子猫さまの可愛らしいおしりが少し苦手なお話し
ある日の仕事の帰り道で、お猫さまのファミリーに遭遇してしまった。
親猫さまに寄り添うように眠る子猫さま達。
季節は秋。だいぶ涼しくなったけれど夕暮れ前で陽射しは暖かい。
あまり人が通らない時間帯でもあり、油断しきっていたお猫さま達は急にやって来た人間に気がついてパニックに。
日向ぼっこしていたのを邪魔して申し訳ないのだけど、そこを通らないと家に帰れないのだ。
警戒する親猫さま。
ごめんね、そう思いながら進む私。ビクッと反応したかと思うと一目散に逃げる子猫さまたち。
「ここはワタシに任せてアナタ達はお逃げ――――――――」
親猫さまのシャーって声からは、そんな幻聴が聞こえるようだ。
私は威嚇されながら、お猫さま溜まりの道を通り抜けようとして気付いた。
逃げた子猫さまの中の一匹が逃げ込もうとしたのはすぐ近くの家の庭。
その塀の隙間から、逃げ込もうとしたのはいいのだが······出てる。
グレーと黒の縞々のおしりとしっぽだけがふるふると揺れている。
隠れきれてないとは気づかないまま、怖い人間がいなくなるのをジッと待ってるのだ――――――――
――――――――いや、違った。おしりを出した子猫さまの逃げた先に見えたのは、子犬さまだ。
何やら必死に自分の尻尾を加えようとグルグル回っている。
おやつにもらったワンコ用の飴が、おしりに着いてしまい、なんとか取りたいのだ。
尻尾のある動物あるある――――
――――よりによって何故ここで、このタイミングで起きた!
塀の隙間でおしりを出す子猫さまは、怖い人間とはしゃぐ? 子犬さまに挟まれてしまい、固まってしまったのだ。
親猫さまが子猫さまにキレる。
「どうして逃げないのよ、さっさと隠れなさい!」
言葉にするとそんな感じだ。むちゃな事を言わないであげて欲しい。
親猫さまの子猫さまは、いまもの凄い試練を同時に課されて時が止まっているのだから――――――――
――――――――それは私も同じだ。
最初の子猫さまの可愛いらしいふるふるのおしりを見ただけで、充分だった。
しかしその後に、回る子犬さま、固まる子猫さま、キレる親猫さまと立て続けに動物達の織りなすドラマを見せられ、頭がどうにかなりそうだった。
まさに悶え苦しむ光景。萌死、尊い、神だなんて、こうした状況を示す言葉のあれこれが浮かぶ。
仕事で疲れて帰って来た私の脳に、与えられたのは果たして癒やしなのか、劇薬か。
『何気ない日常、不意に訪れる景色が不幸ばかりとは限らない』
ただ、癒やしの光景は一つでいい。同時に展開されて、それを受け止められるほど、私の心は強くないのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――
この話しは実際に起きて見たことのある、ありふれた日常体験をもとにしています。
お読みいただいている皆さまも飼っている動物、お子さん方、かつて子供だったご自身や御兄弟姉妹の萌える姿をいくつか想像してみて下さい。
そしてその全てを同時に見せられた時に、果たしてあなたはどこまで耐えられるのでしょうか。
私はそんなあり得ない偶然を見せられた時は、耐えきる自身がありません。
『何気ない日常、不意に訪れる景色が不幸ばかりとは限らない』
先ほどそう述べました。しかし、もう少し書き加えるべきでしょう。
『何気ない日常、不意に訪れる景色が不幸ばかりとは限らない。しかし、癒やしのはずの光景もまた毒になり得る』と。
◇ ◇ ◇
童話的なお話しをつくるつもりが、日常のありふれたお話しになりました。
ジャンルもヒューマンドラマか、エッセイか、その他で迷いましたが何気ない光景を見て思ったことをそのまま書いたような作品ということでエッセイにさせていただきました。
小説家になろう内にも、犬派猫派や、いや〇〇派だよと、ほっこり作品溢れていますね。