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25、屋敷に戻ると……

「痛いの! シャーベット、助けて!」


 私は、転移魔法陣を使って屋敷に戻ると、着地点の裏庭でそう叫んだ。この場所での会話は、屋敷内の何ヶ所かに聞こえるようになっているためだ。


 慌てたシャーベットが、すぐに裏庭に来てくれた。



「レイラ様、どこが痛いのですか。学校で何がありました?」


「胸が痛いの。息苦しいの。助けて」


「わかりました。すぐに調合室へ。歩けますか? えっと、アルベルトさんは、まだ学校でしょうか」


(アルベルトの話はしないで!)


 私の胸は再び、ギューっと締め付けられるように苦しくなってきた。こんな経験は初めてのことだ。


「……歩けるわ」


 そうは言ったものの、目の前が白くなったり暗くなったりしている。私は気持ち悪くて、その場にうずくまってしまった。


(どうなってるの?)



 シャーベットと一緒に出てきた薬師達が、手際よく私を担架代わりに使う頑丈な布に乗せ、そのまま調合室へと運んでいく。


 そしてシャーベットは、私について歩きながら、魔道具を操作してる。私の状態を調べ始めたみたい。彼女が持つ魔道具からは、いろいろな光が見えた。


大事おおごとになってしまったわ)



 私は、アルベルトから逃げるように転移魔法陣のある部屋へ行き、そのままの勢いで、屋敷に帰ってきただけだ。


 それなのに、呼吸をすることさえ難しくなってきた。調合室へ運ばれる途中で、私は、意識を失ってしまった。




 ◇◇◇




「あっ、あれ?」


 私は、甘いハーブの香りの中で目覚めた。


「レイラ様、ハーブティはいかがですか? 今、サーフローズのハーブティを淹れたところなんです」


(あっ、アーシー?)


 私は、調合室の奥にある個室のベッドに、寝かされていたみたい。シャーベットの娘のアーシーが付き添いをしてくれていたのね。あっ、二人が母娘だということは、秘密だっけ。



「ありがとう。いただくわ」


 私がそう答えると、彼女はやわらかな笑みを浮かべた。以前、私の誕生日に会ったときとは服装が違うからか、かなり若く見える。調合師の認定を受けたと言っていたから、薬師学校は卒業しているはずだけど。


 この世界では、一部の貧民以外は、15歳から3年間は学校に通う。前世でいえば高校に当たる年齢だけど、高校というわけでもない。この年齢のときに自分に合う学校に通うことを、王家が定めている。



「レイラ様、どうぞ」


「ありがとう、いい香りね。サーフローズって、初めて聞いたわ」


(味も甘いわね)


 赤い色のハーブティは、香りだけでなく、まるでハチミツでも入っているかのように甘い。だけど自然な甘さだ。


「これは、スノウ領の森林で最近発見されたものなんです。生花の状態だと、強烈な悪臭を放つのです。それが、乾燥させてお茶にすると、こんなに甘いんですよ」


「へぇ、不思議ね。全く臭くはないわ」


「ええ、不思議ですよね。これを発見したのは、スノウ薬師学校の先生なんです。スノウ領には未開拓の森林が広がっているので、まだまだ不思議な植物がありそうです」


(あら? なんだか……)


 先生の話が出てきた時のアーシーは、少し様子が変わったように見えた。


「アーシーは、スノウ薬師学校の卒業生なの?」


「はい。今年の春に卒業しました」


「じゃあ、18歳なのかしら?」


「はい、あっ、もうしばらくすると、19歳ですが」


「アーシーは、私より3つお姉さんね」


「えっ? あ、はい」


 私がハーブティを飲み終えるのを見計らったように、シャーベットが個室に入ってきた。



「レイラ様、胸の痛みはいかがですか」


「もう大丈夫よ。なぜ私は倒れてしまったのかしら」


 シャーベットは、個室の扉をゆっくり閉めた。そして、防音結界の魔道具のスイッチを入れたみたい。


(何? 私って、マズイ病気なの?)



「あら? サーフローズ?」


「はい、シャーベットさんも飲まれますか。あっ……」


 シャーベットは、もう自分で注いでるわね。でも母娘なのに、ここでは、シャーベットさんって呼ぶのね。



「シャーベット、防音結界を作動させた?」


「はい。調合室には、スノウ家の薬師が来ていますからね」


「へ? なぜ、スノウ家の……あっ、薬不足なの?」


「ええ。スノウ領から薬草を買うことが多いので、こういうときは協力しているのですよ」


「そう。スノウ領は、薬草の一大産地だもんね」


「珍しい毒薬草も多いですね」


 こんな話をしながら、シャーベットは、私に魔道具の光を当てている。また検査しているみたい。そして、何度か頷いてる。



「シャーベット、私の体調は……」


「もう大丈夫なようです。レイラ様、特有能力の発動を無理に抑制した直後に、転移魔法陣を使いましたね? 過度なストレスの痕跡があります」


「あー、うん、そうね」


「ハワルド家の特有能力は、非常に強力なのです。発動を抑制すると、身体からオーラとして漏れてしまいます。その状態で転移魔法陣を使うと、身体が転移のマナに覆われ、着地後はオーラと共に体内に取り込まれます」


「む、難しい話ね……」


 あっ、そういえば、転移魔法って、身体が弱っている人には負担になるんだっけ。特有能力は、精神支配の術。それに私は、アルベルトに婚約破棄するって言っちゃって……。


「魔法の構造をご存知ないと難しいですよね。抑制した術と転移魔法陣のマナが結び付いて変質し、レイラ様に逆流したようです。非常に危ない状態でしたよ。しかし、なぜ、これをレジストできなかったのか……」


(あっ、確かに)


 こういう逆流は、特有能力が使えるようになった幼児期に起こりやすい。だけど、成長と共に、その逆流を防ぐ耐性を得たはず。


 考えられる理由は、一つしかない。



「レイラ様、何があったのですか」


 シャーベットには、見透かされている気がする。


「あー、うん……」


「私がお邪魔なら退出します」


「あっ、別に、アーシーがいても大丈夫。アーシーも、私の味方よね?」


 そう尋ねると、アーシーは思いっきり頷いてくれた。


(ふふっ、ちょっと嬉しそう)



「あのね、私、アルベルトに婚約破棄するって言ってしまったの」


「えーっ!? なぜ、そんな……あっ、すみません」


 アーシーは大声で叫んだけど、シャーベットは知っていたかのように、軽く頷いた。


(やっぱり、見透かされていたわね)



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