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29、スノウ家の甘すぎる判断

「それって、コルスさんが危険じゃない! スノウ領の薬師ギルドが、運営を再開できるとは思えないわ」


 私は、思わず反論していた。


 失礼だったかもしれないけど、スノウ家は、薬師を襲撃する首謀者をまだ見つけてない。それに、スノウ家自体も狙われているかもしれない。


 暗殺貴族イブル家だけでなく、他にも依頼する財力がある者で、スノウ領の薬師を全滅させようと考える首謀者。そんなに多くの候補はないはず。それなのに特定できないのが、スノウ家だ。


 それに、責任者についても、冒険者ギルドがお兄さんで、コルスさんが薬師ギルドという判断をしたことが、気に食わない。所詮、次男はスペアということね。



「レイラさん、心配してくれてありがとう。俺が責任者に就くことで、薬師ギルドは再開できたんだよ。それに、そのための体制変更だからね」


「でも、スノウ家には……」


「レイラ様!」


(あっ、やばっ)


 シャーベットが私を制止してくれなかったら、思いっきり失礼なことを言ってしまうところだったわ。


 私が反省したことを確認したシャーベットが、アーシーを小突いている。



「あ、あの、薬師ギルドの責任者さん、私はアーシーと申します。今年、スノウ薬師学校を卒業したのですが……」


「おぉ! 貴女がアーシーさんですか。最年少の調合師ですよね。それに、薬師ギルドの登録薬師ですね。冒険者ギルドとの一部統合により、ランク制に変更したんですよ」


(アーシーも有名なのね)


「案内が届いていました。カードの切り替えが必要だと。あの、どのように変わったのですか?」


 また小突かれて、アーシーは質問を加えたみたい。聞きたいことがあるなら、シャーベットが自分で尋ねればいいのに。



「これまでは、薬師ギルドは特級、上級、中級、初級の級制でしたよね。冒険者ギルドとの統合のため、これまでの級は経験値として引き継ぎ、現時点の能力測定をして、ランクを決定します」


「冒険者ランクの最低ランクからにはならないと書いてありました。統合というのは?」


「以前は、薬草の採取は冒険者ギルドが受注していました。ですがこれからは、薬に関する素材はすべて薬師ギルドで受注します」


「えっ? 私達が、薬草を摘みに行くのですか!? あっ、薬草だけじゃなく、他の素材も?」


 アーシーは、すっごく衝撃を受けてるみたい。薬師に素材集めは無理でしょ。だから、統合したのよね? 


「薬師さんは、これまで通り、調薬をしてもらえたらと思います。もちろん、採取に行くミッションを受けてもらってもいい」


「スノウ領内で薬草採取なんて、無理です。絶対に魔物が出るもの」


 なぜか、アーシーは過度に不安になってるみたい。ふと、シャーベットの視線を感じた。今度は私に何かを言わせたいのかしら。


 私が何も言わないためか、シャーベットが口を開く。



「薬師ギルドにも冒険者が出入りする、という体制変更なのですね。確かに、薬師ギルドは従来よりも安全になるわね」


(あー、そういうことか)


 私は冒険者のことはよく知らないけど、薬師は護身用の短剣さえ持っていない人が多い。剣を装備した人が出入りするだけでも、襲撃の抑止効果はあるのかもしれない。


 だけど、薬草採取をするような冒険者って、強いのかな? 新人冒険者が出入りするだけなら、はっきり言って意味はないと思う。


「はい。冒険者が出入りし、俺が責任者をすることが知られたら、薬師ギルド自体が狙われることはなくなると考え、スノウ家の当主が体制変更をしたのです」


(甘いわね)


 スノウ家の当主の頭は、お花畑なのかしら? こんなに危機感がないから、簡単に襲撃されるのよ。それに、隣接するノース家より爵位は高いはずなのに、いろいろな点が劣っているのよね。


 まぁ、それだけスノウ領が平和だということだろうけど。



「スノウ家の当主様の判断に物申すつもりはないのですが、それだけでは不十分だと感じますわ。レイラ様はいかがかしら?」


(私に言わせたいの?)


 シャーベットの地位はよくわからないけど、私から言う方がマシなのは確かね。



「レイラさん、不十分かな?」


 スノウ家の次男は、一気に不安そうな表情に変わった。それに、調薬作業を終えたのか、スノウ家の薬師達も、私達の会話に耳を傾けているみたい。


(話し方に気をつけなきゃ)



「私は、冒険者ってよく知らないんだけど、薬師ギルドに強い冒険者が出入りしないなら、体制変更をしても、あまり意味がないと思うわ」


「薬草採取は、登録したばかりの冒険者でも受注できるものが多いかな。魔物の皮を使う薬もあるから、それなりに強い冒険者も出入りするよ」


「その強い冒険者は、イブル家の刺客でも防げるのかしら?」


「い、いや……そうか、暗殺者対策は、闇ギルドか裏ギルド。だけど、スノウ領は、どちらも……」


 スノウ家の次男は、そこで口を閉じた。どちらも、あるはずよね? その違いは知らないけど、スノウ領の未開拓地には、いろいろな怪しいアジトがあると聞く。だけど、それをスノウ家は把握できてない。



「それなら、レイラ様も登録されたらいかがかしら?」


(はい?)


 シャーベットが、突然、意味不明なことを言い出した。


「私がなぜ、冒険者なんて……」


「あら? 多くの学生は、夏休みには冒険者をしているみたいですよ。社会勉強になるし、人脈も広がるわ」


(なるほど、それが狙いね)


 シャーベットは、私があの薬師の坊やを捜しに行くつもりだと気づいている。アルベルトだって気づいたんだもの。


 確かに、やみくもに捜すより冒険者として動く方が、情報も入手しやすいわね。



「レイラさんが薬師ギルドに出入りしてくれたら、これほど心強いことはないよ。クラスメイトにも話したことがあるんだけど、既に冒険者をしている人は、薬草の採取なんてしてくれないんだ」


「でも私は、何もわからないんだけど」


「大丈夫だよ! ちゃんと俺が説明する。それに、レイラさんが薬師ギルドに出入りしてくれたら、クラスメイトも皆、絶対に来てくれるから」


「そう、なのかな?」


「あぁ、絶対に集まる。10人以内でパーティを組むと、少し難しいミッションも受注できるんだ。レイラさんとパーティを組みたい冒険者が集まってくるよ」



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