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14、最高の時間

「レイラ様、お優しい言葉をありがとうございます」


 アルベルトはそう言うと、ニカッと笑った。これまでには見せたことのない表情。少年のような嬉しそうな笑顔ね。


(これもカッコいい)


「別に、優しい言葉なんかじゃないわ。優しいのは、アルベルトの方でしょ!」


「えっ!? ありがとうございます。レイラ様にそう言っていただけると、舞い上がってしまいますよ」


(また、少年みたいな顔してる)


 彼の感覚は、私と初めて会った頃に戻っているのかな。私が4歳ならアルベルトは14歳よね?



「それで、4歳の私は貴方に何を言ったの? 人生が変わるようなことを、幼い私が言えたとは思えないんだけど」


「それは……ふふっ、秘密です」


「私に隠し事をするの?」


 ぷくっと膨れっ面をして見せた。私が幼い頃によくやっていた顔だ。するとアルベルトは、懐かしそうに目を細めている。


 私が走って転んでいたなら、絶対にこの顔をしていたはず。そう思って試してみたんだけど、当たりね。



「レイラ様は、わざとその顔を作ってますね? そんな顔をされても話しませんよ。誰にも話したことのない大切な言葉です」


(バレてる)


「私が言ったことを、なぜ教えてくれないのよ」


「誰かに話すと、効果が消えてしまいそうですから」


「効果? 私は魔法なんて使えないわよ」


 私が反論すると、アルベルトはポンと手を叩いた。


「魔法の言葉だったのかもしれません。俺の夢が叶うまでは、話しませんよ」


(あっ、俺って言った)


 アルベルトは無意識みたいね。



「その夢は、いつ叶うの?」


「いつになるでしょうか。遅くとも10年以内には叶えたいですが」


「ふぅん。じゃあ、10年後の私の誕生日に話してよ? 約束だからね!」


(あっ、恥ずかしいかも)


 今、私は10年後も、誕生日をアルベルトと一緒に過ごしたいって言ってしまったのよね。


「はい、かしこまりました、レイラ様」


 彼は、やわらかな笑みを浮かべている。彼の反則級の笑顔のせいか、私の頬はカァァッと熱くなってきた。


(もうっ!)


 アルベルトとこんな風に話したのは、初めてのことだ。部屋の中の空気が甘い。なんだか本当の恋人みたい。



「でも、気になるわね。10年も待てるかしら」


 ふと、私の本音がこぼれてしまった。それを彼は聞き逃さなかった。アルベルトは、私のことをどう思ってるのだろう? 彼が14歳の頃からずっと、私のことを好きでいてくれている?


(それはないわね)


 何を言ったか全く覚えてないけど、そんな子供に、14歳の彼が惚れるわけないもの。


 私が言った何かによって、彼はハワルド家に仕えることになったのかな? そして、なぜか私の婚約者に選ばれてしまったのね。


 アルベルトにとって、これは幸せなことだったのかな。私と結婚すると、彼はハワルド家の一員になる。まぁこれを機に、私がポィっと、ハワルド家から放り出されるかもしれないけど。



「それなら、婚礼式の日にお話しますよ」


「私達って、いつ、結婚するの?」


 私がそう尋ねると、アルベルトの頬が少し赤くなったように見えた。私も一気に恥ずかしくなる。ただ、なんとなく聞いただけなのに。


「旦那様からは、レイラ様が卒業されてから20歳になるまでの良き日に、と言われたことがありますが」


「そ、そう。じゃあ、まだ先のことね」


「そうですね。それまでに私は、貴女に相応しい伴侶になれるよう努力します」


(もう充分だと思うよ?)



「えっと、アルベルトが婿入りするのよね?」


「はい。ん? どういう意味でしょう?」


「ノース家はどうするのかと、気になったから」


(私が、ポィッとされるかがね)



 彼は、少し迷ったような顔をしたけど、私を真っ直ぐに見て口を開く。


「レイラ様、これからお話することは、内密にお願いしたいのですが……」


「内緒話? わかった。私は口が堅いから安心して」


「はい、存じております。実は、ノース家を私が継ぐかは未確定なのです」


「そうなの? ノース様は、アルベルトを後継者にするために養子にしたんじゃないの?」


「ええ、そうなのですが、ノース家の血縁者から反対されているようです。父は一人っ子ですので兄弟はいません。兄弟がいれば、その息子が継ぐことでおさまるのですが」


「血縁者って?」


「祖父の一番下の弟が反対しています。父と歳が近い人なのですが」


(なるほどね)


 血縁者がいるのにアルベルトを養子に迎えたということは、その人にノース家を継がせたくないのだろう。こういうことがあるから、貴族同士の暗殺が減らないのよね。



「アルベルトは、どうしたいの? 私と結婚するということは、ハワルド家の手足になるということよ。ある意味、闇堕ちだわ」


「闇堕ちだなんて……そんな風には考えておりません。ただ正直なところ、わからないのです」


(正直すぎるわよ)


 今日のアルベルトは、いつもとは全く違う。恋人のような甘い空気感に戸惑ったり、こんな大切なことを打ち明けたり……。



「正解を探そうとするから、わからないのよ。アルベルトは真面目すぎるわ。もっと、ずるがしこく生きても良いと思う。貴方が望むモノは何なの?」


(あっ、失敗した?)


 アルベルトは、思いっきり目を見開いている。今の私の言葉は、前世の私が発したものだ。レイラらしくない。前世の記憶が戻ったとは想像もできないだろうけど。



「ふっ、また、同じことを言われてしまいました」


「ん? 同じことって、何が?」


 アルベルトは、頭をトントンと叩くと、なんだか恥ずかしそうな笑みを浮かべた。


「4歳の貴女にも、同じことを言われました。表現は少し違いますが」


「秘密だと言っていた言葉?」


「ええ。いつもの道を間違わないように歩くより、歩きたい道を歩く方が楽しいと、輝く笑顔でおっしゃっていました。そして、私が真面目すぎると」


(それが秘密の言葉?)


「ただの言い訳じゃないかしら。私はよく迷子になっていたもの」


「ふふっ、すぐに走り出してしまうからですよね。ですが、あの時の私には、レイラ様の言葉は衝撃でした。それに、他にもいろいろと言ってくださって……」


「何を言ったの?」


「秘密です」


「えー? また、秘密?」


 私がぷくっと膨れっ面をつくると、アルベルトは、楽しそうにケラケラと笑っていた。



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