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18、スッキリしちゃったレイラ

「あぁ、やはり貴女でしたか。正面の校門にいた襲撃者達が全員、泡を吹いて倒れましたが」


(この人、誰だっけ?)


 隙のないたたずまいから、かなり強い剣士だとわかる。見たことはあるけど、直接話したことはない40代くらいの男性。


「ええ、襲撃者が妙な術を使っていたから、私が乗っ取ったの。術を上書きして変質させたから、このオジサンが支配していた人達に伝わってしまったみたい」


 私がそう説明すると、剣士風の男性の表情から、血の気が引いていくのがわかった。


 私をバケモノを見るような目で見ないでほしい。そう感じたのは、私が冷静な証拠ね。前世の私の感覚だ。15歳までの私なら、畏れられることは快感だったけど。



 次々と先生達が、中庭に移動してきた。そして剣士風の男性に、軽く会釈している。


「校長、これは一体……」


(あっ、そうだった。校長だわ)


 先生の言葉を、校長が手で制した。


 先生達は、私の素性は知っているだろうけど、私の能力は知らないと思う。だから制したのね。でも、隠すことじゃない。



「校長先生、この術者と繋がりのない襲撃者は、倒れていません。あと21人いますが、どうしましょう?」


「えっ? なぜ、そんな数がわかるのですか?」」


「数えました。このオジサンが使っていた術の一部は、乗っ取ったまま維持しているので、今、私の目には、校内全体が透明になったように見えています。泡を吹いて倒れている人達が連れてきた荒くれ者だろうから、大半は逃げ出すでしょうけど」


「そうですか。スノウ剣術学校としては、雇われただけの者でも、襲撃者は許しません」


 校長がそう言った瞬間、先生達はあちこちに散って行った。倒れている襲撃者が目印になるから、私は場所は言わなかったけど。


(ちゃんと捕まえてるわね)




 私は、チラッとアルベルトの様子を見た後、目の前にかしずくイブル家の子息に視線を向けた。


(一応、大丈夫ね)


 アルベルトは、やはり斬られていたみたい。でも毒は受けてないかな。イブル家の攻撃は、そのテリトリー内では、普通は避けきれない。術の展開中はその範囲内では、圧倒的に術者が有利だもの。


 つまり、それを乗っ取って上書きした今、私が一番有利な状況にある。今だけは、私がこの範囲内では最強だと思う。こんなことができるから、ハワルド家はバケモノ扱いされるのよね。



『なぜ、ここに来た?』


 再び尋ねたけど、彼は何も答えない。私の絶対服従では、相手に耐性があると、行動を止める効果しかないみたい。


(確かに、私は出来損ないね)


 おそらく姉が使えば、簡単に口を割らせることができるはず。でも喋ってしまうと、この人は、イブル家の兄弟姉妹に殺されるわね。


 術の乗っ取りは、実戦では初めて使ったから、こんなものかな。むしろ上手くできたと褒めて欲しいわ。


(面倒くさくなってきた)


 私には、イブル家の子息を尋問する意味はない。襲撃の理由はわかってる。イブル家の誰かが、薬師によって何かされた報復だろう。その詳細に興味はないけど……。




『学校を襲撃した理由はどうでもいい。ただ、私の恩人を殺した件については、私は知る権利がある。もし、何の罪もない人を巻き込んでいたなら、絶対に許さない!』


「クッ……すべて知っているということか。これはイブル家のプライドの問題だ。無関係なお嬢ちゃんが口を出すことではない」


 かしずいたままでも、口は自由に動くのね。私が、その言葉に共感すると考えたのかしら。確かに、15歳までの私の感覚は、イブル家のプライド問題なら仕方ないと思ってる。だけど……。


『私は、アナタ達のプライドの話に興味はない。私の恩人や友達を理不尽に殺したら許さないと言っているの。報復するなら、アナタ達を害した者だけを断罪すればいい。薬師を全滅させようとする愚行は、誰が考えたわけ? 報復相手を見つけられないほど、アナタ達は無能なの? さすがイビルね。人の知能を持たない魔物と一緒だわ』


(ちょっとスッキリ)


 いつもアルベルトに対して、暴言を吐いてしまう私だけど、学校の襲撃を率いていたイブル家の子息になら、嫌味を言ってもいいよね。しかも乗っ取った術に乗せて話してるから、直接頭に響く念話だ。他の人達には聞こえないはず。



「クッ、クソガキがぁっ! わざとイビルと言ったな? 俺達の誇りを……」


『どっちでもいいじゃない。学校を襲撃するような愚か者に、誇りなんてあるの? それってほこりの間違いじゃない? あっ、ゴミというべきかしら? 腐った生ゴミかもね。はぁ、くっさいわ〜、迷惑だわ〜』


(絶好調だわ)


 私は、前世の記憶が戻ってからは、暴言や嫌味を言わないように努力していた。そのストレスも、これでスッキリね。



「お嬢様、それ以上は……」


(ん? 何?)


 アルベルトが、何かの合図をしてきた。耳を指差して、空をクルクル?




「こちらも襲撃者ですね」


 鎧に身を包んだ兵が、中庭に現れた。胸につけている紋章から、スノウ家の兵だとわかる。


「おまえら、俺に触れると死ぬぞ!?」


 イブル家の子息は、私にかしずいているのに、兵を脅してる。なんだか笑ってしまうわね。



「お嬢さん、この者を拘束できませんか」


(拘束してるじゃない)


 私が首を傾げると、アルベルトが口を開く。


「彼は、拘束しても無駄です。お嬢様の術のテリトリーから出ると、何を使って拘束していても逃げますよ。移動できたとしても、牢に繋ぐことは不可能でしょう。逆に危険です」


「まさかとは思いましたが、本当にイブル家か……」


「ええ。おそらく、ワノルド・イブル様でしょうね」


(イブル家の末っ子ね)


 30代後半に見えるけど、これは変装か。ワノルド・イブルは、乙女ゲームにも登場する。確か、悪役令嬢レイラ・ハワルドの下僕のような存在だったと思う。年齢的には、レイラより少し上だったはず。



「それは困る。これから十分を制裁も受けるでしょうから、この者は諦めます。他の襲撃者だけを連れ帰ります」


(失敗した制裁ね)


 すると、校長が口を開く。


「術の範囲内に彼女の言葉が届いたようだからな。イブル家の子息が全力で襲撃しても、たった一人の学生にねじ伏せられたことが知られたね」


(えっ、念話が……聞こえたの!?)



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