chapter1:夏の夜の出会い
街頭ビジョンの宣伝、ラジオ、テレビCM。
誰もがどこかで出会えるものばかり。
そんなものが溢れた時代だとは、わかってる。
それでも、この街中に彼女の声が降り注ぐ。こんな日がくるなんて、あの頃の僕らに想像できただろうか。
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『~♪•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪』
まだアスファルトにほんのりと熱が残る夏の夜に、人通りも程よくまばらな公園前の道。今日最後の曲を歌い終えて、自前のアコースティック・ギターをケースに入れる。週末のルーティーンだ。もちろん、いつも通りわざわざ足を止めて聴き入る人なんていない。いいんだ、もはやただのストレス発散のようなものだから。
こんな僕でも、少しの期待と、ほんの小さな夢を見て子どもの頃から弾いていたギター。まるで大きくなるにつれて、どんどん夏休みが短く感じるように、僕の夢もみるみる薄れていった。大人になるってそんなもんかなと思いながら、今日も路上ライブを終えた。大学三年の夏が始まる。いつまでも将来を考えず、宙ぶらりんに歌っていられる時期ではない。
ただ僕の気のせいでなければ、いつものルーティーンと違う点が一つ。ラストの3曲を、10メートルくらい離れた場所からじっと聴いている女の子がいた。でも勘違いだったら恥ずかしいし、人前で歌っておいてアレなんだけど、自分から話しかけるタイプでもない。しかもこんな時間に一人でいるのだ。まさか関わったら家出少女でした、なんてパターンにでもなったらそれこそめんどくさい。向こうだって僕が歌い終わるまで、この距離を保っていたのだ。誰も足を止めない弾き語りの男となんて、関わりたくないだろう。ルーティーンから少し外れる事象に違和感を覚えながらも、荷物をまとめ帰り支度を進める。
さぁ、行くかとリュックとギターケースを背負う。両手はスマホと飲みかけのペットボトルで塞がった状態。立ち上がった時 、突然小さめの靴音が駆け寄ってきて声をかけられた。
「…あのっ!明日もここで歌いますか?」
「え、僕、ですか?いや、明日は…」
「そしたら今、もうちょっとだけ弾いてもらえませんか?あなたのギター好きです」
「あ、ギター?歌じゃなくて?」
一瞬しまった、と本音が漏れた口を押さえる仕草を見せた彼女は、開き直って笑顔でもう一度言った。
「はい、あなたのギター好きです!」
まぁ、そこまでハッキリ言ってもらうとコチラもやりやすい。喉は疲れてきたし、今日はもう歌う気分じゃない。
「ギターだけでも良ければ、少し弾こうか」
「ほんとに?やったぁ!」
※
想定外の路上ライブの延長。これが、僕たちの出会った夜だった。




