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17、威圧、その実態は術泥棒

「中庭にも襲撃者が現れたのか!?」


「どうする? この校舎もヤバいよね」


「あっ! 中庭にスチールがいるよ! あの子の家は、薬師一家だ」


(スチール? 黒髪の人だっけ?)


 クラスメイト達は、中庭を見て騒ぎ始めた。学生の集団の中に、黒髪を見つけた。彼の周りにいるのは、上級生かな。彼を守っているように見える。



「なぜ、学校を襲撃するんだよ? おかしいだろ。ここは剣術学校だぜ」


(確かに。でも、あー、なるほど)


 スノウ家の次男の表情が暗い。この学校を、生き残っている薬師の避難場所にしたのね。彼が提案したのかもしれない。


 昨夜だけでスノウ領にいる薬師をすべて襲撃することは不可能だ。つまり昨夜から、奴らの計画が実行され始めたということね。



「みんな、ごめん。スノウ剣術学校は安全だと思ったんだ。だから家を失った人や、まだ襲撃を受けてない人が、集まってる」


「その情報が、奴らに漏れたということか」


「だろうね。しかし、こんなに早く……」


(甘いわね)


 でもこれで、イブル家が潰されてないことがハッキリした。指揮する者がいなければ、こんな迅速に連携した襲撃はできない。それに何より、点在する薬師の居場所なんて、わからないはず。


 この件にはイブル家の当主、あるいは、その子息が関わっている。暗殺貴族に特有の個別能力。これは、その血が濃くないと現れない能力だもの。


(イブル家の能力は、特殊サーチだっけ)


 対象者がどこに逃げても、必ず探し出す嗅覚系の能力だったはず。魔物並みの嗅覚だから、中庭にいても校舎内のことは、だいたい把握できるだろう。


 この校舎に入ってくる者がないのは、臭いを探れない私がいるからかも。




 さっきの上級生が、中庭に飛び出して行くのが見えた。ちょうど逃げてきた学生を校舎に誘導して、剣を構えてる。


(無理ね)


 あの上級生は剣術には自信があるみたいだけど、襲撃者との相性が悪い。一瞬で、地面に突っ伏した。


(ほらね)


 襲撃者は、上級生を殺す気はないみたい。むしろ、2階から覗いている私達に殺気を向けている。


(でも、来ない)


 私達を睨みつけたけど、校舎には入らずに背を向けた。彼の役割は、中庭にいる薬師の子を逃がさないようにすることなのかな。


(どこにいるのかしら?)


 どの学生が薬師の家の子かがわかるのは、サーチに長けた魔導士と、イブル家の血を濃く引く者だろう。


 サーチ魔法の発動はない。

 ということは、近くにイブル家の子息がいるはず。



「あっ! スチールが……」


 窓からクラスメイトが、彼に校舎に入れと指示したのかもしれない。黒髪の彼がこちらに走って来るけど、待ち構えている襲撃者が見えてない。


 それに気づいたアルベルトが、慌てているのがわかる。彼の近くには3人の襲撃者がいるのに、その相手を上級生に任せて、こっちに駆け寄ってくる?


(ん? この動きって……)


 地面に倒されていた上級生が起き上がり、待ち構えている襲撃者に切り掛かった。その瞬間、襲撃者がまるでワープしたように消えた。だけどすぐに現れて、また上級生は倒されている。


(アルベルトの焦りは……そういうことか)


 やっと追いついたアルベルトが、その襲撃者と対峙した。私の直感が正しければ……。



「スチール! 逃げろ!」


 スノウ家の次男が叫んだときには、もう遅かった。だが、彼に斬りかかった剣を、アルベルトが何とか止めていた。でも受けきれてない。アルベルトは一瞬、顔を歪めた。どこかを斬られたのね。


 襲撃者は、邪魔したアルベルトに、強い殺意を向けた。いや、マーキングされたというべきか。


(アルベルトが殺される!)



 咄嗟に私は、窓枠に足を掛けていた。


「レイラさん?」


「ちょっと行ってくるわ」


 私は、2階の窓から、中庭へと飛び降りた。




「なっ、なりません!」


 私の姿を見たアルベルトが、より一層、慌ててる。私の名前を呼ばないのは、素性を知らせないためね。だけど、そんな必要はない。


「貴方には無理よ。見えないでしょ?」


「見えています! 大丈夫です」


「相性が悪いと言ってるのよ。それに、その子は私のクラスメイトだから。せっかく名前を覚えたのに、殺されたら私の苦労が無駄になるわ。職員さんは引っ込んでて」



「ふぅん、キミは誰かな? 何が見えてるって?」


 襲撃者は、私にも殺意を向けた。そして、変な顔をしてる。


(ふん、甘いのよ)


「アナタは、何をしに来たの? ここは剣術学校よ? 学校を襲撃するなんて、変態よね?」


「は? ヘンタイ?」


(ふっ、乗っ取ったわ)


 気が緩んだ一瞬の隙に、私は、襲撃者が使っていた術を乗っ取った。これが私達ハワルド家の能力。通称、威圧。その実態は、術泥棒なのよね。



 私は、パチリと指を鳴らす。


(へぇ、学校全体が丸見えね)


「な、何をした? 声が聞こえない。おまえは……呪術士か? あっ、闇魔導士か?」


「私は魔法は使えないわ。ほんと、バカね。アナタのような小者が、私に逆らうつもり? 笑うしかないわね」


 キンッ!


 私は、襲撃者が放った飛び道具を、護身用の双剣で叩き落とした。すると、彼は思いっきり目を見開いた。私には見えないと思ってたみたい。


「な、なぜ、俺の……」


「アナタは遅いんだもの。イビルかと思って、警戒しちゃったわ」


「イビルじゃねぇ! イブルだ! あんな頭の悪い魔物と間違えるな!」


(あら、ほんとに怒るのね)


 一番上の姉が、イブル家の子息は、悪魔系魔物のイビルと言い間違えられることを嫌うって言ってたけど。


「別にイビルでもイブルでも、どっちでもいいじゃない」


 私は話しながら、襲撃者に丸い球体を全力で投げつけた。


(まぁっ! ほんとに引っかかるのね)


 襲撃者は条件反射のように、その球体を剣で斬った。姉が言っていた通りだ。強いハーブの香りが広がる。これでもう、嗅覚を利用する彼らの能力は、新たに使えない。



「なっ……チッ!」


 襲撃者が逃げようとしたけど、逃がすわけがない。私は、乗っ取った術を上書きする。


 威圧の派生能力、絶対服従。


『何をしに来た?』


「おまえ! ハワルド家の出来損ないだな? クソッ! クソガキが!!」


 そう言いつつ、彼は私の前でかしずいている。彼と繋がっていた他の襲撃者達には、刺激が強かったみたい。泡を吹いて、ぶっ倒れちゃった。



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