そう言って軽く頭を下げた。ということは、この人がスノウ家を継ぐ長男で、冒険者ギルドの責任者なのね。



「初めまして、カイルさん。私の方こそ、コルスさんには、いろいろと助けていただいてますわ」


「へぇ、それは嬉しいですね。弟が、ハワルド家のお嬢さんに認めていただいているとは思わなかった」


(悪気はなさそうね)


「ちょ、兄貴! 俺はレイラさんと友達だと言っていただろ。信じてなかったのかよ!?」


(あっ、拗ねてる)


「いや、そういうわけでもないんだけどね。こんな場所で、そんなことを言うなよ。笑われるよ?」


 そう言われたスノウ家の次男は、パッと私の顔を見た。なんだろう、この小動物のような動き。お兄さんの前では、子供っぽくなるのかも。


(仲良しね)



 コホンと咳払いをして、スノウ家の長男が口を開く。


「レイラさんにお願いしたいのは、いろいろな不安があるからなのです。それと、頻発している子供の誘拐に繋がる可能性もあると思います」


「えっ? この臭い物体が?」


「ええ、これは、サーフローズという植物です。未開拓の森林には、この群生地が多いのですが……」


(サーフローズ?)


「あっ! あの甘いハーブティね」


「ええ、コルスが昨日お土産に持って行ったようですが、スノウ薬師学校の若い先生がお茶にすると美味しいことを発見されました。卒業生のアーシーさんならご存知でしょう」


 スノウ家の長男は、アーシーに同意を求めるように視線を向けた。その視線に驚いたのか、アーシーの頬は少し赤い。


(あっ、そう言えば……)


 アーシーからハーブティの話を聞いたとき、学校の先生の話をしたときの彼女は、なんだか少し違って見えたっけ。


(先生のファンなのかも)


 アーシーは、うつむいてしまったから、私が何とかしなきゃね。彼女は、基本的に内向的というか、おとなしいもの。




「話を戻してもいいかしら? どのような不安があるのですか」


 私がそう尋ねると、スノウ家の長男は、私に視線を戻した。


「レイラさんが恩人の子供を捜していると、コルスから聞きました。誘拐から少し時間が経ってしまいましたが」


「ええ、捜していますわ。その坊やのお婆さんが、痩せ細ってしまっているの。坊やが今どこにいるかだけでも、知らせてあげたいと考えています」


「ほう! それは何とも……」


(疑っているわね)


 ハワルド家の娘が、そんなことを考えるわけがない。まさしく、そういう疑いの目だと感じた。まぁ、スノウ家を継ぐ長男なんだから、これくらいじゃないと、逆におかしいわね。



「おい、兄貴! 失礼だぞ。レイラさんは、とても心優しい人なんだ」


「あぁ、そうだったね。剣術学校の校長からも報告を受けている。レイラさんが禁忌の特有能力を使って、襲撃者を無力化してくれたんだったな」


(禁忌って……)


 大げさに伝わっている。ここは、少し訂正すべきね。


「カイルさん、その認識は少し違いますわ。確かに特有能力は、日常的に使うものではありません。ですが、禁忌というわけではないので、適切に判断して、必要なときには使いますわ」


「そ、そうでしたか。ご指摘を感謝します。えーっと……」


(ビビらせちゃった)


 彼は、考えが顔に出やすい人みたい。


「兄貴! その態度も失礼だ。レイラさんは、俺達に対して、特有能力は使わないぜ」


「あぁ、そうだな。レイラさん、失礼しました」


 スノウ家の次男のこの信頼は、少し重いんだけど。私は、軽く笑顔で流しておいた。




「それで、不安というのは?」


「あぁ、すみません。話を戻します」


 スノウ家の長男は、軽く咳払いをして、姿勢を正した。


「最近、サーフローズの採取の報酬が上がっているので、駆け出し冒険者は競うようにして依頼を受注してくれます」


「冒険者ギルドのことですね?」


「はい。薬師ギルドでも受注できますが、こちらでは受注する人は少ないです」


「なるほど」


 未開拓の森林に群生地があるなら、薬師なんかが行くわけがない。どんな魔物がいるかわからないんだから。


「ですが、予期せぬ怪我人が増えているのです。魔物ではなく、人に襲われて、瀕死の状態で戻ってくる冒険者が、日ごとに増えているように感じます」


「近くに盗賊のアジトでもあるのかしら?」


 私がポツリと呟くと、スノウ家の長男は、神妙な表情で頷いている。適当に言ったのに、当たっちゃったのね。



「冒険者ギルドマスターも、一度、様子を見に行ったようです。だが、顔を知られている彼がうろついても、襲撃は受けなかった」


「なるほど。確かに、ギルドマスターを襲う盗賊なんて、いないでしょうね」


「ええ、それで、あまり顔を知られてない俺が行くべきだということになったのですが、護衛を連れていくわけにもいかず、しかし、そこまで剣ができるかと問われると……」


(強そうだけど?)


 スノウ領には学校がたくさんあるけど、スノウ家が何に秀でているのかはわからない。まぁ、たぶん、目立つ特徴がないのよね。



「レイラさんなら、剣術は強いよな」


 突然、スノウ家の次男が、得意げな顔をした。


「コルスさんよりはね」


「おっぷ、それを言わないでくれ〜」


(子供みたいな顔してる)


「精進しなさいよ」


「うぇーい」


 彼らがここにいた意図はわかった。私に同行するという形で、調べに行きたいのね。


(あっ! いいこと思いついた!)



「初ミッションは、同行者を選ぶことは可能かしら?」


「あぁ、ある程度は選べるぜ。薬師ギルドに登録している人がありがたいけどな」


「ん? 冒険者ギルドと一部統合したんでしょ? あっ、コルスさんの人脈の関係?」


 私がそう指摘すると、彼は、また子供みたいな悪戯っ子な顔をしてる。お兄さんがいると、いつもと違うのね。



「レイラさん、弟の人脈の問題もあるのですが、冒険者ギルドで活躍している冒険者が同行しても、襲撃を受けないと思うんですよ」


(わかってるよ)


 スノウ家の兄弟は、よく似ている。二人とも、真面目で優しいのね。


「じゃあ、薬師学校の先生ならいいかしら? あのハーブティを発見した先生に会ってみたいわ」



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