chapter4:くしゃっと笑うのは誰?
「ねぇ、明日も弾きに行くよね?」
また僕がうとうとし始めた頃に、ユキミが話しかけてきた。そこでちょうどラジオから、最近流行りの曲が流れてきた。眠気も重なり、テンポよく返事をしない僕の言葉を待つ間に自然と軽くユキミがそれを口ずさむ。
「え…上手くね?」
思わず下をのぞき込んだが、あくまでもユキミは流れてきた曲を軽く口ずさんだだけだ。そう、軽く。それでこの上手さなのか?新しい発見に戸惑いながらも、質問に答えた。
「残念だけど、ちょうど今日が僕の人生ラストライブだったんだよ、おめでとう最後のお客さん」
僕の言葉を聞いて、今度はユキミが勢いよくコチラを振り向く。
「なんで?延長してよ、明日一緒に歌いに行く!」
「そろそろ就活とかしなきゃなんだよ」
「ちょっとだけ延長して、お願い!今日弾いてた曲は、全部頭に入ってるから!」
いやいや、なんだよその能力。しかもさっきの軽さでの歌の上手さ。本当に今日は情報が目まぐるしい。しぶとくお願いされるのも眠くてめんどうだし、まだ夏休みの始めだし、結局渋々OKした。
「ほんとに?ありがとうコウタくん!」
本当に嬉しそうにくしゃっと笑うなぁ。ユキミの真似をして、僕もくしゃっと笑ってからかった。すると、また想定外の返答がきた。
「違うよ、これはコウタくんの真似だよ」
「僕の真似?」
またユキミがわざとくしゃっと笑ってみせる。昔からだよ…と小さな声で聞こえた気がしたが、深追いしなかった。
真似されて初めて、自分がくしゃっと笑っていることを知った。自分がどんな顔で笑うかなんて、知らないものだ。なんだか、明日から笑いにくいな。そもそも、僕ちゃんと笑ってたんだ、と自分で少し驚いた。
ロフトの斜め上に、リフォームでむりやり取ってつけたような天窓がある。朝は眩しくて仕方ないが、夜は少しだけ星が見える。僕も、ないよりあった方がいいと思ってた。案の定、星好きのユキミが気に入ったようだ。
「ここから星が見えるのいいなー!ここに住みたい!」
「だいぶ明るい星しか見えないし、そもそも帰れるなら明日にでも帰ってください」
忘れずにしっかりと突き放す僕に、また天窓に手を伸ばしてはしごの途中まで上ってきた状態のユキミがふくれっ面をしている。
「ロフトに上がらないって約束なのに、グレーゾーンのはしごにもそうやって長居しないこと!」
「ロフトじゃなくて屋根裏ね?ねぇ、もしモテたかったらタバコもやめた方がいいよ?」
「余計なお世話です、おやすみ!」
本日最後の言い合いをして、さすがにお互い眠りについた。
次の日、ユキミと一緒にライブをしたら、いつもより足を止めて聴いてくれる人がいた。ユキミも、本当に僕がきのう弾いていた曲を全部覚えていた。
そして、やっと妹から連絡が返ってきた。
『了解、私んちにいるってことにしとく!』
え、なんだその物分りのいい素敵なお友達的な模範解答。想定外だった、妹からそんな大人の対応が返ってくるとは思ってなかった。翌日には帰ってもらう作戦は失敗に終わった。しかも、週末だけの路上ライブだが、ユキミは来週も行く気満々だ。はあ…めんどくさいことが長引くことになった。




