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夕暮れ 2話

久しぶりに続きを書きました。全十話くらいで完結予定です。

 「はぁ」

 

 思わずため息が漏れるのを抑えきれない。放課後、特に部活に入ってない俺はさっさと帰り、日曜の計画を立てようとしていた。しかし帰る直前に、理科の田島先生に捕まってしまい、今の今まで化学準備室の整理を手伝わされてしまった。

 幸い整理自体は時間がかからず、20分ほどで終わってくれたが、もう既に鍵が閉められている可能性がある。うちの教室は他と比べると職員室の位置が遠いため、わざわざ取りに行くのは非常に面倒だ。なので、誰かが残っているうちに教室へ戻ろうと足を速める。しばらくすると、教室の扉の前まで着いた。誰かがまだ残ってないかと、教室の方を見ると


「あいつ何やってんだ…?」


 桔梗が1人で教室の掃除をしているのが見えた。


 「おい、何やってんだよ?」


 扉を開け、そう声をかけると、桔梗はビクッと肩を揺らす。俺が来るのが予想外だったらしく、質問には答えられないでいた。


 「確か今日の掃除当番は、西村と山中が居たはずだろ?」


 更に質問を重ねると、ようやく落ち着いたようだ。ツンと顔を上げ、すました顔をして答えてくる。


 「別に、大したことじゃないわよ。ただあの2人が、今日は用事あるって言うから1人でやってるだけよ。」


 その言葉に唖然とする。それと同時にちょっとした怒りが湧いてくる。


 「だったら誰かに言えよ。1人じゃ流石に大変すぎるだろ。」


 「別に良いわよ。掃除くらいで。それに他の皆んなも忙しいんだから、きっと迷惑だわ。」


 事もなげに言う彼女をみて、思わず溜息をついてしまう。そしてさっきから湧いてくるイラつきを発散するように、頭を掻く。そうする事で、ようやく自分が何に怒っていたのかが分かった。


 「なら、俺に言えよ。俺は別に迷惑じゃない。」


 自分が不甲斐ないとは常々思っている事だ。だけど、こんな簡単な事も頼ってもらえないのは流石に悔しい。俺の言葉を受けて、一瞬キョトンとした後、クスクスと笑い出す彼女。俺は今更ながらさっきの自分の言葉が恥ずかしくなってしまい、つい声を荒げる。


 「いいから!暗くなる前に終わらそうぜ!それで何すりゃ良いんだよ。」


 「そうね。後はちょっと雑巾掛けをすれば終わりよ。ありがとう、手伝ってくれて。」


 沈む夕陽を背に、ふわりと微笑む彼女につい言葉が詰まる。それはもしかしたら、このまま何もせずに居たら、この瞬間を永遠にできると思ったからかもしれない。





 掃除が終わると辺りはすっかり暗くなってしまった。軽く掃除するだけのつもりが、お互いつい熱が入ってしまい、想像以上に時間かかったのだ。

 帰り支度を始めている桔梗に、声をかける。


「人が良いのも結構だけどよ、これからは断ることも覚えろよな。てか、今までもこんなことあったのか?」


 桔梗は、有り余るスペックの割には随分と便利に使われることが多い。大抵こういうクラスのマドンナ的存在は、蝶よ花よと大切にされるものだが、案外こき使われるところを見かける。


「別に、毎回じゃないわ。今日はたまたまよ。たまたま。」


 特に大したことはないという様に話す姿は、これ以上は聞くなと言ってる様にも思えた。桔梗のことだからきっと、俺に心配をかけるのを嫌がっているのだろう。他人のことは、いっつも気にかけるくせに。

 聞くなと言われたことを、わざわざ聞きに行くほど馬鹿ではないつもりだ。だから変わりに、質問ではなく、お願いをする。

 

 「分かったよ。そういうことなら何も言うことねぇよ。でもよ、次からは誰かに何か頼まれたら、俺にも手伝わせろよ。」


 俺の言葉を聞いた瞬間、桔梗は口を開こうとする。しかし言葉は出てこず、吐息だけが代わりに吐き出される。先ほどまでの気やすさとはは打って変わり、こちらと目を合わせようともしない。口の端からは、音の出来損ないのような空気が漏れ出るばかり。何かは分からないけれど、何かを伝えてようとしている。それだけは分かったので、いつまでも待つ。そんな俺の意思が伝わったのか、とうとう桔梗が俺をまっすぐ見つめ、言葉を放った。


「まったく、あんたは本当に馬鹿ね。仕方ないから、次からも手伝わせてあげるわよ。だから、そうね、ありがとう。」


 途中までは、諦めたという風に話す桔梗。しかし、最後に放たれた言葉は、少つっかえながらも、確かな思いを伴って俺に届いた。


「そうだよ。俺は馬鹿なんだよ。だからこれからは、素直に俺を使っとけ。」


 暖かな言葉のせいか、沈む夕日のせいか、俺も桔梗もその顔に熱を持っていた。


誤字脱字の指摘、感想などいただけたら幸いです。

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