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恋なんて、めんどくさい  作者: mi✩.*˚(みい)
2/10

chapter2:他人、ではない

5曲ほど続けて、おかわりのギターを弾いた。もういいかなと思い彼女の方を見ると、キラキラした笑顔で無言の圧力をかけてきたので、もう3曲おまけしてあげた。聴いているあいだの彼女は、微妙に僕でもギターでもない場所を見つめていた。ギターから発する音符をじっと見つめているようだった。



「ねぇ、まっすぐ帰るの?」


「ちょっと買い物しますけど」


「ひとり暮らし?」


「そう…じゃなくて、いつまで付いてくんの?」



さすがに僕も、少し語尾にイライラを隠せなかった。もう公園から50メートルくらい歩いたのだが、なぜか彼女が付いてくる。ちょっとシュンとした彼女が、切羽詰まって唐突に言う。



「付いてっちゃだめですか?」


「だめです」


「夏休みのあいだだけ!」


「え、期間長いし意味わからないです」


「夏休み限定で家出してきたの」


「うわ、ほんとに出た…めんどくさいやつ」



必死な彼女につられて、僕も本音が漏れた。めんどくさいことは避けて生きているつもりなのに、たまにそれは近寄ってくる。まず知らない人の、しかもひとり暮らしの家に転がりこもうなんて一般的に危ないだろ。それを2つ年下の妹と同じくらいの彼女が言っているのだ。なんだか急に、妹のことも心配になってきた。あとで久しぶりに連絡しよう。


すると彼女が、水戸黄門の印籠のようにスマホを見せてきた。



「最初似てるな、と思って聴き始めたの…あなたは、私のお友達のお兄ちゃんですね?」



いかにも最後の切り札的に見せつけられたその画像は、たしかに僕の妹と一緒に写る彼女だった。妹の友達…本当に彼女にとって切り札じゃないか。これでさすがに僕は夜の街に彼女を放置できなくなった。なんなんだこれ…めんどくさい。



「あなたを保護してるって僕は今すぐ妹に連絡するよ、どうする諦めて家に帰ったら?」


「大げんかしてきたの、絶対まだ帰らない」



そんな固い決意で出てきたのに、行くあてもないわけ? めんどくさいことを避けてソツなく生きてきた僕には、とうてい理解できない。



「はぁ…めんどくさ」


「ごめんなさい」


「じゃあ帰るね?」


「それは嫌!」


「はぁ…スーパー寄るよ」


「やったあ!」



道端で言い争うことさえめんどくさくなった僕の負けだった。その場ですぐ、家出中の友達を保護してると妹にメッセージを送った。あれ、名前がわからないや。スマホに目線を残したまま、仕方なく彼女に質問する。



「名前教えてくれる?」


「ユキミ!」


「みゆきじゃなくてユキミ?珍しいね」


「うん、コウタくんはよくいる名前だね?」


「名前まで知られてんのかよ…」



ユキミっていう友達だと、妹に追加で送信した。もう寝ているかもしれないと思って電話にしなかったが、もしすぐに返事が来れば早く解決する。早く既読になってくれと願いながら、なんだかナゾに嬉しそうな足音を斜め後ろに引き連れながら、スーパーへ向かった。



いつもなら缶ビール1本とタバコ1箱、翌朝食べるパンしか買わないから、カゴなど持たない。念のため入り口でカゴを手にした自分が気持ち悪い。さっき出会った瞬間から、終始ペースを乱されまくっている。せめて今日だけにしてくれと思ってスマホを覗くが、まだ妹は既読にしてくれていない。



一瞬目を離した隙に、ユキミが見当たらなくなった。マジかよ、妹の面倒見るより厄介すぎるだろ、子どもかよ。売り場をキョロキョロ見渡すと、隣の陳列棚の影からひょこっと現れた。



「あったあったー!私の残骸を回収するのが使命なの!」


一瞬の僕の心配をよそに、ユキミは誇らしげな笑顔で戻ってきた。


「残骸?」


「そう!冬が終わったのに売れ残った雪見だいふくを見つけたら、私が責任持って食べてあげるの♪」


「え、ユキミ…だから?」


「あ、コウタくん名前呼んでくれた!」


「いや、そうじゃなくて…」



自分の体温で溶けないように、ケースの端っこをつまんで持ちながら嬉しそうに振り返るユキミ。そして、ちゃっかり僕のカゴに入れる。必要以上に人と関わってこなかった僕には、ツッコミどころが多すぎて処理が追い付かない。なんだか返す言葉も見つからないうちに、気付けばカゴの中身は全部僕が会計していた。まあ、1日くらいいいか。



僕の缶ビールがぬるくなるくらいいつものことだが、ユキミが買ったアイスが溶けないように少し足早に帰らなければならなくなった。本当になんなんだ今日は…と思いながら歩いていると、ユキミがのんきに夜空を見上げて言う。



「私ね、雪も星も好きだけど、降ってくるのを同時に見れないのが残念なのよね…」



たしかにそう言われてみると、雪が降る日は天気が悪い。流れ星が降るような晴天とは同時に見られない。そんなこと考えたこともなかった。聞いた瞬間、あまりに価値観の違う僕らみたいだなと、漠然と思った。自分の名前に関わる事象までまるっと愛するような彼女と、いろんなことと関わらないようにしてきた、正反対な僕みたいだなと。

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